|
||||||||||
第9話 発射門数と命中率 |
問題の所在 |
命中率と命中速度 ← 現在 |
弾道と射弾散布 |
試射と本射 |
一斉打方と交互打方 |
問題の結論 |
まずは極々初歩的なことから。
命中率 というのは 発射弾数に対する命中弾数の割合 です。 この定義は変わりようがありませんし、極めて単純明快です。 命中率の “概念” などということの入る余地は更々ありません。
そして発射門数と命中率の関係は、先にも書きましたとおり、何の前提条件もなく ただただ単純な問題として採り上げるならば、ある命中率の砲種について、門数が何門であろうと命中率は変わりません。 1門であろうと2門であろうと、あるいは100門であろうと、です。
つまり、門数が増えると 「発射弾数」 が増え、それに比例して 「命中弾数」 が増えるだけのことで 「命中率」 が変わる訳ではありません。 例えば、命中率5%とされる砲なら、1門で100発撃って5発の命中弾、100門なら10000発撃って500発の命中弾、いずれも命中率5%です。
ただし、この命中率というのは射撃時間には関係しないことに注意してください。 100発を5分で発射しようと、1時間で発射しようと無関係です。
某所での質問の発端となったという架空の例え話の
大和一隻とアイオワ級二隻が戦闘すればどちらが有利か
アイオワ級側の門数が大和の二倍だからといって、命中する確率も二倍にはならず、云々
などに対しては本来はこの回答で十分です。
ところが、です。 発射門数が変わると目標に対する 単位時間当たりの命中弾数、つまり 命中速度 (旧海軍ではこれを 時間効力 と言いました) が変わります。 これはまた射撃時間が変わっても変わります。 この命中速度は艦砲射撃においては重要な要素の一つですが、先の某所の中では誰からも出てこなかったものの一つです。
上の例で100発を5分間で発射するなら、1門での命中速度は1発/分ですが、100門の命中速度は100発/分です。 また、1門で100発を5分間で発射したものを2分半で発射するなら (発射速度を倍にするなら)、命中速度は1発/分から倍の2発/分になります。
この理屈は、まさに 太平洋戦争後半に米海軍が採用した砲戦術 です。 日本海軍に対して命中率の低さを、発射門数 (隻数) の多さと発射速度の高さを利用したもので、「命中速度」 を極度に発揮しようというものです。
もちろんこれには大量の “無駄弾” が伴うことは言うまでもありません。 命中率は度外視なのですから。 優れた砲塔動力と物量 (砲弾、艦艇数) を誇る米海軍だからこそ採用できた戦術ですが、裏返せば “止むに止まれず” という発想でもあります。
これに対して、持たざる国の日本海軍では、貧弱な科学・工業力と平時における訓練からしてそのような贅沢な発想は生まれるわけもなく、また命中速度の重要性は理解しつつも“やりたくとも出来なかった” と言うのが実情です。
ここまでは、難しい数式や理論などは必要ありませんので初心者の方々でも十分にご理解いただけると思います。
さて、ここからです。 上のようにごく単純化した話ならともかく、もう一歩話を進めると、現実にはどの砲種であれ常に一定の 「命中率」 が得られるということはあり得ない と言うことです。
特に艦載砲の場合には、その砲固有の性能 (特に射表上の 「単砲公誤」 と言われるもの、米海軍では 「平均散布界」 で表す) に加え、艦艇の砲装・艤装・砲齢、気象海象、薬温・薬質、射撃の方法・整備の良否等々、その時その時の状態、状況、条件などによって同一の砲でも命中率は変わってきます。 早い話が、撃つ度に命中率は変わる、ということです。
ではその一定しない命中率というものを艦砲射撃においてどのように解決していくかというと、それが 射法 になります。
もちろん、この射法が射撃関係員の日頃からの綿密な砲機調整であり、教育訓練の成果の上に成り立つものであることは申し上げるまでもありません。
最終更新 : 30/Jul/2017