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戦 闘 公 誤 |
戦闘公誤とは
海上での艦砲射撃における斉射弾の弾着の散布状況を取り扱うのに、前項で説明した 「散布界」、あるいは各斉射毎の散布界を単純に算術平均した 「平均散布界」
を用いることもできますが、この散布界だけでは単に弾着の幅しか判りません。
例えば、下図のような場合では各斉射弾の散布界 (弾着幅) は全て同一値ですが、各斉射の中の一弾一弾の散布状況や射心の位置は異なっています。
この斉射弾うちの一弾一弾が射心を中心としてどの様な散布をするのか、即ち
斉射弾の散布の度合いを把握 するために旧海軍が用いたのが 「戦闘公誤」 です。
即ち戦闘公誤は、前項で説明しました単砲公誤と同じ様に、斉射毎の射心からの各弾の位置 (=誤差) を総計したものを、ベッセルの公式又はピータースの公式を用いて求めた公誤のことです。
この 「戦闘公誤」 と射心の位置とによって、その斉射弾の精度を確認することが可能になります。
旧海軍の戦闘公誤データ
旧海軍が戦技成績において得た戦闘公誤のデータは、次のとおりです。
大口径砲 |
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射距離 (X) |
150 |
200 |
250 |
300 |
戦闘公誤 (r1) |
100 |
95 |
83 |
71 |
二十糎砲 |
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射距離 (X) |
80 |
130 |
180 |
230 |
戦闘公誤 (r1) |
117 |
75 |
70 |
70 |
中口径砲 |
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射距離 (X) |
50 |
90 |
130 |
170 |
戦闘公誤 (r1) |
124 |
77 |
70 |
70 |
(注) : |
X は100m単位、r1 はm単位 |
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大口径砲は40cm砲と36cm砲の平均 |
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中口径砲は15cm砲と14cm砲の平均 |
戦闘公誤の原因
前項 「射弾の散布」 のところで既に説明しましたように、斉射弾の散布が生じる原因は大変複雑で、かつこれらには論理的に取り扱えるものと取り扱えないものとが混在しています。
そこで、「戦闘公誤」 では、散布、即ち射弾の誤差の原因を次の3つに区分し、これらが合わさった 合併公誤 であると考えます。
(1) 単砲公誤
(2) 照準公誤
(3) その他全誤差の公誤
(3) 項は散布原因としてその誤差が小さなもの、あるいは論理的な数値として説明できないものを全てを一括したものですから、逆に得られた戦闘公誤の値から
(1) 及び (2) を除いたものであるとも言えます。
照準公誤
戦闘公誤のうち、静的な散布の原因によるものが単砲公誤であるならば、海上における動的な散布の原因によるものの代表がこの 「照準公誤」 です。
ただし、ここでいう照準公誤は砲側照準の場合の各砲毎の照準誤差が原因となるもののことで、方位盤照準における方位盤射手の照準誤差によって生じるものでは無いことに注意して下さい。 (方位盤射手の照準誤差によって生じるものは、後でご説明する
「射心移動」 の原因となります。)
今ここで、目標の照準は方位盤照準で行い、砲側は射撃指揮装置から送られるデータによる 通信器照準 方式であるとします。
通信器照準の要領は、発砲諸元 (ここでは砲仰角と砲旋回角) を電気通信装置によって射撃指揮装置から砲側に伝え (=基針の指示)、砲側の射手及び旋回手が砲を操縦することにより準備される発砲諸元
(=追針の指示) をこれに一致させる (=基針と追針の合致) ことです。 そして、基針と追針が合致すれば発砲電路が接続 されて、引金を引くことにより砲は発砲することになります。
この場合、基針と追針の両方の針の間にある電路接触片には必ずある幅があり ますので、この幅が発砲時に 照準誤差が生じる誤差範囲 となり、これは各砲毎の射手及び旋回手の操縦状況によって異なった値として現れ、各砲の射弾の散布原因となります。
ここで、その接触片の幅のうちのどの点で接触して発砲するかはその都度異なりますので、どの点で接触するかの割合 (%) を求めれば、それが照準誤差が生起する公算を表すことになります。
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(1) 左図は出弾率 100%の場合で、照準誤差公誤をr 分とすると、接触片の幅 (20分≒0.33度) は 6r 〜8r とみなせます。 (6r の時の生起公算は 96%、8r の時は 99%) |
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(2) 出弾率を旧海軍の戦前における実際の平均出弾率である 80〜85%とすると、左図のように接触片の幅が 3.8r〜4.27rの時にこの出弾公算になります。 |
また、旧海軍では昭和11年から16年の5年間の戦技における成績に基づいて、戦闘公誤から照準公誤を逆算した結果として、次のデータを得ています。
砲 種 |
大口径砲 |
20cm |
中口径砲 |
12.7cm |
照準公誤 |
5.9’ |
6.0’ |
4.6’ |
5.1’ |
上記の電路接触片の幅から求めたものとこのデータとの両方を総合して考えると、旧海軍における砲側の一般的な 通信器照準の照準公誤は、照準角度として5分 (≒0.083度) と考えられます。 ただし、これは訓練によってある程度は縮小し得る値でもあります。
戦闘公誤と平均散布界の関係
戦闘公誤は、斉射弾の一弾一弾が散布界の中で射心を中心としてどのように散布するのかを示す度合いですので、逆に散布界の平均値である 「平均散布界」 が、戦闘公誤のある関数になることは容易に考えられることです。
しかしながら、その数学的な関係は極めて複雑であって計算困難なことで、旧海軍時代にはサイコロを用いて実験を行い、次のような結果を得ています。
斉射弾数 |
2 |
3 |
4 |
5 |
8 |
16 |
平均散布界 |
2.03 r |
2.70 r |
3.20 r |
3.62 r |
4.28 r |
5.31 r |
(注) : |
r は戦闘公誤 |
