例題による射撃計算それでは、例題を使っての具体的な射表の使い方に入ります。
まず最初にやらなければならないことは、対勢図を作図して、どういう射撃を実施するのかの状況を把握することです。 この例題ではご説明を単純にするために、自針、的針、風向は北を基準とする 真方位 で、そして自速、的速、風速は 実速 で表しています。 もちろん、相対的な方位及び速度による方法も可能ですが、それによる説明と計算は別の機会とします。 そして、この対勢図から、射距離に影響を及ぼす要素と、苗頭に影響を及ぼす要素とをそれぞれ分速ベクトルとして計算します。 計算は小数点第2位以下を四捨五入しています。 水上射撃での手計算の場合は、この程度の精度があれば十分です。 (1) 目標の運動 まず目標の運動について、射表の第15欄と第18欄で射距離 11000ヤードに該当するところを見ますと、両方ともそれぞれ分速 10ノットについて 144ヤードが得られます。 上の対勢図から照準線方向の分速ベクトルは、近づく方向 (=距離減少) へ 17.3ノットです。 これによって目標は弾着時には 11000ヤードより近くへ移動していますので、結果的に弾丸はその分だけ目標より遠くに弾着することになりますから、弾丸飛行秒時中の偏位量は 射距離偏位量 : 遠(+)へ 144 x (17.3/10) = 224.2 ヤード また、照準線に直角な方向の分速ベクトルは、照準線に対して自艦から見て 右へ 10.0ノットで、これによって弾丸は弾着時に 目標の “左へ” 弾着 しますから、この弾丸飛行秒時中の目標に対する偏位量は 横偏位量 : 左へ 144 x (10.0/10) = 144.0 ヤード 本来ですと本偏位量は、まず先に目標の運動見越による未来位置の算出としてあるべきですが、水上目標の場合は対空目標に比べて格段に速度が遅いことから、煩雑さを避けるために目標未来位置を求める複雑な循環計算を省略し、射表を使ってこの運動見越の分を直接に弾道修正として計算します。 (2) 自艦の運動 上の (1) と同様に、射表の第14欄及び第17欄から、それぞれ分速 10ノットについて 47ヤード及び 78ヤードが得られます。 射距離偏位量 : 遠 (+) へ 47 x (9.0/10) = 42.3 ヤード (3) 風 力 同じく同様に、射表の第13欄と第16欄から、それぞれ分速10ノットについて97ヤード及び66ヤードですから、 射距離偏位量 : 近 (−) へ 97 x (7.1/10) = 68.9 ヤード (注) : 目標の運動、自艦の運動及び風による影響は、それぞれの分速ベクトルの方向に対して、目標の運動が反対の向き、自艦の運動及び風が同じ向きになりますので、遠か近か、左か右か、それぞれどちらになるのか注意して下さい。 (4) 薬 温 薬温は 80°Fですので、基準状態よりも 10°F低くなっています。 5インチ/38口径砲の場合、初速の変化は薬温 −1°Fについて −2フィート/秒と規定されていますので、 初速の低下量 : 2 x 10 = 20 フィート/秒 射表の第10欄は初速の10フィート/秒当たりの偏位量ですから、 射距離偏位量 : 近 (−) へ 50 x (20/10) = 100 ヤード (5) 換算砲齢 換算砲齢による初速差は、先にご説明した 「砲齢による初速差」 による方法で算出します。 現実初速 : 2600 − 51 = 2549 フィート/秒 これを射表の第10欄に当てはめると、 射距離偏位量 : 遠 (+) へ 50 x (49/10) = 245 ヤード もちろんこれは、砲側の照尺目盛が射表初速で刻まれているものの場合であって、公称初速で刻まれているものが装備されている砲の場合には、当然ながら公称初速からの初速差で第10欄に当てはめる必要があります。 (6) 空気密度 空気密度による初速差も、「空気密度による射距離修正」 による方法で算出します。 射距離偏位量 : 遠 (+) へ 240 ヤード (7) 気 温 気温は基準状態よりも 12°F高くなっています。 射表の第12a欄を使いますが、同欄は気温が基準状態より −10°F当たりの射距離増加量ですから、偏位量は距離減となって、 射距離偏位量 : 近 (−) へ 11 x (12/10) = 13.2 ヤード (8) 偏位量の総合 上記の (1)〜(4) を総合しますと、まず射距離の総偏位量は、
射距離に影響を及ぼす全ての要素による偏位量の代数和は遠 (+) に 569.4ヤード、即ち射距離 11000ヤードよりその分だけ遠に弾着することになりますので、照尺距離は逆の近 (−) に修正する必要があります。 ただし、照尺距離は通常は 100ヤード単位ですから、100ヤード未満を四捨五入して近 (−) 600ヤードとし、11000 − 600 = 10400ヤードとなります。 あるいは、50ヤード単位を使用して近 550ヤードとし、1450ヤードでもかまいません。 射撃実施上の各種誤差や射弾散布、射心移動などを考慮すると、照尺距離を 100ヤード以下の単位にしても現実問題としてはあまり意味がありません。 しかしながら、5インチ/38口径砲の照尺目盛でも 50ヤード単位で調定すること自体は可能です。 また現代のような精度の高い砲の場合、状況によっては水上射撃において 50ヤード単位で照尺距離を修正して射弾指導をすることも可能です。 次に、左右の総横偏位量は、
右へ 23.8ヤード偏位しますので、その逆の左へ 23.8ヤード、即ち苗頭を左へ 2ミル (換算方法はすでに説明しておりますからお解りですね) を修正する必要があります。 したがって、本例題の解答は、 照尺距離 : 10400 ヤード (又は10450 ヤード でも可) そしてこれを砲に調定して発砲したときの砲口の向きが、このときの 射線 (LOF) になります。 艦の動揺や各種誤差などを考慮に入れなければ、弾道学上はこれで目標に命中、あるいは少なくとも目標を中心とする単砲公誤の中に弾着するはずです。 ただし、この例題では射撃計算として砲に調定する照尺距離及び苗頭を求めていますから上記の解答でOKですが、射撃を実施した後でその結果を検討する場合 (= 射後分析 と言います) などでは、小数点以下1桁までキチンと使用することは申し上げるまでもないことです。 なお、苗頭の示し方は、米海軍及び海上自衛隊では修正無しの正中の場合を 「500」 とし、右をプラス (+)、左をマイナス (−) としています。 ですからこの例題の場合は
「苗頭 498」 (ヨン、キュウ、ハチ) ということになります。 旧海軍では正中の場合が 「0」 で、上記の解答のように 「右へ○○」 「左へ○○」
としていました。 お解りいただけましたでしょうか? 対空射撃に比べれば遙かに単純な水上射撃の場合でも、射撃指揮装置を使用しないときにはこれだけのことが必要になると言うことです。 もっとも、計算そのものは加減乗除の四則演算だけですし、実際の艦上でもその場その場でやっていることですので、難しい話しではありません。 ご自分で一度実際に計算していただければご納得いただけると思います。 それでは練習問題です。 今まで説明してきたことの総復習として、解いてみて下さい。
なお、三角関数の計算は、電卓又は専用プログラムをお持ちでない方は、「アクセサリ」 に入っている関数電卓を使われると簡単です。 解答は下のリンクをクリックすると別ウィンドで表示します。
最終更新 : 14/May/2015 |