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魚雷発射法 (その2)



 雷 道


  1. 筒内雷道

(注) : 「筒」 の字は正式には 「月」 偏に 「唐」(月唐) の字ですが、残念ながらこの字はインターネット環境ではうまく表示されませんので 「筒」 で代用しております。

筒内雷道とは、発射されて発射機の管口をでるまでの魚雷の動きを言い、良好な筒内雷道の条件とは次のとおりです。


  (1)  運動中の魚雷の外皮や機関を毀損しないこと
  (2)  適当な初速がえられること
  (3)  魚雷に過度の振動を与えないこと
  (4)  管口を出る際に魚雷を毀損しないこと


そして、この筒内雷道の良否に影響する事項は、次のとおりです。


  (1)  発射機の種類
  (2)  発射機の高さ
  (3)  匙形導溝の長さ
  (4)  発射気蓄器の容積
  (5)  発射管の内径
  (6)  装気圧力、発射圧力
  (7)  発射機の旋回角度と俯仰角度
  (8)  魚雷の重量
  (9)  筒内及び魚雷外皮の手入れ状況
 (10)  発射弁の開度
 (11)  発射艦の速力


以上のことを勘案し、筒内雷道を調節する上で考慮すべき事項は、次のとおりとされています。


(1) 初速は 9〜12m/秒程度が適当である。

(2) 平水時、転舵発射によって生ずる発射機の俯仰が魚雷の初速に及ぼす影響は一般に小さく、このため特殊の場合の他は発射空気の調整は不要である。

(3) 発射機の高さが高いものは低いものよりも若干初速を大きくする必要がある。

(4) 匙形の導溝の長さが長い程、初速が増大する傾向がある。

(5) 旋回角度が正横より前方の場合は初速は増大し、後方の場合は低下するので、初速はこれを打ち消すように修正する必要がある。 特に発射艦の速力が大なる程然りである。

(6) 魚雷の重量が大きくなる程、初速は減少する。

(7) 発射空気の装気圧力が高くなる程、初速は大となる。

(8) 発射弁の開度は適当なる初速を得るように決定する必要がある。 過大の時は却って魚雷の振動を大にし、必ずしも初速を増大することにはならない場合がある。

(9) 筒内及び魚雷外皮の手入れが不十分な時は摩擦が大となるので、一定の初速を得るためには発射空気の圧力を増大する必要が生じる。

(10) 魚雷と筒との隙間が過大なものは魚雷が踊る傾向を生じ、射入状態を不安定にする場合が多い。




  2. 空中雷道


空中雷道は、基本的にはほとんど筒内雷道の延長であって、その良否は大部分が筒内雷道の状態によって左右されることになります。

そして良好な空中雷道として要求される条件は、次のとおりです。


 (1)  適当な落角となること
 (2)  安定した雷道であること
 (3)  波浪により魚雷を毀損するような事が生起しないこと
     (特に発射艦自身が造る波)


このため、空中雷道を管制する上で考慮すべき事項は、次のとおりとされています。


(1) 水上発射機において良好な射入状態を得られる落角は 7〜8度である。

(2) 射速が大きい時は、一般に落角は小さくなる。

(3) 発射空気圧力及び筒内雷速が小さい程、一般に落角は大きくなる。

(4) 落角が大きい程、沈度が大きくなる。



この空中雷道で皆さんに特に説明したいことは発射管の先に取り付けられている匙についてです。 この 匙が何のために取り付けられているのか、その役割については意外と知られていないのが現状です。

この発射管匙は、明治期に魚雷を発射機からなるべく水平に射出するために考え出されたもの ですが、大正〜昭和期になり魚雷の雷道、特に射入状態の研究が進むに連れて重要な意味を持つようになりました。

実は、この匙の内側に付けられている導溝の長さが魚雷の適切な落角を得るための役割を果たしているのです。




魚雷の重心点付近上部にあるT形導子と鰭の導子の距離を 、初速を 0、魚雷重量を 、鰭導子と管口の距離を 、とすると、T形導子が匙導溝の先端を出た瞬時から鰭導子が管口を出るまでの所要時間は t = L/u0 となります。 すると、重力によって の時間に魚雷に働くモーメントは鰭導子を軸として、




これを落角 (α1) で書き直すと、




即ち、落角は魚雷の縦釣合に比例し、初速に反比例することになります。

したがって、T形導子と鰭導子の距離 ( ) は魚雷によって決まっていますから、匙の導溝の長さによって L を変えることにより、落角を調整することができる 訳です。




