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第4話 迎送式について




 映画 「トラ・トラ・トラ」 の冒頭シーン
 登舷礼式
 「迎送式」 とは、陸上から長官艇へ
 長官艇で旗艦へ
 旗艦乗艦 (着任) ← 現在の頁




 旗艦乗艦 (着任)


迎えの短艇が旗艦の 右舷 舷梯に到着し、長官が乗艦することになりますが、この時に 「海軍礼式令」 (以下 「同令」 と言う) 第69条中の着任の新司令長官が将旗を掲げて舷門を入る場合が適用となります。 この 「海軍礼式令」 も 『海軍法規類集』 コーナーで公開しておりますので、ご参照ください。

即ち、次の3つを行います。


    1.旗艦総員及び麾下各級指揮官等が出迎える
    2.衛兵礼式を行う
    3.兵曹一名が舷門で号笛 (サイドパイプ) を吹く


では、この1.の旗艦総員はどこにどの様に整列するのでしょうか?

実はこの整列場所、整列要領については旧海軍として統一された規定のものはありません。 これは各艦の後甲板などの広さや、構造・装備品などの配置によって変わってくるためですが、とは言っても基本的な要領・考え方は同じです。

この各艦毎の整列要領などについては、その艦の戦闘、非常応急、各種作業などの配置を定める 「部署」 の中で規定されます。 今、昭和期の適当なものが出てきませんので、代わりに大正期の戦艦 「河内」 のものをご紹介します。


( 「河内部署」 より )


もちろんこの要領はいわゆる 「登舷礼式」 とは別のものです。 したがって、映画 「トラ・トラ・トラ」 のように、前檣楼や最上甲板舷側などの各部に兵員が一列に居並ぶようなことはありません。 あれはあくまでも映画の演出上のことです。

そして旗艦乗員以外の者の参集する範囲は、同令により次のとおりとされています。


第百二十九条
 四  艦隊司令長官、独立艦隊司令官又は戦隊司令官に対しては其の旗艦以外の麾下の各艦長、各艦士官室高等武官、各艦士官次室高等武官、准士官総代各1名其の旗艦に参集し対舷に整列して其の旗艦の総員と共に送迎す


2.の衛兵礼式ですが、同令第96条の中で次のように規定されています。


衛兵 (衛兵司令之を指揮す) は其の舷又は対舷の後甲板に整列捧銃を行い喇叭 「海行ば」 一回を吹奏す


ただし、連合艦隊旗艦のように軍楽隊が乗艦する場合には、同令第56条の規定により喇叭に代わり軍楽隊が吹奏します。 その軍楽隊の整列位置は通常衛兵隊の右側 (向かって左側) です。


3.の号笛は、これは現在の海上自衛隊でも同じですので皆さんなら一度はお聞きになったことがあると思いますが、指揮官が舷門を出入りする時には例の 「ホ〜〜ヒ〜〜、ホ〜〜〜〜」 という息の続く限りの大変長いものを2回吹きます。


( サイドパイプ )


1回目の吹奏は短艇が舷梯に着くまでに吹き終わるもの。 そして2回目は新長官が短艇から舷梯に一歩足を進めた時から息が続く限りです。

したがって映画 「トラ・トラ・トラ」 において、舷梯を上がり舷門を通過したあとの次のシーンは、下士官兵が舷側に一列で並んでいることを除けば間違ってはいないといえるでしょう。


( 同映画広報用画像より )


ただし、黄色縁取りがある赤色の敷物は誤りです。 この様な敷物に縁取りがあることはありませんし、そもそも余計な華美を嫌う旧海軍において戦艦の木甲板に敷物を敷くなどは、陛下の行幸でもない限りありません。 これも映画上の演出と言えます。

新長官を出迎える (整列した士官などの列外にいる) のは旧長官であり (上の画像では左端の背中を見せている)、通常ですとその後ろに参謀長、副官、旗艦艦長が控えます。

