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砲内弾道解法 |
序 説
砲内弾道理論 (砲内弾道学) には沢山の学説があり、また多くの弾道学者や研究者が色々な方法でこの理論を公式化してきました。
もしこれらの学説が経験的なものではなく、全くの理論的なものであるとするならば、同じ化学的及び物理学的な現象を扱うものですから、それらの学説に本質的な差異はないはずです。
しかしながら学説によって差異があるのは、複雑な現象を公式化するに当たって、如何なる仮定を設定してこれを単純化するかが異なるからです。 即ち、色々な要素の取扱上の精粗、こじつけの程度、及び数学的な処理の細部で起こります。
とは言っても、実際問題としては極めて簡単な公式で十分 であり、また現実にこれらが大いに使用されています。
砲内弾道理論の公式化に当たって使用されている一般式は、次のとおりです。
(1) 燃焼速度の式
(2) 形状関数の式
(3) 装薬の燃焼ガスの状態方程式
(4) エネルギーの方程式
(5) 運動方程式
砲内弾道の基本式
(1) 燃焼速度の式 (第1基本式、Charbonnier の式)
燃焼ガスの時間的質量発生率 (質量燃焼速度) の式は、次のように表すことができます。
この内、燃焼した火薬の質量 (c) を 燃焼割合 (z) に置き換えるとすると、その時の燃焼表面積 (S) と当初の燃焼表面積 (S0) の比 (S/S0) は燃焼割合 (z) の関数 (ψ(z)) として表すことができます。 これによって上の式を展開し直したものが、次の 燃焼速度に関する第1基本式 です。
ここで、A を 鋭度 (Vivacity)、ψ(z) を 形状関数 と呼びます。
上の燃焼速度式によって火薬の燃焼速度は、鋭度 (A) と形状関数 (ψ(z)) の2つによって影響されることが解ります。 したがって、要求される性能、火薬製造の技術などを考慮して、それぞれに適当な値を選定する必要があります。
形状関数 (ψ(z))
形状関数ψ(z)は、薬粒の当初の燃焼表面積(S0)に対するある瞬間における燃焼表面積(S)との比(S/S0)であり、次式で表されます。
圧力指数 (n)
圧力指数(n)は、装薬によって異なりますが、実験によって得られた値としては0.8〜0.9の間です。 学説によっては、0.5のような低い値を用いるものもありますが、反対に1に等しいとして仮定する場合もあります。
(2) 燃焼ガスの状態方程式 (第2基本式、F. Abel の式)
今仮に、ある一定の大気圧及び温度の下で、1kg の火薬を、1m3 の空間内で爆発させたときに生じる燃焼ガスの圧力 (P) が f であるとするとき、即ち P = f である時、この f はその火薬の特性だけによって決まりますから、この
f を 火薬力 と呼びます。
しかし、これは燃焼ガスを理想ガスの状態として見なしている場合であって、実際の砲内弾道においては、燃焼ガス分子の固有容積を考慮すべきです。
すると、燃焼ガスの一般状態方程式 は次のように表されます。
またこれから、弾丸発射の際のある時刻 (t) における砲圧を求める方程式に変換すると、次のように表されます。
ここで、π R2x は弾丸の前進によって解放された砲内の容積、Tex は当該装薬の特性だけによって決まる定数、V0 は装薬1kg の爆発によって生ずる燃焼ガスの容積に対する比容積です。
(3) エネルギーの方程式 (第3基本式、Resal の式)
砲内弾道の基本式の一つである エネルギーの方程式 は、弾丸の運動と装薬の燃焼の関係を熱力学的に導いたもので、次のように表されます。
この式は、装薬の燃焼割合と弾丸の速度及び砲内のガス圧力の関係を示す最も重要な基本式です。
また、装薬が燃焼を完了した後では、燃焼ガスは断熱膨張をしますので、次の関係式を用います。
仮想弾量 (μ)
砲内での内部エネルギーの消費区分は次のように考えられます。
ア. 燃焼ガスの砲圧 (P) の潜在エネルギー
イ. 弾丸の運動エネルギー
ウ. 燃焼ガス及び未燃焼ガスの運動エネルギー
エ. 砲の運動エネルギー
オ. 導環を旋条への圧入に要するエネルギー
カ. 弾丸の摩擦エネルギー
キ. 弾丸の砲内での空気抵抗エネルギー
ケ. 砲身、弾丸及び薬莢への熱流失による熱損失
コ. 砲身と弾丸の間からの燃焼ガスの漏れによる熱損失
この内、イ、ウ、エ項をまとめて弾丸の運動エネルギーと考える と、弾丸の質量を実際より増加させて考える必要があります。 これを 仮想弾量 (μ) と呼んで、上記のエネルギーの方程式などにおいて、弾丸の運動エネルギーにおける弾丸質量として用います。
この場合、上記の オ及びカ項は一般に無視 して考えます。
(4) 弾丸の運動方程式
発射される弾丸には、次の力が加わります。
ア. 弾底に対するガス圧力 ( =加速力 (σ・P))
σ は砲口の断面積
イ. 弾丸が受ける抵抗 ( =減速力 (W(x))
旋条への圧入抵抗及び摩擦、並びに前方の空気圧力によって弾丸が受ける空気抵抗の総和
これにより、弾丸の運動方程式 は、次により表されます。
ただし、W(z)の項は 無視するか、火薬力 (f) 又は鋭度 (A) を実射によって決める際にその中で考慮することとし、一般的には省略 されるのが普通です。
砲内弾道連立方程式の解法
砲内現象を数値的に公式化して解く方法は、上記の砲内弾道の基本式を連立方程式として解いて、装薬の燃焼量と弾丸の速度及び経過距離との関係を求めるものです。
ただし、この解法には Charbonnier ほか数多くの方法がありますが、その内容は 相当に難解ですから、本初級編では省略 します。
これで本項は終わりなのですが、最後が “省略します” では皆さん何となく物足りないでしょう。 そこで、砲内現象の実例を一つお見せすることにします。 下図は米海軍の5インチ/50口径砲のもので、初速
2700ft/sec の場合です。 前項の 「砲内諸現象概要」 とも併せ、参考にして下さい。
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( 図をクリックすると、拡大図を表示します。) |
(注) : 「砲内」 「砲圧」 と言う用語の 「砲」 の字は、正しくは 「月」 偏に 「唐」 と書いて 「とう」 と読む文字ですが、常用漢字表にも常用フォントにもありませんので、全て
「砲」 で代用しています。
最終更新 : 11/May/2015
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