  3. 射入雷道


射入状態における雷道を射入雷道と言います。 この射入雷道に要求される条件は、次のとおりです。


  (1)  沈度が過大とならないこと
  (2)  水面跳出したり露頂しないこと
  (3)  速やかに調定深度となること
  (4)  速やかに縦面針路が安定すること


まず着水時に魚雷は海面による抵抗を受けて、次のように落角と射入角に差がでます。


(1) 魚雷が水平に落下した時はその形状から頭部が押し上げられ、落角 > 射入角となる。

(2) 俯角の状態で落下した時は頭部が押し上げられ、発射機高が大きい程その影響は大きくなる。

(3) 仰角の状態で落下した時は尾部が押し上げられ、頭部が下がる。

(4) 着水時の海面の波浪による影響は下図のとおり。





次いで、射入時に魚雷に生じる現象には次のものがあります。


(1) 屈曲して発射艦の艦尾方向に偏倚する。

(2) 発射艦の速力が増大するに伴い急激な転動を生じる。 このため縦舵と横舵の作用が相互に干渉して、雷道が非常に不規則となる。

(3) 沈度が大きくなるに連れて魚雷の駛走深度が安定するまでに時間がかかる。

(4) 射入初期の魚雷速力は低下する。 点火遅動距離を長く調定するとこの傾向は益々顕著となる。

(5) 斜進が調定されている場合は、射入と同時に縦舵が作用して魚雷は旋回圏を画きつつ所定の方向に指向する。



上記の現象 (1) について、その屈曲度及び偏倚量に影響する事項は次のとおりです。


  (1)  発射艦の速度が大きい程、両者は大きい
  (2)  発射時の回頭速度が大きい程、両者は大きい
  (3)  落角が大きい程、屈曲度は大きい
  (4)  偏倚量は屈曲度の大きさに比例する
  (5)  偏倚量は縦舵の操舵量により変化する


上記の現象 (2) の転道の原因となる主なものは次のとおりです。


(1) 偏速によるもの





(2) 推進器のトルクの不均衡によるもの
調定雷速においては前後推進器のトルクは平衡を得るように設計されているが、射入の初期における低速の間はこれが不均衡となって魚雷に傾斜を生ずることとなります。

(3) 復元力によるもの
上記 (1) 及び (2) により転動が生ずると、魚雷の復元力により元に戻り更に反対側に行き過ぎて、いわゆる 「ローリング」 の状態を呈することになります。

(4) 縦舵の操舵によるもの
水上艦艇が転舵する時に生じるのと同様に、縦舵の操舵中は外方に傾斜します。 射入直後に屈曲度の修正のため、あるいは調定された開角及び斜進角を取るために直ちに縦舵が作動しますので、この影響が生じます。


(注) : 転動については、旧海軍の魚雷では射入後500m程度で安定するとされていました。



上記の現象 (3) について、沈度と深度安定距離の一般的な状態は次のとおりです。




(1) 射出力が小さく、かつ落角が大きい場合は、沈度は大きい。

(2) 遅動が大きい場合は射入初期に低速であるため、沈度は小さい。

(3) 横舵の制止が大きい場合は、一般に沈度は小さい。
(深度機の錘量が加速度の影響を受けない期間が大きいため。)

(4) 転動が大きい場合は、横舵初度は必ずしも沈度調節の用をなさない事がある。 もし90度転動すれば、横舵と縦舵とは反対になる。

(5) 縦舵の操舵量が大きい場合は、一般に沈度に及ぼす影響が大きい。 特に斜進発射においては魚雷回頭時の転動 (傾斜) によって、縦舵による横舵作用が出るためその傾向が顕著となる。