そして旧長官が案内して長官専用昇降口から長官室に入り、長官公室で申継が行われますが、これは通常は映画のシーンにあるように実際も簡単な形式的なものです。 詳細な申継はもし時間的な余裕があれば陸上に場所を設けて非公式で行われますし、余裕がない場合には申継書の授受のみで終わる場合もあります。 何れにしても詳細はあとから参謀達が説明することになりますので。

この申し継ぎが終わると、旧長官の離任がこれまでご説明した着任と逆順で行われます。


旧長官を送り出したあと、通常は長官公室において各級指揮官及び司令部幕僚による 伺候式 を儀式として行い、続いて新長官の訓示が行われ、これにて司令長官の離着任についての行事を終わります。

もちろん、この一連の流れや要領はその状況などにより多少変わりますし、また伺候式や訓示などは時間をずらして行うこともあります。


さて、連合艦隊司令長官の交代よる迎送式に伴う一連の流れをお話ししてきましたが、付け加えておかなければならないことが3つあります。

まず一つ目が服装についてです。

司令長官に限らず、離着任の場合は 「海軍服装令」 第3条第15号の規定によって 「通常礼装」 と定められ、同第10条の規定により夏季の場合の着装法は第二種軍装に同じとされています。 そして、同第3条16号の規定により、これを送迎する者も同じく 「通常礼装」 とされています。

また通常礼装の場合は勲章は、第28条第3号の規定により最上級のもの1個を佩用することとされています。 したがって、映画 「トラ・トラ・トラ」 でのシーンは、昭和14年8月のことですのであの服装で合っていることになります。

もっとも、史実が夏季以外であったならば、衣装さんはその準備などで大変なことになったでしょうが (^_^;


次が将旗についてです。

前任の吉田善吾も山本五十六も同じ中将です。 では、聯合艦隊司令長官たる中将の将旗は、この交代の時も旗艦に揚がったままなのでしょうか?

これは、山本が旗艦に着任するまでは前任の吉田が聯合艦隊司令長官として将旗を旗艦に掲げています。 そして新任の山本が着任、即ち長官艇が舷梯に着く直前に中将旗を一旦降ろし、そして山本が舷梯に一歩足を踏み出した瞬間に再度掲揚します。

そして、申継を終わり前任の吉田が離任する時は中将旗はそのままです。 即ち、山本が新長官として着任し乗艦しているからです。

新旧長官の階級が異なる場合には、この着任の時に同時に上げ下げすることになります。 これらは交代時においても “指揮官は常に一人” という考え方に基づいています。

また、前項で説明した長官艇の将旗は、山本が旗艦の舷梯に足を進めた時、即ち旗艦のマストに将旗が揚がった時に同時に降ろします。 そして前任の吉田が離任のために長官艇に足をかけた時に 「海軍旗章令」 第20条の定めに従って、艇首旗竿に中将旗を掲げることになります。


さて最後の3つ目です。 映画 「トラ・トラ・トラ」 の冒頭シーンでも出てこなかったことですが、何かお気づきでしょうか?

そうです 「礼砲」 です。 本来ですと、「海軍礼砲令」 第31条の規定に基づき、司令長官又は司令官たる海軍大将、中将、少将、及び司令官たる海軍大佐に対しては、その着任時及び解職による退艦時に、夫々17、15、13及び11発の礼砲をその麾下の艦何れか1隻により行わなければなりません。

しかしながら、支那事変のため昭和12年8月に 「官房4021号」 をもって同第34条 (戦時事変規定) の規定を適用して、以後我が国文武官に対する礼砲は特令の場合以外は行わないこととされました。 そしてこれがそのまま太平洋戦争まで続くことになります。




したがって、映画の冒頭シーンは昭和14年のことですので、礼砲が無かったのは正しいことになります。 (逆に言うと、この状況により本来はあるべき礼砲がなかったと言うことを映画をご覧になったどれだけの方々が理解されているか、ということにもなりますが (^_^; )

ついでに申し上げるならば、昭和18年2月には 「官房軍144号」 をもって礼砲令第30条 (戦時規定) を適用して、太平洋戦争中は特令する場合以外は皇礼砲や対外礼砲を初め 「礼砲令」 に定める礼砲の全てを行わないこととされました。




(この項終わり)







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 最終更新 : 07/May/2017