1.左右苗頭の計出方式左右方向の弾道修正(自速、風力、地球自転)と定偏修正、及び目標運動に対する左右見越を合わせて左右苗頭と言うことは射撃理論のところで説明しところであるが、この左右苗頭を各斉射における照尺に採用する方法として、次の4つの方式があります。 第1 は、射撃盤その他の計算機構により自動的に刻々の左右苗頭を計算し、方位盤の左右照準角と合計して砲旋回角として砲側に伝え、あるいは単独に左右苗頭として砲側に通知する方式です。 射撃指揮官による左右観測修正は、この計出苗頭の誤差を打ち消す作用をしますので、以後刻々計出する左右苗頭は概ね正確な値を示すことになります。 この方式は、射距離における変距射法と同じ性質を持つとみなすことができます。 第2 の方式は、独立した測的所において測的兵器を使用して刻々の苗頭を計出して使用するもので、射距離における測距射法と概ね同じ同じ性質を持つとみなすことができます。 射撃指揮官は計出左右苗頭の中心値誤差を観測修正によって打ち消すことにより、その後は計出左右苗頭の中心値に対する散布誤差と左右射心移動の合併交互が左右偏倚として現れることになります。 旧海軍では従来この方式を 連測苗頭法 と呼んでいましたが、射撃盤の発達とともに独立した測的方式が姿を消すことになったことにより、連測苗頭法も過去のものとなりました。 第3 の方式は、初照尺に使用する初苗頭のみを計算し、以後対勢の変化に伴う苗頭の変化を考慮しつつ弾着の偏倚を観測して苗頭指導を行う方式で、測距離における全量射法と同じ性質を持つとみなすことができます。 第4 の方式は、一部 (自艦速、定偏) を第1の方式で、その他を第3の方式によって行うもので、射距離における自変距射法と同じ性質を持つとみなすことができます。 この方式は、旧海軍の 距離苗頭盤 の様な指揮兵器を使用する場合に実施することが可能です。 2.初弾に対する苗頭修正旧海軍の射撃教範では、初弾に対する場合だけでなく、続く射弾についても一般的に次のように規定していました。 左右偏差の全量を行うを例とする。 ただし左右射心移動の大なる場合には過敏な修正を避けるか、その修正量を控えめにするを可とる。 射撃教範の規定ですので本来ならこれで十分なのですが、その一方で、同じく旧海軍の射撃参考書の中において次の様な理論を述べているものがありますので、参考までに紹介します。 初弾に対しては観測偏倚量の8割 〜 全量を修正する。 その理由としては、初苗頭は初弾の左右偏倚公誤と左右射心移動公誤の合併公誤によって偏倚します。 したがって真苗頭偏差量 (所要修正量) の最確値 d0 は次の様になります。 この d0 と d の関係を、『射法の要素』 の項で紹介したデータに基づいて算出すると次の様になります。
したがって、距間量の8割 〜 9割の修正を行うのが適当と言うことになります。 ただし初弾の左右偏倚量が公誤の4倍以上の場合には全量を修正するのが良いとされています。 その理由は、その様な大偏位弾は通常考えられる誤差ではなく、何らかの錯誤、又は突発誤差によるものと認めるべきであって、上の理論によることなく全量を修正する必要があると考えられるからです。 3.本射中の苗頭修正転舵時を除けば、射撃中の苗頭の変化は射距離のように短時間で大きな変化を生ずることはありません。 対勢の変化に伴って苗頭が変化する割合を 変苗頭率 (単位 : ミリイ/分) と言い、実際に起こり得る最大変苗頭率とその時の目標幅を計算すると次の様になります。
4.良好な弾着を得た後の左右偏弾に対する修正この場合において左右偏弾の生じた原因を分析すると、対勢による苗頭変化か、左右射心移動によるものか、また目標の変針変速によるものかの何れかであるか、あるいはその合併誤差かになります。 対勢による最大変苗頭率は上の表のとおりであるので、各対勢における苗頭変化量を事前に研究しておいて、左右偏弾の原因を看破して適当な修正を行わなければなりません。 旧海軍においては、一般に本射中の左右修正は過敏な修正を避け、やや控えめに行うことを有利としていました。 最終更新 : 03/Jun/2015 |