総合教育総合教育は、前ページで説明した5部の基本教育を基礎とし、これにより第2の基礎とも言える各部の協同動作による 基本射撃 及び 基本教練 を実施し、更にこれを総合して 戦闘射撃 及び 水雷防御射撃 を実施し得るようになるまでの、射撃訓練の順序・及び方法を言います。 この総合教育は、概ね次の順序及び系統によって行うものとされていました。 ( 左クリックにて拡大表示します ) 各種の基本射撃は全て戦闘射撃のための準備教育として行われるものであり、実施は戦闘射撃での要求に適合するように計画・指導されるべきものとされていました。 ただし、これらのうち検定射撃は特に褒賞の制度があることから誤解を招き易いところがあり、検定射撃の目的はあくまでも技術の検定にあるのであって、褒賞は単に奨励の褒賞の手段にすぎませんので、その主旨に則り褒賞制度に伴う弊害が生じないように戒められていたところです。 即ち、当時におけるこの一般的な弊害として、検定射撃があたかも射撃訓練の最終目的であるかのような観を呈して、一艦の努力が大部分これに集中されてしまい、他の重要な射撃教育が等閑に付せられる嫌いがあったことです。 動揺射撃の励行の必要性は、当時一般に認められきたところですが、これを更に進めて射手の技量を動揺射撃により検定することが要求され始めています。 ただし、外洋でこれを行うには各艦が全く同じ条件・状況で実施することは極めて難しく、したがって褒賞の公平を期しがたいものとなることがありました。 (参考) : 因みに、戦闘射撃において標的に動的の使用が始まったのは明治44年、外洋における射撃訓練が行われるようになったのは大正元年、そして検定射撃が廃止されたのは大正5年のことです。 夜間検定射撃は、それ自体がそれ程効果があるものではないことが明治43年10月に鎮海湾で行われた実験射撃において照明されました。 即ち、夜間における照準の制度は昼間と比べてもほとんど遜色がないものであり、かつ昼間射撃において良好な状態における良好な射手の成績は夜間でも同じという結論です。 つまり夜間検定射撃はこの様に昼間と大差ないことから、昼間検定射撃を行う場合は夜間を行わせる必要が無く、またその反対に夜間行う場合は昼間はその必要がないことされたのです。 (ただし、この実験射撃においては副産物として意外に大きな収穫があり、例えば夜間における艦船の操縦法、電燈の使用法、夜間装填法などに習熟させることができ、また電燈位置の研究、夜間照尺点灯装置の改良などはその顕著なものです。) 基本射撃と並行して戦闘教練及び水雷防御教練を行うのは、主として次の理由に基づくものです。 ア.射撃は少数の弾薬を以て短時間に終わるため、これと同時に通信部及び弾薬部を訓練するのには適さないこと イ.基本射撃は艦全体を通しての戦闘部署あるいは水雷防御部署において行われるものではなく、実施に必要な少数の人員と少数の中口径砲を以て行われるため、戦闘における各部の協同動作の訓練に適するものではないこと ハ.戦闘教練及び水雷防御教練は、各部の協同動作を訓練するためには最も適するものであるだけでなく、戦闘中に生起するであろう様々な状況を想定した応急処置の訓練を行えること 戦闘射撃もまた褒賞規定があることから、その真の目的から離れる傾向にありました。 その第1は射距離の問題です。 即ち褒賞を付与する見地からすると、艦種・艦型及び備砲の能力に応じて射距離を規定するのが最も公平と言えます。 そしてそれまでの規定はこの主旨に基づいて専ら備砲の能力を標準として射距離を定めていました。 しかしながら、射撃術の発達に伴い射撃の成績は備砲の能力と同時に観測の難易によって著しく左右されることなり、また軍艦は編隊の下にほぼ同距離で射撃するものであることから、備砲能力の多少の相違により各艦ごと射距離を違える必要はないとの意見が出され、明治44年の射撃においては主力艦は全て約5千mの同一距離で射撃することと定められましが、必然的にこの結果として、褒賞の公平性を保つために得点係数を定めることは容易でない手数を要することとなったのです。 初版公開 : 22/Apr/2018 |