射表の使用法 (射撃計算) その2




   その前に
   射表の構成             (現在の頁)
   空気密度による射距離修正  (現在の頁)
   砲齢による初速差        (現在の頁) 
   例題による射撃計算
   補足事項



 射表の構成


それでは実際の射表のご説明に入りますので、まず下の画像を右クリック (ダウンロード) 又は左クリック (別ウィンドウ表示) し、射表抜粋のPDFファイルを印刷してお手元に置いておいて下さい。




では、よろしいでしょうか?

お手元にあるのは、「OP-551 Range Table (Surface Target) for 5-inch 38-Caliber gun」 から射距離 10000 〜 13000 ヤード 分の見開き頁 (頁12及び13) を抜粋したものです。

この表の構成は、最左欄 (第1欄) が射距離で、10000ヤードから13000ヤードまで100ヤード刻みで記載されています。 射表は米海軍のものはこの100ヤード単位ですが、旧海軍のものは100メートル単位となっています。

そしてその右には、第2欄から第19欄まで、それぞれの射距離に対応する数値が記載されています。 各欄の項目は次のとおりです。


 基準状態における弾道諸元
  射距離に対する砲軸角 (度−分)
2a   同 上 (分換算) 
2b   射距離 100ヤード増に対する砲軸角増加量 (分)
  落 角 (度−分)
  弾丸飛行秒時 (秒)
  撃 速 (フィート/秒)
  定 偏 (ヤード)
  20フィートの高さの目標に対する命中界 (ヤード)
  頂点高 (フィート)
 射距離変化量 (ヤード)
10   初速 10フィート/秒の増加
11   弾量 1ポンドの減少
12   空気比重 10%の減少
12a   空気温度 10度Fの低下
13   風の射面内分速 10ノット当たり
14   自艦運動の射面内分速 10ノット当たり
15   目標運動の射面内分速 10ノット当たり
 横偏差 (ヤード)
16   風の射面に直角な分速 10ノット当たり
17   自艦運動の射面に直角な分速 10ノット当たり
18   目標運動の射面に直角な分速 10ノット当たり
 照明弾、陸上射撃用諸元
19   射距離100ヤード増減に対する弾着点の高さの変化 (フィート)

 

 空気密度による射距離修正


基準空気密度に対する当日の値による射距離の修正については、もし空気比重の値が解れば射表第12欄により可能ですが、通常は気圧、気温の値の形で得られるのが一般的です。  このため、気圧、気温による空気密度の修正を行う場合には、射表に専用の別図表がついているのが普通です。

今回射表使用法の例としている5インチ/38口径の射表には、下のものがついていますので、これも同様に印刷してお手元に置いて下さい。




この図表の構成は、左から気圧尺 (インチ)、支尺、気温尺 (°F)、射距離尺 (ヤード)及び射距離誤差尺 (ヤード)になっています。 射距離尺は、17270ヤードより上側の先は 45°以上の高仰角の場合ですので注意して下さい。



それでは、この図表をによって、次の条件の場合の射距離修正量を求める方法をご説明します。


    気    圧   :   28.5インチ
    気    温   :   80°F
    射 距 離   :   12000ヤード



(1) まず気圧尺上で、気圧28.5インチの所をマークします。

(2) 次に気温尺上で気温80°Fの所をマークします。

(3) そして、気圧尺と気温尺のマークを直線で結び、支尺との交点を求めます。

(4) 次いで射距離尺上で、射距離12000ヤードの所をマークします。

(5) 先の支尺上の交点と射距離尺のマークを直線で結び、更にそれを延長して射距離誤差尺との交点を求めます。




大体で +400ヤードになるはずです。 (作図の仕方によって多少の誤差は出ますので、あまり気にせずに (^_^) )

以上のようにして、射距離誤差尺上の交点が上記条件による基準状態からの射距離誤差、即ち要修正量になります。 この射距離誤差は、後で当日修正における他の要素と一緒にして射距離修正量を出します。


では、練習問題です。


問 : 次の条件での射距離誤差を求めよ。

        気   圧  :  28.9インチ
        気   温  :  70°F
        射 距 離  :  10000ヤード



解 :