(6) 魚雷の重量が大きい程、沈度は大きい。

(7) 釣合が前 (Down) にあるか後ろ (Up) にあるかで、沈度に差が出る。

(8) 横舵の操舵量及び作動の良否は、沈度に大きな影響がある。

(9) 射速が大きいものは、沈度が小さい。

(10) 発射機の高さが高いもの程、一般に沈度が大きい。

(11) 沈度が大きい程、深度安定距離は大きくなる。

(12) 自由浮出角度を制限 (上舵の制限) したものは、深度安定距離が大きくなる。



この (12) における自由浮出角度が雷道に及ぼす影響は、次のとおりです。


(1) 自由浮出角度が過大の場合は、魚雷が海面に跳出する機会が多くなる。

(2) 自由不出角度が大きい場合は、深度安定距離は小さくなる。

(3) 自由不出角度が大きい場合は、魚雷の縦面進路が波動となりやすい。



また、魚雷に生じる現象の (5) に関連して、斜進及び旋回が雷道に及ぼす影響は、次のとおりです。


(1) 雷速が低下する。

(2) 転舵の際は先ず最初に外方に傾斜する。 次いで等速の円運動を画くようになると、遠心力と海水の側圧によって内方に傾斜する。

(3) 傾斜すると、縦舵は一部横舵の作用をする。

(4) 操舵をするとその反対側に魚雷全体が滑るように偏位するが、一般的に操舵は左右交互に取るため、左右の舵角及び操舵速度に差が無い場合は偏斜は生起しない。

(5) 上記 (2) のため、縦舵の左右交互の操舵は魚雷に常に一定の動揺を生じさせることになる。




  4. 安定雷道


射入状態から駛走状態に入ると、魚雷は安定雷道を画いて指示された深度、針路を駛走します。

魚雷は一般的に負浮量であるため、駛走状態おいては一定の仰角を持った状態で安定して駛走することになります。 この時の横舵の操舵角度を 安定操舵量、それによる魚雷の仰角を 安定角 と言います。

この安定して駛走する時に魚雷が平衡状態を保つ条件は、




    T + Q + R= 0              −−−−−−− @

    Q + R + T + B + W = 0       −−−−−−− A

    Q + R + T + B = 0          −−−−−−− B



t は一般に小さい (≒0) ので、B 式は


    Q + R + B = 0              −−−−−−− B’



そして、魚雷は一定深度を安定した姿勢で平衡駛走するためには、その釣合の偶力と浮量の両者のバランスを横舵の操舵力のみで取らなければなりません。

もし、魚雷のトリムが水平 (θ=0) である場合には、q=0、QL=0、TL=0 ですから、上記の A 式及び B’式は、


    R + B + W = 0               −−−−−−− A’

    R + B = 0                   −−−−−−− B''



となります。 この2つの式を満足する状態を 限界状態 と言い、この時の浮量を 限界浮量、操舵力を 限界操舵力と言います。


即ち、


(1) 限界状態にあってトリムが水平 (θ=0) の場合
B+W = 0 であり、限界浮力及び限界操舵力も 「0」 となり、横舵は水平のまま

(2) Up トリム (θ>0) の場合
B+W < 0 であり、限界浮量は負 (−) となるため、横舵は下舵 (Up 舵) にとる必要がある

(3) Down トリム (θ<0) の場合
B+W > 0 であり、限界浮量は正 (+) となるため、横舵は上舵 (Down 舵) にとる必要がある



また、魚雷の浮量が限界浮量に等しくない場合は魚雷に俯 (仰) 角を生じるため、浮量を負担するためと偶力に釣り合うための操舵力が必要となります。 この場合の魚雷の状態は次のとおりです。


(1) 限界浮量よりも魚雷が軽い場合
魚雷は頭を下げ (=俯角)、限界操舵量より横舵を上方に取って (=Down 舵) 釣合をとり駛走する。

(2) 限界浮量よりも魚雷が重い場合
魚雷は頭を上げ (=仰角)、限界操舵量より横舵を下方に取って (=Up 舵) 釣合をとり駛走する。



以上のことから、魚雷の釣合、浮量、俯仰角及び操舵力の関係を纏めると、次のとおりとなります。


(1) トリムが「0」の場合
無浮量の時は、魚雷の姿勢は水平、横舵も水平
負浮量の時は、安定角は仰角、横舵は下方 (Up 舵)
正浮量の時は、安定角は俯角、横舵は上方 (Down 舵)

(2) 前方トリムの場合 : 限界浮量は正、限界操舵力は上舵であるので、
負浮量の時は、安定角は仰角、横舵は限界操舵力より下方で駛走する。
正浮量の時は、浮量の大きさと釣合量の大小によって安定角は仰角又は俯角となり、また操舵量の正負もこれによって決定される。 即ち、
   B+W > 0 の場合は、安定角は俯角で、上舵
   (B+W)’< 0 で (B+W)’< (B+W) の場合は、安定角は仰角で、下舵

(3) 後方トリムの場合 : 限界浮量は負で、限界操舵力は下舵であるので、
負浮量の時は、安定角は仰角、安定舵角は限界操舵力よりも上方となる。
正浮量の時は、浮量の大きさと釣合量の大小によって安定角は仰角又は俯角となり、また操舵量の正負もこれによって決定される。



したがって、結論的には 負浮量で前方トリムの魚雷 は、後方トリムのものより姿勢を平衡とするために必要とされる操舵量が小さくて済むので、雷速の低下などが少なくなり雷道上有利 ですから、一般的には魚雷はこの様になるように設計されるのが普通です。





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 最終更新 : 27/Aug/2011