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第9話 発射門数と命中率 |
問題の所在 |
命中率と命中速度 |
弾道と射法 |
試射と本射 ← 現在 |
一斉打方と交互打方 |
問題の結論 |
続いて射法上の基本となる 試射 と 本射 についてです。
(注) : 以降は特に断らなければ全て射線方向の 「距離」 についてで、射線に直角方向の 「苗頭」 については省略します。 理由は簡単です。 左右の弾着のズレは見れば判るからで、修正も容易だからです。
この試射と本射という用語は旧海軍の砲術に関するバイブルの一つ 『艦砲射撃教範』 で次のように定義されています。
試射 トハ本射ニ用フベキ照尺量ヲ探知スル目的ヲ以テ行フ射撃ヲ謂フ
本射 トハ命中ヲ期シテ行フ射撃ヲ謂フ
そして旧海軍では射撃において両者は明確に区分して実施しており、射撃指揮官は射撃開始に当たり両者の実施要領を下令しなければなりません。 例えば 「緩斉射弾観測、緩射」 「初弾観測、急斉射 (初観急)」「試射無し、初弾より急斉射」 などのようにです。
ところが、欧米諸海軍においてこの様な試射・本射に匹敵するものがあるかというと、ありません。 旧海軍独自のものと言えるでしょう。 これが射法上の大きな違いの一つといえるところです。
射撃計算というのは早い話、測的結果により 「射表」 から目標の未来位置 (=弾着時の目標の予想位置) に対する弾道を求めることです。 しかしながらこの射表は気温・湿度や大気圧などの諸条件をある 「基準状態」 を定めてこれによる基準弾道について作られています。 ( 「射表について」 の項参照 )
そしてこの基準弾道に対して 「弾道基準修正」 と 「弾道当日修正」 の2つを加えて、その時その時の条件に従った弾道を求めることになります。 ( 「弾道修正の概要」 の項参照 )
その一方で、砲の仰角を設定する距離目盛 (=照尺距離、又は照尺量) は射表と同じ「基準弾道」 により、しかも100m単位で刻まれています。 このため、例えば測距と測的による射距離が225 (ふた、ふた、ご) (2万2千5百m) であっても、照尺距離として調定 (設定) するのは232であったり214などとなるわけです。 そしてこれが発砲諸元の一つとして刻々と各砲台に送られ、各砲台の照尺手が照尺計の基針に示されるこの値に追針が一致するように照尺手輪 (ハンドル) を操作します。
射撃開始時のこの照尺量の最初のもの、つまり 初弾発砲時の照尺量を 特に 初照尺 といい、以後の射撃結果を左右する重要なもの となります。
つまり前頁で説明したように、如何に緻密に射撃計算を行なおうとも、様々な誤差の結果として多かれ少なかれ弾着時の目標位置 (=実距離) と射心 (射撃中心) とは差が出ます。 これを 初弾偏倚量 と言います。
したがって、「試射」 というのは、言い換えるとこの偏倚量を如何に正確に把握し、そして如何に迅速かつ正しく修正して標心と射心を一致させるか、つまりその時の 適正照尺量 を得るか、と言うことになります。
旧海軍ではこのための方法として 捕捉 ということを考えました。 即ち、連続する2つの斉射弾で目標を前後 (遠近) に挟むこと により、この2つの斉射弾の中間照尺量をもって射撃を行い、夾叉 することを確認してそれを 「適正照尺量」 としたのです。
もちろんこのためには散布界の大きさ (=戦闘公誤の大小) や2斉射間の照尺量の差 (=捕捉濶度) など全て公算により緻密に計算されたものであることは言うまでもありません。 そしてこの 適正照尺量を迅速に得るためと弾着観測の容易さのために、その一つの方法として (一般的に) 試射には 「交互打方」 を用いた のです。
誤解の無いように申し上げれば、交互打方とは命中率を高めるためではなく、適正照尺量を把握してその後の射撃 (交互打方か一斉打方かに関わらず) の命中率を高めるため です。 これにより、本射においてはこの適正照尺量を維持しつつ (=命中を期した射撃を継続しつつ) 可能な限り発射速度を高め、目標の変針・変速などに対応していく、というになると言えます。
この試射の要領についてどの様な方法があるのかというと、旧海軍では公算に基づき一定の標準を定めておりました。 「射法理論」 の 「水上射撃の射法」 の中で、 「試射の要領」 の最後に 「試射法の決定」 として詳しく解説しております。
それでは欧米諸海軍ではどうだったのか?
旧海軍のような公算を基礎とした緻密な射法を作り上げることはありませんでした。 したがって試射・本射のような区別をもって射撃を行う方法ではありません。 射法は基本的に初弾から偏倚量を観測してその全量を修正していく形です。
特に米海軍では、散布界が比較的広いことから、偏倚量の修正によって比較的早くこの散布界の中に目標を入れることができますので、その中から命中弾が出ることを期待しました。 いわゆる 「夾叉」 という意味では米海軍の方がやりやすかったわけですが、その反面例え夾叉をしても命中率は高くは無かったということになります。 これが太平洋戦争後半での “数打ちゃ当たる” 式の射撃方法に繋がるわけです。
こういった艦砲射撃の基本的なことを抜きにして、的外れな知識を披露した上で
キーワードは 「正規分布」 「t分布」 「標本数 (サンプルサイズ)」 → 「標準偏差」 あたりになろうかと
などと言われても ・・・・ (^_^;
何か実際の実験結果でもあれば良いんですが …
学校での勉強の知識だけでなく、艦砲射撃について真面目に調べれば、実験結果ではなく実際の射撃データがいくらでも旧海軍の史料などに残されているんですけどねぇ ・・・・
最終更新 : 30/Jul/2017