「射表」 とは空中弾道は極めて複雑な運動を呈するわけですが、これらを一定の法則に基づいて整理し、数学的あるいは物理的に解明できないものは実験的に解明して、編纂されたものが 射表 です。 現実的には、新しい砲や弾丸を導入又は製造した時には、ほとんど必ず射場 (試験場) で弾丸を実際に発射して、その測定結果に基づいてそれぞれの砲種・砲弾用の射表を作成します。 因みに、旧海軍の場合は、呉海軍工廠砲熕実験部が広島県倉橋島の亀ヶ首射場で行っていました。 現在の自衛隊では、防衛省技術研究本部の下北試験場で行っております。 また米海軍では、ダーグレン (Dahlgren, Va.) にある 「U.S. Naval Proving Ground, Dahlgren」 (現在の Naval Surface Warfare Center, Dahlgren Division) が有名です。 この、弾道理論 (弾道学) により導かれた射表には、基準状態下における弾道、即ち 基準弾道 と、基準状態からの変化に基づく弾道の偏差を表す 当日弾道偏差量 の2つが記載されています。 射表は 各砲種、各弾種毎に、それぞれ対空射撃用及び水上射撃用のものが編纂 されるのが原則ですが、その基準弾道の前提である基準状態には同一条件を使用します。 通常、射表は次の3つの場合に編纂されます。 (1) 新設計の砲に対する場合 下に示します2つは、日本海軍が悩まされた米海軍艦艇搭載の標準汎用砲である5インチ38口径砲の射表です。 同じ砲種、同じ弾種、同じ計画初速で、水上射撃用と対空射撃用の両方が作成されています。 射表の基準状態射表編纂に使用される基準状態は、次の条件です。 言い換えれば、射表はこの条件下での状態での弾道データが記載されていることになります。 (1) 大気構造は標準状態である。 上記 (1) 項の大気構造の標準状態については、次のとおり定められており、旧海軍と米海軍及び現在の海上自衛隊とでは若干異なります。
射表の編纂(1) 2次弾道関数表 (砲外弾道射表) 射表を編纂するに当たっては、砲外弾道学解法で述べたように、シアッチー (Siacci) の1次弾道関数を2次弾道関数の形に直して、これを初速 (V) 及び射角 (ε) の関数として数表化しておけば計算が簡単になります。 これが2次弾道関数表です。 (2) 仮射表の作成 仮射表は、弾道の実射試験の計画及び測定設備の準備等の参考資料として作成するものです。 仮射表は、所望の初速 (V) と予想される弾道係数 (c') を用いて、先に作成した2次弾道関数表から弾道諸元を求めて作成します。 (3) 実射実験 実射実験は、その目的に応じて種々の試験を行いますが、その最も重要なものが弾道試験です。 これは、射表編纂のための諸データの内、最も重要な部分を構成する 弾道係数 (c')−距離 (X)曲線 又は 弾道係数 (c')−射角 (ψ)曲線 を決定する試験です。 即ち、弾道係数 (c') は、空気密度と弾形係数 (i) の関数 ですが、高度の変化に伴う空気密度の変化及び弾形係数の与える影響については正確な理論的解析が難しく、実射による弾道試験から求めています。 c'−X 曲線又は c'−ψ 曲線の決定のために、射場 (試験場) において3〜4点の特定の X (又はψ) を設定した実射を数回行って弾道係数 (c') を求めることになります。 弾道係数 (c') は、距離 (X) と初速 (V) が測定できれば得られますが、計算上と実測上との間には当然差異が生じますので、これは一般には弾形係数 (i) によって修正します。 射表の構成 (記載要領) と使用法前項 「砲外弾道の結論」 の 「弾道諸元の微差による砲外弾道の偏差」 で示した各項目の詳細と併せて、次の 「弾道修正」 の項の中で一括して説明します。 最終更新 : 13/May/2015 |