 

 砲齢による初速差


砲齢による初速差も空気密度と同じで、射表付属の専用の別図表を使って出します。 砲齢によるこれも同じように印刷してお手元に置いて下さい。

本項で使用している 「OP-551」 ではこの砲齢による初速差算定用の別図表には薬種などによっていくつかのものが掲載されていますが、ここでは薬種 SPDN についての3頁だけを抽出しています。




上図の左 (PDFファイルでは最初の頁) が、スターゲージやエロージョン・ゲージを使用して計測した値から直接初速差を求める 「砲中摩耗度−初速差」 図表です。 また、右 (3頁目) は、常装薬換算の既発射弾数から砲中の摩耗度 (= 換算砲齢 とも言います) を求める 「換算砲齢−砲中摩耗度」 図表で、その摩耗度の値によって左 (最初の頁) から初速差を求めます。

PDFファイルの2頁目には、下図に示す薬種 SPDN を使用する場合のインデックス修正による補正表が記載されています。



それでは、これら図表をによって、次の条件の場合の初速差を求める方法をご説明します。


    換算既発射弾数   :   1000発
    使用薬量        :   15ポンド
    インデックス番号   :   4103



(1) まず、右 (2頁目) の図表を使用して、横スケールの既発射弾数 (1000発) で曲線の交点をマークします。

(2) その交点に該当する縦スケールの砲中摩耗度を求めます。 「123」 (= 0.123インチ) という値が得られるはずです。


(3) インデックス番号4103ですから、インデックス修正の補正表により薬量が0.15ポンド増となり薬量15.15ポンドとなります。 そして、 「砲中摩耗度−初速差」 図表を使用して、横スケールの砲中摩耗度(123)で薬量15.15ポンドのところに交点をマークします。

(4) その交点に該当する縦スケールの値が求める初速差 (初速低下量) になります。 90フィート/秒が得られるはずです。


そして、再びインデックス修正によりこれに更に +21フィート/秒の補正が加わります。


さて、ここで注意していただきたいのは、この5インチ/38口径砲の射表の場合、この図表を使って求める初速差は射表編纂の初速 (= 射表初速 と言います) 2500フィート/秒からの低下量ではなく、新砲での初速 (=公称初速 と言います) である2600フィート/秒からの低下量である点です。

即ち、上記の条件での場合、この砲の現在の初速 (= 現実初速 と言います) は次のとおりとなります。

   2600 − (90 + 21) = 2489 フィート/秒



つまり、5インチ/38口径の射表は、この砲の命数期間中の平均初速である2500フィート/秒で編纂されているのです。 そして米海軍の射表はほとんどがこの命数の平均初速を使用しています。 これは射表使用時に極力正確な修正値を得ることを意図しているためです。

それでは、何故この初速差を求める場合だけ、新砲初速の 2600フィート/秒が基準なんでしょうか? 射表編纂上の初速である 2500フィート/秒からの増減差を出すようにした方が、他の記載データと整合がとれて、使い易いはずです。

理由は簡単でして、元々は射表も公称初速で編纂されていたのですが、上記の理由により平均初速での編纂に代わった時に、この射表の以外の付属のデータは元のまま残ったためです。 

と言いますのも、元来が砲中摩耗度というのは物理的に公称初速を基準として計測され、図示されるべきものであって、射表そのものとは別のものだからです。

もっとも、3インチ/50口径砲のように、砲側に装備されている照尺そのものが公称初速で刻まれている例もあります。 多分、5インチ/38口径砲でも初期の生産分にはこの公称初速で照尺目盛が刻まれたものがあったのではないかと考えられます。

当然この場合は、この公称初速からの初速差をもって射表初速で射距離偏位量を計出しなければならないので、公称初速からの初速低下を求める図表の方が便利なわけです。



(注) : 「砲中」 という用語の 「砲」 の字は、正しくは 「月」 偏に 「唐」 と書いて 「とう」 と読む文字ですが、常用漢字表にも常用フォントにもありませんので、全て 「砲」 で代用しています。







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最終更新 : 14/May/2015







1.概 要

2.弾道基準修正

3.弾道当日修正

4.射表の使用法