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射 心 移 動 |
射心移動とは
今仮に、射撃艦と目標艦とが同一速力、同一針路であったとすると、両者の距離には変化がありませんから、同一照尺で多数回の斉射を実施した場合には、各斉射の射心は目標に対して下図のように同じ位置関係に弾着することが予期されます。
ところが、実際にはこの様な条件下で射撃した場合にも、例えば次の様な経過を示すことがあります。
同一照尺で射撃したわけですから、射心偏倚量は各斉射とも同一であるはずなのに、この様な変化を生じる原因には、主として照準の不良であることが挙げられます。
即ち、各斉射の射心の平均位置がこの同一照尺弾の真の位置であると考えられますので、射心の平均位置から各斉射の射心までの距離が、各斉射毎の照準不良に起因する誤差であると見なすことが出来ます。 この射心の
平均位置から各斉射の射心までの距離を 「射心移動量」 と言います。
また、この一連の射撃において、各斉射の射心移動量の 絶対値を平均 したものを 「平均射心移動」 と言い、これを 公算誤差で表したもの を 「射心移動公誤」 と言います。
射心移動の原因
(1) 遠近射心移動の原因
遠近方向の射心移動が生じる原因は、主として次の事項によるものです。
1.方位盤の照準誤差 (方位盤照準の場合)
2.各砲側射手の通信器追尾誤差の平均値 (方位盤照準の場合)
3.各砲側射手の照準誤差の平均値 (砲側照準の場合)
4.砲耳軸傾斜による射距離差
5.毎斉射弾平均初速の不同
6.標的の移動 (見かけ上の射心移動となる)
以上のうち、(5) は他のものに比較して極めて小さな値であり、(4) は大仰角で、かつ砲耳軸傾斜大の場合には相当大きな値となりますが、一般の場合 (仰角30度以内、砲耳軸傾斜5度以内) にはそれ程大きな影響は及ぼしません。
(2) 左右射心移動の原因
左右方向の射心移動が生じる原因は、主として次の事項によるものです。
1.方位盤の照準誤差 (方位盤照準の場合)
2.各砲側旋回手の通信器追尾誤差の平均値 (方位盤照準の場合)
3.各砲側旋回手の照準誤差の平均値 (砲側照準の場合)
4.砲耳軸傾斜に対する修正誤差
以上のうち、(4) については遠近射心移動と同じで、一般の場合にはそれ程大きな影響は及ぼしません、
射心移動公誤
(1) 遠近射心移動公誤
旧海軍において、昭和11年から16年の5年間の戦技成績から、平均射心移動量を統計整理して、これを照準角に換算し直して公算誤差を求めた結果は次のとおりです。
砲 種 |
大口径砲 |
20糎砲 |
中口径砲 |
平均 |
射心移動公誤 (照準角) |
7.1’ |
7.5’ |
6.3’ |
7.0’ |
上記のデータによれば、射心移動公誤は照準角に換算して 7分 (≒0.117度) であるとして差し支えないと考えられます。
この値を基にして、各砲種の各射距離に対する射心移動公誤を求めると、次の表のようになります。
大口径砲 |
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射距離 (X) |
150 |
200 |
250 |
300 |
射心移動公誤 (r2) |
125 |
93 |
70 |
47 |
20糎砲 |
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射距離 (X) |
80 |
130 |
180 |
230 |
射心移動公誤 (r2) |
154 |
91 |
66 |
35 |
中口径砲 |
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射距離 (X) |
50 |
90 |
130 |
170 |
射心移動公誤 (r2) |
173 |
94 |
58 |
41 |
(注) : |
X は100m単位、r2 はm単位 |
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大口径砲は40cm砲と36cm砲の平均 |
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中口径砲は15cm砲と14cm砲の平均 |
(2) 左右射心移動公誤
旧海軍時代でも、このデータを連続的に取ったことはありません。 現在ただ一つ残されているのは、昭和5年度の戦闘射撃における成績から算定した資料が、次のとおりあるだけです。
砲 種 |
戦艦主砲 |
戦艦副砲 |
大巡 |
中巡 |
軽巡 |
射心移動公誤 (密位) |
1.03 |
0.76 |
1.72 |
2.28 |
1.33 |
残念ながら調査回数が少ないので、一般的に通用する統計データとは言い難いところがありますが、戦艦 (主、副砲とも) で 1ミリイ (≒0.056度)、大巡以下で
2ミリイ (≒0.113度) とみれば大差はないと考えられます。
一般的な対勢での射撃における射心移動
最初の項では射心移動とは何かを説明するために射距離が変化しない特殊な対勢の例を用いましたが、この様なことは極めて希であり、現実的には射距離は刻々と変化しますので、射心移動の求め方もまた複雑になってきます。
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左図は、ある変距で射撃艦と目標艦との距離が変化している(この場合、近対勢)場合で、一定値の変距を調定して照尺距離を決定しながら射撃した場合の経過を示したものです。
( ただし、調定した変距値に実際の変距との誤差は無いものとします。 また、図中の ▼ は発砲時を示しています。)
照尺距離と実距離とは常に一定量の誤差がありますので、もし射心移動さえなければ各斉射とも同一の射心偏倚量を示すはずです。 しかしながら、実際には図のように偏倚量が
l1 〜 l4 と変化しているのは、射心移動があったからに他なりません。
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ところがここで一つ問題があります。 即ち、実距離はどのようにして得る (知る) ことが出来るのでしょうか?
