砲戦要務




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  戦闘中及び戦闘後の処置



 砲戦の準備


砲戦の準備は、臨戦準備合戦準備、及び 戦闘 の3期に分けて行うのが通常です。



  臨戦準備


臨戦準備において実施すべき主要な作業は、『海戦要務令』 (明治34年初版の第139条、及び大正元年第1次改正の第87項) により概ね次のとおりとされていました。


ア、人員の充実

イ、兵器、弾薬の搭載

ウ、次の各事項の検査

    (ア) 砲装各部及び照準器

    (イ) 測距儀、距離時計、及びその他砲火指揮用諸要具

    (ウ) 弾薬・火工品及びその供給装置

    (エ) 各種補用品

    (オ) 通信諸装置

    (カ) 発砲用電路・電池

エ.信管・火管の装着

オ.応急弾薬の準備

カ.砲戦動作の妨げとなるものの除去、陸揚げ、若しくは格納

キ.副防御の設置

ク.予備通信装置の仮設

ケ.整度射撃の実施


ア.において、の人員が所要の定員に満たない場合は、まず主要なところを充実し、比較的重要ではないところを欠員とすします。 この際、欠員とする順序は概ね次を標準します。


ア.3インチ未満の小口径砲員とその弾薬庫員及び供給員の一部、若しくは全部

イ.3インチ砲弾薬庫員及びその供給員の一部

ウ.3インチ砲員の半数以内

エ.中口径砲弾薬庫員及びその供給員の一部

オ.中口径砲中で弾薬補給の配置にある者


大口径砲員及びその弾薬庫員、伝令員は減員しないことを原則とします。

以上の措置によって、水雷防御その他戦闘上の種々にわたる要求に応じるためには、次の要領により適宜兼務配置を定めることとされました。


ア.大口径砲員により互いに相対砲の欠員を兼務させる

イ.対舷砲員により互いに相対砲の欠員を兼務させる

ウ.幹部付属員が更に必要な場合は大口径砲員及びその弾薬庫員、供給員により砲群指揮伝令を兼務させる


この人員の充実において最も配慮すべきことは、各員の能力に基づき適材適所に配置することです。

イ.において、装薬の種目を斉一にして火薬庫の温度をほぼ同一にすることは射撃の整度を増進するためであり、もし異種目の装薬をやむを得ず受領した場合は、多少の時間は同種装薬を供給し得るように格納し、また庫内温度の差が大きい場合は各砲ごとに供給する火薬庫を一定にすることが必要です。

エ.の信管・火管の装着は特に慎重に行い、螺子込みが十分となる必要があります。 また、装着した火管は以後少なくとも毎週1回はその一部について発火試験を行わなければなりません。

ウ.(エ)の補用品は、その用途、数量に応じて砲台、砲塔、対舷砲あるいは各砲ごとに配付し、記号を付けた上で供給に便利なように防御部内に備えます。 供給要具もまたこれに準じます。 そして砲台員に補用品及び要具箱などの所在を周知しておくことは、事故の際に処置を迅速に行うために重要なことです。

オ.の応急弾丸は、供給装置の構造及び便否により、砲室、砲側、弾薬通路又は防御確実で供給に便利なところに適宜の数を準備します。 装薬の準備は状況の緩急に応じて適宜決定するものとされていました。 また、同砲種の弾薬は必要に応じて相互に融通できるように準備することが重要で、大口径砲においては特にです。

キ.副防御の目的は弾片あるいは破片に対して無防御の場所にある人員、兵器を保護するためです。 通常は釣床を並列し、あるいは麻索を編綴して、艦橋、砲側などの所要の個所に障壁を構成するように設置します。 そしてこれを設ける時期は、状況に応じ適宜決定するものとされています。

ク.予備通信装置は、蛇管、指数盤などにより適宜仮設します。

ケ.の整度射撃は、これを以て初めて砲熕の準備が完成するものであり、各艦はその時の状況に応じて出来得る限りこれを実施すべきものとされました。


以上の準備が完成したならば、特に高速力での艦隊運動、単艦及び編隊での実弾射撃を実施して、砲戦の準備を完成するものとします。



  合戦準備


合戦準備の目的は、臨戦準備で出来なかった事項を補い、また一時復旧した個所を再度戦闘に備えて準備し、全ての甲板を清掃して敵弾による障害を最小にして弾片・破片の飛散を予防し、以後戦闘の一令により直ちにこれに応じ得るように準備することです。

合戦準備において実施すべき主要な作業は概ね次のとおりとされています。


ア.砲火指揮用の諸要具の準備

イ.砲熕を発射する前に実施すべき諸準備

ウ.予備電池への注液

エ.昼戦で使用しない小口径砲及び探照燈の格納

オ.飲料水の準備

カ.甲板の清掃

キ.応急要具の準備


イ.砲熕発射前に実施すべき諸準備には概ね次の事項があります。


  (ア) 照準望遠鏡の装着及び並行検査

  (イ) 発砲電路の電池試験

  (ウ) 旋回俯仰及び閉鎖駐退の諸装置の検査

  (エ) 各活動部の注油

  (オ) 薬莢又は火管の導通及び抵抗試験

  (カ) 即応弾薬の砲側への準備


(ア)の照準望遠鏡の装着と検査の後はそのまま良好な状態を保つためにそのまま取り外さないことは勿論ですが、砲門あるいは照準口の開閉などの際にこれに触れないように特に注意が必要です。

また(カ)に示す、不意の戦闘に添えて咄嗟に第1発を供給し得るように準備ておくことは特に重要なことです。 これは弾薬の供給装置が不便である艦船においばかりではなく、砲塔砲においては特にです。

エ.の昼戦に使用しない小口径砲及び探照燈は、毎日朝食前に防御部内に格納し、軍事点検後に低所に備えるものとします。

これらのほか、空薬莢の集積は砲の操作と交通を妨げることになりますので、収納位置を予定しておくことも重要です。 釣床格納所、衣嚢棚などはこれに流用するのに便利です。

夜間水雷防御においては急速な発射に応じるため、予め若干の弾薬を砲側に準備する必要があります。

また、電燈の故障に備えて所要の個所にロウソクを点じ、あるいはこれを準備します。

そして「戦闘」の号令においてなすべき作業は戦闘教練の内容に基づきますが、要は一令の下に直ちに第1弾が発射できることにあります。







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初版公開 : 22/Apr/2018







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