「初照尺の精度」 の項で “目標の捕捉” という概念をご説明しましたが、ここではそれを更に先に進めてみたいと思います。 1.2つの照尺で目標を捕捉した場合の目標存在公算
したがって、目標 T1 に対して O1 が全近で、かつ O2 が全遠となる公算は、Ps(x)・Po(x’) となることは、既にご説明してきたとおりです。 以下同様に、目標の位置を O1 から O2 の間で、T2、T3、・・・・・ とずらして、それぞれに対する捕捉公算が求められます。 この場合、実際に O1 が全近、O2 が全遠となった後で、目標がどの位置にあったのかという目標存在公算 (事後公算) (π) は、ベイーズの定理による理論から次の様になります。 この π(x) の型式は、Ps 及び Po 曲線が対称型であることから、Ps(x)=0 及び Po(x’)=0 のそれぞれのところで π=0 となり、また O1 と O2 の真ん中のところで最大となります。 2.2つの照尺で目標を捕捉した場合の、その中間照尺の夾叉公算
このことから、O1 と O2 とで捕捉した場合の 「濶度」 (O1 と O2 の間隔、=第1照尺と第2照尺の照尺差) を変えて、あるいは砲数を変えて、それぞれの中間照尺による夾叉公算 (%) を求めると、次の表の様になります。
3.捕捉濶度 「捕捉濶度」 とは、目標を捕捉した2つの照尺の中間照尺を以て相当な程度の夾叉公算が得られる様な照尺差 (=修正量) のことをいいます。 旧海軍では、当初はこれを 「最少夾叉濶度」 と呼んでいましたが、昭和12年の 『艦砲射撃教範』 改正前後に、これに合わせて 「捕捉濶度」 と改称されました。 例えば、600mの高め修正を行って目標を捕捉した場合に、300m戻した (=下げた) 中間照尺が、相当な夾叉公算があるならば捕捉濶度として適格ですが、1000mの修正で捕捉した場合に、500m戻した中間照尺が夾叉となる公算が小さいならば、これは捕捉濶度としては不適格です。 では、この中間照尺で何%以上の捕捉公算があるならば適格と言えるのか、と言うことになりまが、旧海軍では一応50%以上と解釈 していました。 ただし、旧海軍ではほとんどの艦艇が砲数 5門以上であって、この場合には 50%以上ということで全く問題はありませんでしたが、2門や3門という少ない砲数の場合には同一に論じるわけにはいかないことは勿論です。 捕捉濶度というものは、射撃指揮官が “胸算” として射撃前に研究し、規定しておくべきものですが、通常の射撃では初弾に対する修正がこの捕捉濶度である場合が多いので、初弾精度と関連して決定するのが一般的でした。 そして、初弾観測後の目標存在公算から、次の修正弾で目標を捕捉するためにどの程度の照尺差を持たせれば良いかが決まり、もしその照尺差が捕捉濶度の最大値以内であるならば、その照尺差をもって捕捉濶度とします。 この場合、捕捉濶度の最大値であっても、その中間照尺による夾叉公算が 50%程度ですから、それより小さい場合には当然ながら夾叉公算は 50%以上になります。 そして、もし照尺差が捕捉濶度の最大値以上となる場合には、中間照尺による夾叉公算が小さくなりますから、旧海軍ではそのような照尺差では射撃はしないこととされており、代わりに 「2段打方」 又は 「3段打方」 とい方法を用いる必要があります。 これについては、水上射撃の射法理論のところで説明します。 要するに、旧海軍では、捕捉濶度以上の大きな修正をしてはならないこととされていました。 理由は、もし大きな修正量を使用した場合には、中間照尺に戻したときに夾叉を得る公算が小さくなりますから、更にその次に中間の中間照尺を使用しなければ夾叉弾を得られないことになるからです。 旧海軍における前項までの諸公誤を使用して計算されたものとして、次のデータが残されています。
また、旧海軍の昭和12年改定の 『艦砲射撃教範』 では、標準の捕捉濶度として、7門以内では 500〜600m、8門以上では 600〜800m と規定 されていました。 最終更新 : 23/May/2015 |