測距射法 (測距射撃)



本項では、旧海軍の代表的なもう一つの射法である 測距射法 (昭和12年以前は 測距射撃 ) について、次の順序で説明します。



  1.測距射法の特徴  ← 現在の頁
  2.測距射法の前提条件
  3.測距離調定法
  4.初照尺決定から本射への移行まで
  5.本射中の修正要領
  6.修正の具体例




1.測距射法の特徴


(1) 使用射距離


測距射法の特徴は、何と言っても射距離決定の基礎データとして、常にその時点その時点での測距離を使用するところにあります。 これが変距射法との違いの最大の点でもあります。

つまり、その時の測距離の値に射撃指揮官が決定した修正量を加えて射距離とします。 したがって、その測距離の用い方と、修正量の求め方が課題となります。

まず測距儀が複数ある場合、どれか一つの測距儀のデータを使用するのか、複数の測距儀による平均値 (=平均測距離) を用いるのか、そして複数の平均値にしても、基線長によって異なってくる精度の問題をどのように処理するのか、などです。 また、電探 (レーダー) を使用する場合には、これと測距儀との重み付けをどのようにするか、などもあります。

そして、測距離データを刻々作図して行ってその時間経過によってそれらの点の中心線 (=測距中心) を用いるのか、あるいは最終測距離のデータをそのまま用いるのか、ということもあります。



(2) 測距射撃実施要領の概要


まず測距射法のイメージを掴んでいただくために、簡単な例でその流れを示します。


  a.測距中心を用いる場合の例





測距離として測距中心を使用する場合には、測距中心距離に当日修正量 (ここでは仮に a とします。以下同じ) を加えて初照尺とします。

そして試射第1弾において全遠弾を観測したとすると、次の測距中心距離に捕捉濶度bの修正、つまり a−b を修正した照尺で第2弾を発射し、これで全近弾を得たとします。

これにより目標を捕捉しましたので、捕捉濶度の半量の修正、即ち c=b/2 を高めて、a−b+c (=a+c) を測距中心に加えたものが本射第1弾の照尺となります。

これでもし本射第1弾が全遠弾となったとすると、d=c/2の修正を行えば夾叉弾が得られる可能性が高く、以後この修正量を測距中心距離に加えたものが適当な照尺(「適正照尺」と言います)として使用すれば夾叉弾が続くと予期されます。

今仮に a=+200、b=600 とすると、


初照尺 (試射第1弾)     = 測距中心距離+200
第1修正照尺 (試射第2弾) = 測距中心距離+200−600 = 測距中心距離−400
第2修正照尺 (本射第1弾) = 測距中心距離−400+300 = 測距中心距離−100
第3修正照尺 (本射第2弾) = 測距中心距離−100−150 = 測距中心距離−250



であったということになります。 そして、もしこの当日修正量 +200に誤りが無いとすれば、測距中心誤差は遠方向に 200+250=450 であったということです。



  b.測距離を用いる場合の例





測距中心を使用せずに、その時その時の測距離を用て射撃を行った場合の例は、上図の様な経過になる。 (この例では簡略のため当日修正量を考慮しないものとしています。)

上図の場合、夾叉弾を得るための適正照尺は、その時その時の測距離に −200 の修正を加えた照尺であって、測距中心と実距離との差は 約200 であることになります。

この時、もし夾叉、全近、全遠、夾叉というように弾着がふらつく場合は、これは測距散布誤差によるものと言うことです。 したがって、余りにも測距散布誤差が大き過ぎる場合には、この方法による測距射法は成り立たないことになります。

詳しくは次項で説明しますが、旧海軍においてこの測距散布誤差の大小による制限は、測距散布公誤と射心移動公誤の合併公誤が射弾散布公誤、即ち戦闘公誤の2倍以内 とされていました。







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最終更新 : 01/Jun/2015







水上射撃の射法理論

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