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第9話 発射門数と命中率 |
問題の所在 |
命中率と命中速度 |
弾道と射弾散布 ← 現在 |
試射と本射 |
一斉打方と交互打方 |
問題の結論 |
前頁でも出ましたように、現実には毎回毎回の射撃で命中率は変わってきます。 これは例え同一の発砲諸元で射撃をしようとも、様々な要因による誤差のため1弾ごと弾道が微妙に異なってくる、即ち散布するからです。
このため、砲弾を目標に命中させるのは極めて難しいことになります。 これについては 「射撃理論解説 超入門編」 に簡単に纏めてありますのでご参照ください。
これは1門で撃とうと多数門で一斉に撃とうとも同じことです。 そして、なぜそうなるのか、その原因は何なのか、の詳細については、 「射撃要素」中の「射弾の散布」 の項で解説してあります。
この個々の弾道の異なり方はそれ程極端には大きくありませんので、明治期の砲戦距離のように5〜6千m以内でしたら、各砲ごとの砲側直接照準射撃でも照準さえ正しければ何とかなる程度です。
しかしながらこれが1万mを超え、2万とか3万mになりますと、そうはいきません。 したがって、1門ずつでそれぞれの砲弾が目標に命中することを期待するのではなく、複数門を同一の射撃計算値に基づいて発砲し、その弾着の散布の中から命中弾が出ることを期待することになります。
そのためにはまず発射する複数門について、照準と測距、測的 (彼我の運動の解析) 及び射撃計算を1つにする必要があります。 これが方位盤であり、測距儀、測的盤、射撃盤で、それぞれが発達して一つの射撃指揮装置となっていきます。
これに基づく射撃計算の理論については 「射撃理論 初級編」 で解説してありますが、これはあくまで砲弾を目標に命中させるために元となる基本の弾道計算とも言えます。
即ち、複数門による射撃はこれに基づいて行われるわけですが、先に申し上げたように現実の各種の微少な誤差により、この値からずれる、即ち散布を生じます。 1門の連続弾でも、複数門の斉射でも、砲弾は絶対に1点には弾着しないからです。
とすると、次に必要となるのはこの散布の仕方を把握することになります。 これが 散布界 です。
そして艦砲射撃においては、その散布界の中心、即ち 射心 (射撃中心) を目標位置の中心 標心 (目標中心) と一致させるように修正 して、散布界の中に目標を包み込むようにする ( 夾叉 と言います) ことにより、その中から命中弾が出ることを期待する しかありません。
もちろん目標たる敵艦は点ではなく、幅、長さ、高さがありますので、射撃訓練においてはそれに応じた 「有効帯」 「有効幅」 の中に入った弾着数をもって命中率を算定することになります。
実際には毎回毎回の射撃のみならず、1回の射撃でも毎斉射毎斉射で散布界の大きさや散布の状況は異なりますので、同一艦あるいは同砲種での射撃データにより 平均散布界 を求めることから始まります。
米海軍や英・独海軍においてはその艦あるいは砲種としての性能データとしては、せいぜいがこの平均散布界の算出止まりであり、後は実際に撃ったその場で射心の位置を弾着観測により求めて、これにより射弾の修正を行うことでした。 したがって米・英・独海軍の艦砲射撃における 「射法」 はこれが基礎です。
しかしながら平均散布界とはいっても、当然ながらその散布界の中に斉射弾が均等に弾着するわけではありません。 例えば次の図は散布界の大きさは全て同じですが、それぞれその中の斉射弾の散布の仕方は異なります。
そこで旧海軍ではこれを更に進めて 公算、即ち統計と確率の応用による方法 による 公誤 (公算誤差) を採り入れ、その一つとして散布界の中でどの様に斉射弾が弾着するのかを数値で表すことにしました。 これが 戦闘公誤 、即ち 平均散布界の中で射心から射弾の半数が弾着する範囲 を示す方法です。 詳しくは 「射撃要素」 中の 「戦闘公誤」 の項を参照してください。
この戦闘公誤によって艦に装備されている同一砲種 (主砲、副砲など) の性能と砲機調整などの状況を把握すると共に、これを基準として適正な射法を構築したのです。
もちろん、各艦、艦型、同一砲種搭載艦などについて、平均散布界と戦闘公誤を算出し、これらから門数による関連性をも求めており、これらも全て射法の中で考慮されています。
そしてこの公算による射撃データの分析の中で重要なものの一つが 初弾偏倚公誤 です。 これは照準、測距、測的を始めとして、ありとあらゆる誤差の結果として、最初の斉射弾の射心が実際の弾着時の標心からどれだけずれる (=初弾偏倚量) 可能性があるかを過去のデータから公誤で求めたものです。 この初弾偏倚公誤の値によって、具体的などの射法を適用するかの重要な判断基準の一つになります。
初照尺とそれによる初弾偏倚公誤については、旧海軍の実際を 「初照尺の精度」 で解説しておりますので参照してください。
最終更新 : 30/Jul/2017