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第9話 発射門数と命中率 |
問題の所在 |
命中率と命中速度 |
弾道と射弾散布 |
試射と本射 |
一斉打方と交互打方 ← 現在 |
問題の結論 |
それでは最後に 「交互打方」 と 「一斉打方」 についてです。
旧海軍では明治期から昭和初期までは砲塔動力の問題のために、砲塔砲では余程のことがない限り左右砲の斉発は行わないこととされ、交互打方を常用としこれを 「一斉打方」 と呼び、砲塔の斉発は 「斉発打方」 と呼んできました。
昭和10年代になってこの砲塔動力の問題が何とか解決して連装砲の斉発が実用に耐えるレベルとなってきたことから、昭和12年になって 『艦砲射撃教範』 を全面改定したのに伴い、次のように 一斉打方 交互打方 指命打方 及び 独立打方 の4つの打方として規定されました。
一斉打方 トハ一指揮系統ニ属スル砲 (連装砲) ヲ一斉ニ発射セシムルヲ言フ
交互打方 トハ一指揮系統ニ属スル連装砲ヲ二連装砲ニ在リテハ左右交互ニ三連装砲ニ在リテハ右中左交互ニ又ハ左右砲中砲ヲ交互ニ発射セシムルヲ言フ
指命打方 トハ一門又ハ数門ノ砲 (砲塔) ヲ指定シ毎回若干門宛発射発令時ニ発射セシムルヲ言フ
独立打方 トハ一指揮系統ニ属スル砲 (砲塔) ヲ各砲単独ニ発射セシムルヲ言フ
ここに来てやっと名称と実態とが一致するものになったのです。
では一斉打方と交互打方ではどちらが命中率は高くなるのでしょうか? それは後者の 「一斉打方」 です。 何故か?
ここまでの説明を読まれた方にはお判りいただけると思いますが、一斉打方の場合は交互打方に対して一斉射の射弾数が倍になるからといって、平均散布界も戦闘公誤も倍になるわけではありません。 つまり射心 (射撃中心) 近くに弾着密度が高くなりますので、有効弾獲得の確率も高くなるからです。
そして交互打方は半数門づつ打つからと言って、射撃速度が一斉打方の2倍になる訳ではありません。 弾着観測のために弾着時期と発砲時期が重ならないようにずらさなければならないからです。 一般的には少なくとも5秒以上離すこととされていました。 このため、通常は一斉打方の方が射撃速度は速くなります。 この点も多くの人が誤解をしているところでしょう。
ただし、交互打方では 8〜12 門艦の場合は一斉射 4〜6 門になり、弾着観測が容易で (=誤観測が少なくなる) かつ斉射間隔が短くできますので、目標の変針・変速や、測的誤差などの累積に対する対応が早くできるというメリットがあります。 日本海軍の射法は、射撃指揮官が斉射弾の一発、一発の弾着 (=目標に対して遠か近かを) を正確に観測して射弾指導を行うことが基本だからです。
これにより、旧海軍では 試射はその時の状況・状勢や試射法によって交互打方、一斉打方の適する方を選択 し、本射は基本的に一斉打方、場合 (敵が変針変速を頻繁に行う、射心移動が大きいなど) により交互打方 を用いました。
したがってネットの某所で出た
日本海軍の大型艦の射撃は射撃速度維持の面もあって交互射撃が基本であり、それは八門艦や九門艦でも変わりません。
というのは誤りですし、ましてや
我海軍 (そして、おそらく英海軍も) の採用した公算射撃 (散布界の選定等) では6から9 (10?) 門が、命中率が良好でした。 このため、我海軍では、12門艦は交互打ち方を、8、9門艦は一斉射撃を主用していました。
に至っては一体何に基づいているのかと (^_^;
では、欧米海軍の場合はどうだったのでしょう?
前頁で、欧米諸海軍には試射・本射と言うものはなかった、と書きましたが、実は同じように打方も旧海軍の 「交互打方」 に相当するものも無かった(=定義されていない) のです。
例えば米海軍の場合では 「Types of Fire」 について次のように規定されています。
Salvo fire is that type of firing in which a number of guns that are aimed at the same target and ready to fire are fired simultaneously by mean of a master key at the control station, by an automatic contractor, or on the same salvo signal.
Sprit salvo. When less than the full number of guns in a multiple gun mount or mounts os ordered to fire on one salvo signal.
Partial salvo. When less than the full number of guns (in single gun mount batteries) or less than the full number of mounts or turrets (in multiple gun mount batteries) is ordered to fire on one salvo signal.
つまり、「(full) salvo」 が 「一斉打方」 に相当しますが、「split salvo」 「partial salvo」 というのは旧海軍で言うところの 「指命打方」 に近いもので、これらの特定の応用形式が 「交互打方」 にほぼ相当するものになります。
そして米海軍においては前頁で説明したように、比較的広い散布界と射弾修正のやり方に基づいて射法が構成されており、水上射撃においては 「(full) salvo」 が原則 です。
ただし、交互打方の様なことは全くやらなかったかというと、そうではありません。 陸上射撃 (対地支援射撃、NGFS) です。
陸上射撃では、水上砲戦の様に相互に撃ち合う訳ではありませんし、目標が動き回る訳でもありませんので、腰を据えてじっくりと行ない、かつ前進観測班の弾着観測を得つつ射弾修正して行けば良いので、弾幕 (区域) 射撃において 「full salvo」 を要するような場合以外は 「pertial salvo」 又は 「split salvo」 が原則 です。
英米海軍も重巡以上の艦の射撃法の基本は交互射撃であり、全砲による斉発は戦時中に夜戦等で 「射撃機会が限られる」 場合等での特例で実施しています。
はおそらく何かを勘違いしたのでしょうね (^_^;
最終更新 : 30/Jul/2017