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魚雷発射法 (その3)



 雷道上の問題


安定した雷道を確保する上で問題となる事項のうち、ここでは次の5つを取り上げます。


   (1)  深  度
   (2)  左右傾斜
   (3)  俯仰角
   (4)  雷  速
   (5)  偏  倚


  (1) 深 度


魚雷が駛走中の深度の状況は次のとおりです。


イ. 実際の駛走平均深度を中心として、上下に概略 0.5mの振幅で波動を画く場合が多い。

ロ. 波動は、1000m当たり 10〜15回程度となるのが普通である。

ハ. 最も波動の回数が多いのは最初の1000mの間である。



また、調定深度と実際の駛走平均深度との差となる誤差の原因については、次ぎのとおりです。


イ. 深度機の装備位置によるもの
魚雷の各表面に及ぼす水圧は場所によって異なりますので、当然ながら深度機を魚雷のどの位置に装備するかで誤差が生じます。





ロ. 調定上の人的誤差

ハ. 縦舵と横舵の相互干渉作用

ニ. 横舵系統(深度機、横舵機、伝導装置)の不良

ホ. 深度機室内の気密不良による内圧の増加

ヘ. 加速度による振錘の移動


(注) : 旧海軍における昭和期の深度公差は 0.5m程度とされています。



  (2) 左右傾斜


魚雷が駛走中に左右傾斜を生じる原因については、次のとおりです。


   イ. 取扱い不良による推進器の変形
   ロ. 推進器翼の削り具合の不良、不斉一
   ハ. 水圧による推進器の一時的な変動


(注) : 旧海軍の九〇式及び九三式魚雷などでは、雷速 40kt 付近では左右傾斜無し、40kt 以上では左傾、40kt 以下では右傾となるように計画されていました。



  (3) 俯仰角


魚雷の駛走中の姿勢は水平であるのが雷道上からも理想ではありますが、設計上どうしても負浮量とせざるを得ないことから、安定雷道のためには多少の仰角となることは免れません。

このため既に述べたように安定角及び安定操舵量をもって駛走させるわけですが、それでもこの安定角を中心として小量の上下振動を繰り返すこととなります。

(注) : 上下振動の範囲は、旧海軍の九〇式及び九三式魚雷で、安定角を中心に 0〜5度、周期は 3〜5秒で、特に駛走状態に入った初期に激しいとされています。



  (4) 雷 速


射入以後の魚雷の速度については、次のとおりです。


イ. 射入後の雷速は調定雷速の約50%程度である。

ロ. 射入後の雷速低下の原因は次のとおり。



   (1)  遅動距離
   (2)  斜進角度
   (3)  屈曲度
   (4)  沈 度
   (5)  縦面進路の不良


ハ. 熱走に移行すると急に増速して、熱走開始後約100mで調定雷速の75%、約300mで90%、約700mで100%となるのが一般的である。

ニ. 実際の雷速(平均速度)は、約3000m以上駛走した後ならば略一定値として用いることができる。



  (5) 偏 倚


雷道に偏倚を生じる原因と誘因は、次のとおりです。


   イ. 縦舵機の力量の不足
   ロ. 縦舵機の調整の巧拙
      (大部分の偏斜の原因はこれ)
   ハ. 安定雷道中の左右傾斜
      (横舵の縦舵的作用及び縦舵の傾斜)
   ニ. 魚雷の過度の俯仰
   ホ. 推進器の変形


  


 雷道調定上考慮すべき事項


発射する魚雷を良好な雷道で駛走させるために、雷道調定上考慮すべき事項は次のとおりです。


  (1) 魚雷諸元


本 「魚雷発射法」 の最初に解説した 「調定諸元」 以外のもので、雷道調定上考慮する必要があるものは、次のとおりです。


イ. トリムを適切にする。


(注) : 旧海軍の九〇式及び九三式魚雷では、一般に前方 20〜35mmであり 、後方トリムは不可とされていました。


ロ. 浮 量
魚雷の設計及び製造上適切に造られているので通常は調整の必要はありませんが、教練発射時には沈没防止上適当となるように設定する必要があります。

ハ. 雷 速
何度も発射を繰り返す内に各部の摩耗が生じるので、個々の魚雷の来歴簿によって計画どおりの雷速が得られるように、毎回決定する必要があります。

ニ. 斜進及び縦舵操舵量
左右操舵量を斉一にすると共に、極力旋回圏を斉一かつ小さくするように調整する必要があります。

ホ. 横舵操舵量
安定駛走状態維持及び跳出防止などを考慮して、上下操舵量を設定する必要があります。

ヘ. 遅 動
確実に熱走させるために設定するものですが、所定雷速を得るためには極力小さい (短い) 方が良いことは言うまでもありません。

ト. 横舵制止及び初度
発射時及び発車直後の激動を横舵系統に与えないための横舵制止と、その制止間の横舵量を決定しておくものですが、これの設定が適切でない場合は射入状態及び駛走状態に影響を与えます。

チ. 自由浮出角度の制限を適切にする。

リ. 諸注入量を適切にする。



  (2) 発射艦の諸元


発射艦の艦速が大きくなる程、次のような影響を生じます。


イ. 艦首尾波が増大する。 特に編隊航行の場合は然りです。 これに対しては一般的には沈度を大きくするのが良いとされています。

ロ. 転動量が増大する。

ハ. 屈曲度が増大する。



また、転舵発射の場合の影響は次のとおりです。


イ. 発射機に俯角を生じさる。 これは即ち落角に影響します。

ロ. 屈曲度が増大する。

ハ. 艦尾波が不規則となり射入を不良にする。



  (3) 発射機の諸元


魚雷発射上発射機で考慮すべき事項は、次のとおりです。


イ. 発射空気圧力又は火薬力を適切にして、計画した射出力が得られるようにする。

ロ. 旋回度
前方旋回は偏速のため射出力を増大する必要がありますが、一般に射入は不良となります。
後方旋回は偏速のため射出力を減少する必要がありますが、一般に射入は極めて不良となります。

ハ. 落 角
射入を良好にするためには一般に落角を大きくすることですが、これにより沈度が大きくならないように適切な落角とする必要があります。


  


 その他の問題


  (1) 熱帯地における発射法


機室の温度上昇に伴う装気圧力の上昇に注意し、気密の破損を防止する必要があります。 ただし、気密を破壊しない範囲において極力装気圧力を高く保ち、装気量不足による射程の短縮を防止することも必要です。



  (2) 寒冷地における発射法


潤滑油系統の凍結を防止すると共に、滑動部の寒気による脆弱化の防止を図る必要があります。



  (3) 全射線発射法


1艦において全射線発射を行う場合には、次の点に考慮する必要があります。


   (1)  発射魚雷相互の触雷を防止する。
   (2)  発射間隔を縮小する。
   (3)  発射艦の速力変化に対応し得ること。
   (4)  斜線欠落に対する応急処置が容易であること。






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 最終更新 : 27/Aug/2011