射距離 = 実距離 では無いことはお判りいただけているものと思います。 射距離というのは射撃艦が何らかの手段、例えば測距儀などによって測定したものですが、当然ながらこれには各種の誤差が含まれていて、射撃艦と目標艦との実際の距離ではありません。
実はこの実距離というのは、射撃成績算定のために、射撃の後の事後解析 (= 「射後分析」 と言います) として求めることになります。
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射心の偏倚量は、射撃実施時の側方観測記録から得られますので、左図のように、まず照尺距離の記録からその距離線を作図して、そこから各斉射の射心偏倚量
(l) に各種の修正を加えた値 (l’) を遠近逆にしてプロットします。
そして実際の対勢図を見て距離変化の状況を参考としながら、@ A B C の中間に距離線を引きます。 これが実距離線であり、最も正しい実際の距離であったと推定されます。
次にこの実距離線を基に射心偏倚量の分だけ離れた位置が、各斉射の射心の位置として作図され、この様にして射撃の経過図が作られていくことになります。
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射弾の散布と射心移動との関係
既に説明してきましたように、射弾の散布は、斉射弾の射心を中心としての各射弾の散布状況を問題とし、また射心移動は各斉射間のふらつき (=散布) 状況を問題としています。
したがって、一見するとこの両者には明確な区分があるように見えますが、実は密接な関連があるのです。
(1) 砲側照準の場合
例として、同一対勢、同一照尺での射撃で考えますと
@ は、「各砲とも遠方向の照準誤差の傾向にあり、射心を中心として普通の散布をしている」 と考えるか、あるいは 「射弾の散布がたまたま3弾とも遠方向に生じた特殊例」
と考えるかの二通りがありますが、どちらかは判別困難でしょう。
B についても @ と同じことが言えます。
これらの様な場合、成績調査の段階では l1 及び l3 は射心移動として処理され、L1、L2、L3 が射弾散布の成績として処理されるのが普通です。
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もし上の例で照準公誤をも合わせて射弾散布を考えると、左図の左側の様になり、「戦闘公誤は単砲公誤及び照準公誤の合併公誤である」 とすれば、この散布で取り扱う必要が出てきます。
左図の右側は射撃成績 (散布界) から求めた射弾の散布を表し、照準公誤の大部分を射心移動として取り除いた残りの照準誤差と単砲公誤による誤差との合併誤差と言うことになります。
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(2) 方位盤照準の場合
同じく例として、同一対勢、同一照尺での射撃の場合で考えますと、
@ A B は、方位盤の照準誤差が射心移動として現れ、その照準点を中心として射弾散布がある例です。 また、C D E は、方位盤の照準誤差があり、更に方位盤の照準点に対して砲側の照準中心誤差と砲の精度によって散布が生じた例です。
成績調査の面からすると、照準誤差の合計 (方位盤照準と砲側照準) が射心移動として処理され、散布界から射弾散布が計算されることになります。
一般的には、方位盤の照準誤差と砲側の照準中心誤差との分離は困難ですから、方位盤の照準誤差だけを除いた、単砲公誤と砲側照準公誤の合併公誤に基づく散布の姿、即ち
F は求めることが不可能であり、散布界だけから求めた散布の姿、即ち G が成績調査から知り得るデータであると言うことになります。
最終更新 : 19/May/2015
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