単砲の弾着散布 (単砲公誤)すでに射撃理論の 「超入門編」 でも説明しましたように、砲を陸上の射撃試験場に備え付けて、全くの同一条件で発射しても種々の要因によって弾丸は同一の一点には弾着しません。 この 単砲の “静的な” 条件での散布の状況 を数値的に表す方法として、旧海軍では 「単砲公誤」 というものを使用していました。 即ち、砲身や発射する弾薬は如何に精確・精密に造ったとしても、その製造上必然的にある程度の固有の誤差が生じることは避けられません。 加えて、発射時の砲身の振動や発射薬の微妙な燃焼の仕方の差、あるいは砲弾の砲身内での前進運動による砲口を離れるときの微妙な傾きの差、等々が重なり合って散布が生じます。 とは言え、これらを原因とする散布は全く不規則に生じるものではなく、ある程度の範囲内に収まるものであることもまた確かです。 したがって、陸上試験場において精密な試験発射を行ってその精度を測定し、単砲公誤の名称で 射表に記載 しておくのが旧海軍での決まりでした。 (注) : 米海軍の射表では、旧海軍と同じ単砲公誤ではなく、「平均散布界」 の型式で記載されています。 単砲公誤はその砲固有の精度 を示すものですから、これによって各艦の搭載砲の精度をある程度知り得ることは勿論ですが、更にその搭載砲による 斉射における射弾散布を推定する資料 としても重要なものです。 「公誤」 とは旧海軍で使用した用語 「公誤」 とは、「公算誤差 (r)」 の略称で、正規分布の分布状況 を一言で表現する方法です。 したがって、現在の確率統計学、と言うより学校での学力表示で皆さんお馴染みの 「標準偏差(σ)」 と同じよう使い方をするものと考えれば最も判りやすいと思います。
その弾着点と弾数を示す山の形は、その砲の精度によって色々と異なってきますが、その山の形は誤差が正規分布をするとする限りにおいては、次の関数で表されます。 ![]() そして、弾着範囲の中心点を中心として 弾着数が全射弾数の50%となる範囲 を 2r とするならば、hr=0.4769 となり、h の値が大 (即ち r の値が小) となる程、弾着の山の形はシャープとなり、その砲の精度は良好であると言えます。 ![]() この r を公算誤差 と呼び、r の値が与えられれば任意の範囲 (x1r 〜 x2r) に弾着する弾数の全射弾数に対する割合 (%) は、公算表を引くことによって簡単に知ることが出来ます。 ![]() 余談ですが、現在では公誤よりも標準偏差の方が一般的ですが、この公誤の考え方が全く用いられなくなったのか、と言うとそうではありません。 例えば、その代表的なものが、皆さんよくご存じの弾道ミサイルの弾着精度を表す 「CEP 」 (Circular Error Probability、半数必中界) ですね。 斉射弾の散布単砲公誤はあくまでも陸上射場における静的なものであるが、これを艦に搭載して射撃する場合には、動揺による照準誤差やその他色々な誤差が混入し、このため単砲公誤より弾着の精度が悪くなることは当然予想されることです。 更にこれが一艦に搭載された艦砲の斉射になると、その同一斉射弾における各砲毎の射弾は、一見全て同一条件のように見えますが、詳細に検討すると、砲そのもの、砲の操作、外界の状況等において多くの差異の存在があることが解り、かつこれらが極めて複雑な組合せとなっていて、公算学 (確率統計学) 的にも解決することが不可能である点も多いのです。 射弾の散布を生ずる主な原因及び考えられるこれらの対策を示すと、次のようなものがあります。
これらの中には前述のように公算誤差として取り扱えるもの (=正規分布するもの)、あるいは全くの固有誤差として残るもの等があります。 そして、これらが色々な組合せとなって一斉射弾の散布を生じる ことになります。
また、斉射弾の 「射心」 の位置は、目標位置 (標心) からの各弾の距離 (偏倚量) の算術平均で求めます。 以上のことから、砲の静的な精度を表す 「単砲公誤」 だけではなく、海上における1門から複数門での射撃について、何らかの動的な精度を表現する方法が必要 になってきます。
最終更新 : 18/May/2015 |