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第4話 迎送式について



 映画 「トラ・トラ・トラ」 の冒頭シーン
 登舷礼式 ← 現在の頁
 「迎送式」 とは、陸上から長官艇へ
 長官艇で旗艦へ
 旗艦乗艦 (着任)




 登舷礼式


まず、「迎送式」 の細部に入る前に 「登舷礼式」 についてお話しします。

「海軍礼式令」 に定める登舷礼式については、先にご説明したとおり同令第67条で規定されています。

この規定で注意していただきたいのは、同令第63条及び64条に規定される陛下の臨御 (乗御及び還御) の場合以外は、同令第65条も含め全て自艦の艦上以外のことに対する礼式であるということです。

そして同令第65条を除くと、自艦以外の艦船などに対する第67条第1項の規定は大変に包括的なものです。


「 出港の艦船を見送るとき其の他必要と認むるとき 」


の 「其の他」 とは具体的にどういことなのでしょうか? そしてどの様に実施すればいいのでしょうか?

旧海軍が一般向けに出した用語解説集である 『海軍辞典』 (弘道館、昭和17年) では、登舷礼式について次の様に記述されています。


海軍礼式の一種。 総員を艦首より艦尾までの両舷側に整列せしめ、貴顕の送迎または出征遠航等の壮途に上る軍艦に対して敬礼または送別の意を払うをいう。 観艦式に於ける御召艦に対する登舷礼式の如きは最も荘重なる盛儀である。


観艦式でのものが “最も荘重なる盛儀” と言っているように、その実施要領には場合場合により差があることであり、最も顕著な差が儀式に伴うものか、そうでない場合なのか、ということになります。

儀式に伴う場合は、整列に “見栄え” “威容” と言ったものが重視され、艦首から艦尾まで可能な限り隙間なく、かつ等間隔で舷側に整列します。 そして服装も通常礼装又は軍装ということになります。

観艦式での例は次の様なものになります。




もちろん、礼式令に定める 「舷側又は上甲板」 に整列する というのは、状況及び艦型・構造によりかなり柔軟に解釈されます。

例えば、次のように短艇甲板が艦中央部の大きな部分を占める場合には当然ここに並びますし、艦長以下主要幹部は艦橋に、またその他の士官は目立つ砲塔の上に、と言った場合もあるわけです。




要は “見栄え” と “威容” が保たれているかどうかということです。

その一方で、儀式に伴う場合でない時は、その “見栄え” “威容” といったものよりも、登舷礼式本来の “送別の意を払う” ことが問題になります。

実はここに旧海軍としての “伝統と慣習” と “臨機応変” と言うものが入る余地があります。 そして海軍礼式令の 「其の他必要と認むる場合」 というのもこれに従うことになります。

つまり、単に 「登舷礼式」 とは言っても、海軍礼式令の規定に厳密に沿った場合もあれば、そうでない場合もある、と言うことです。

例えば、次の写真は昭和12年練習艦隊出港を見送る 「陸奥」 です。




下士官兵の服装は事業服の者が多く、また前檣楼の各層などにも沢山の乗員が見られ、海面にある短艇にも並んでいます。 如何にも作業中の手を休めて、という雰囲気が伝わってきます。

ところがその一方で、白い事業服の者と、紺色の軍装の者、これらが整然と別れて並んでいることにも注意して下さい。 これが船乗りとしての躾、慣習であり “スマートネス” と言われるものです。

次の例は、昭和17年3月に出撃する 「那智」 とそれを見送る 「足柄」 との登舷礼式です。 この場合も乗員の服装はそのままに、かつ整列場所もありとあらゆるところですが、それでもバラバラではなく、キチンと整列しています。






そして最後の例は、昭和年15年貴族院と衆議院議員が 「摩耶」 を見学に訪れた際、短艇での離艦に当たって手空きの者が舷側に並んで見送っているものです。 艦首尾の全てにわたって並んでいる完全な形ではありませんが、通常はこれも登舷礼式と言っています。




これを要するに、旧海軍における登舷礼式は、儀式の場合とそうでない場合とで程度の差はあれ、あまり硬くは考えず、その時その時で最も “スマートネス” とされる要領でやってきた、ということです。

したがって、他艦船に対する登舷礼式は 「送別」 の場合だけではなく、場合によっては 「歓迎」 の場合にもあり得る話しになります。

そして、海軍礼式令第76条第2項の規定により、と言うよりこれに準じて、登舷礼式により 「送別」 「歓迎」 を行えば、それを受ける側も登舷礼式で望むことは当然のことです。



ただし注意すべきは、陛下の臨御に対する登舷礼式において、前檣楼などを含み、上甲板より高い位置に整列することはあり得ません。 乗御された時に、陛下を見下ろすことになるなどは非礼に当たるからです。




( 昭和6年 「榛名」 に乗御された際の登舷礼式 )







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 最終更新 : 07/May/2017