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各斉射弾数について200回の実験結果 |
戦闘公誤から判ること
(1) 遠 (近) 弾となる公算
射心と目標との位置関係に対して、その内のある一弾が遠弾又は近弾となる公算は、次の要領で求めることができます。
射心と標心が一致の場合 |
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射心が標心より r
だけ近にある場合 |
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射心が標心より 2r
だけ近にある場合 |
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近弾となる公算 50%
遠弾となる公算 50% |
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近弾となる公算 75%
遠弾となる公算 25% |
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近弾となる公算 91%
遠弾となる公算 9% |
(注) ● : 射心 □ : 標的中心 (= 「標心」 と言う) r : 戦闘公誤
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以上の変化の状況をグラフに描くと、左図のようになります。 即ち、射心を 0 の位置とすれば、標心の位置に対する近弾の公算曲線を示すことになります。
また、標心を 0 の位置とすれば、射心の位置に対する遠弾の公算曲線を示すことになります。 |
(2) 斉射弾の全遠 (全近) 公算及び夾叉公算
前項の場合は1弾の遠(近)弾公算でしたが、今度は斉射弾の場合について、射心と標心の位置関係の変化によって全遠(全近)及び夾叉となる公算がどの様に変化するかを考えます。
一例として、一斉射2弾として、2弾とも遠弾となる全遠、2弾とも近弾となる全近、1弾が遠弾、他の1弾が近弾となる夾叉の場合について見てみると
射心と標心が一致の場合 |
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射心が標心より r だけ近にある場合 |
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射心が標心より 2r だけ近にある場合 |
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1弾が近弾となる公算 50%
1弾が遠弾となる公算 50%
したがって、
全近となる公算
0.5 x 0.5=0.25
全遠となる公算
0.5 x 0.5=0.25
夾叉となる公算
1−(0.25+0.25)=0.5 |
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1弾が近弾となる公算 75%
1弾が遠弾となる公算 25%
したがって、
全近となる公算
0.75 x 0.75=0.5625
全遠となる公算
0.25 x 0.25=0.0625
夾叉となる公算
1−(0.5625+0.0625)
=0.365 |
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1弾が近弾となる公算 91%
1弾が遠弾となる公算 9%
したがって、
全近となる公算
0.91 x 0.91=0.8281
全遠となる公算
0.09 x 0.09=0.0081
夾叉となる公算
1−(0.8281+0.0081)
=0.1638 |
射心と標心が一致している場合は、理想的な状況であるが、夾叉となる公算50%、全遠又は全近となる偏弾の公算50%となる。 これは一斉射の弾数が少ない場合の特徴で、射撃指揮官が射弾指導に悩むところとなります。
射心が標心より離れている場合ですが、戦闘公誤の1倍程度の離隔のときなら夾叉公算が約36%あることに注意する必要があります。 そして、射心と標心の離隔が大きくなるに連れてこの夾叉公算は小さくなってきます。
一斉射の弾数を2弾しましたが、それでは更に一般的にして、斉射弾数nを増やすとどうなるかを見てみます。 n=2、3、5
の場合について全遠公算を Po、全近公算を Ps、夾叉公算を Pk として、これらの公算がどの様に変化するかを示したのが下図になります。
( 詳しい計算は省略しますので、興味のある方はご自分で計算してみて下さい。)
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n=1 |
n=2 |
n=3 |
n=5 |
−4r |
0.0035 |
0.0000 |
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−3r |
0.0215 |
0.0005 |
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−2r |
0.0886 |
0.0079 |
0.0007 |
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−1r |
0.2500 |
0.0625 |
0.0156 |
0.0010 |
±0 |
0.5000 |
0.2500 |
0.1250 |
0.0313 |
+1r |
0.7500 |
0.5625 |
0.4220 |
0.2374 |
+2r |
0.9114 |
0.8306 |
0.7570 |
0.6287 |
+3r |
0.9785 |
0.9800 |
0.9590 |
0.9398 |
+4r |
0.9965 |
0.9930 |
0.9910 |
0.9828 |
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(注) : |
±0 の点に射心があり、標心がX軸 (戦闘公誤単位) にある時の公算である。 |
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射心と標心が入れ替わった場合には、Ps と Po とが逆になる。 |
この図から判ることは、次のとおりです。
ア. Po と Ps は、原点に対して対称である。
イ. Pk は原点に対して対称である。
ウ. n が大となる (一斉射弾数が多くなる) 程、夾叉弾となる公算が大きい。
最終更新 : 19/May/2015
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