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射法計画



 要 旨


「射法計画」 と言うものは、次の2点を満足する必要があります。


(1) 綿密周到であって、万般の戦況に応じて違算の無いこと

(2) その実施は簡単かつ確実で、様々な状況に即応して活用できること



即ち、射法計画作成に当たっては、理論の難渋さや手数の煩雑さに屈せずに徹底的に数理的に研究・検討し、あくまでも綿密周到なものでなければなりません。 そして、その計画の実施に際しては、千変万化の実戦の状況に即応して、簡単かつ確実で活用自在なものであることが必要となります。

ややもすれば計画に囚われて大局を失し、あるいは計画がずさんで単なる常識と見当にだけ頼って、実施において破綻を招くようなものは決して許されません。 要は、実施が簡単確実であって、かつ良く実際の効果を挙げられるようなものでなければなりません。

したがって、最終的な成案は、周到な理論的研究によって小を捨てて大を採り、軽きを捨てて重要なもののみを厳選したものであることが求められます。


   


 射法の種別


  (1) 発射艦の艦種によるもの


巡洋艦射法、駆逐艦射法、魚雷艇射法、航空機射法、潜水艦射法、等


  (2) 攻撃目標によるもの


対主力艦射法、対巡洋艦射法、等


  (3) 攻撃時機によるもの


昼間射法、夜間射法


  (4) 射線構成法によるもの


並進射法、開進射法、集散射法、異射角射法、等


  (5) 魚雷戦指揮上の差別によるもの


独立射法 : 各発射艦ごとに単独で独立して射線を構成し、発射する方法

統一射法 : 主として次のものがあります。


イ. 集中射法 : 2艦以上の基準射線を同一目標に集中してその累積効果を求める方法
(イ) 一斉 (逐次) 集中射法
(ロ) 連続集中射法

ロ. 方位射法 : 2艦以上の基準射線方位を指定して発射する方法
(イ) 一斉方位射法
(ロ) 逐次方位射法



  (6) 射点区分によるもの


第一射法、第二射法、等射点区分に応じた方法


  (7) その他の区分


米海軍においては、攻撃目標の区分により次のものがありました。


イ. 集中射法 (Strikes)
精密に敵の最重要間を選定、測的して、必中を期して行うもの

ロ. 威嚇射法 (Threats)
敵の戦術実施を妨害することを主目的とするもの

ハ. 酣戦期射法 (Melees)
酣戦乱戦期に適用するもの

ニ. 咄嗟射法 (Surprise Encounteres)
咄嗟会敵時に行うもの



   


 計画の概要


実際の射法計画では、今まで述べてきました魚雷発射法及び射法理論の総てを総合して、次の項目についてその一つ一つを詳細に詰めて行くことになります。


  (1) 計画要素の選定


イ. 目標の照準点に関すること : 敵の隻数、隊形、標準的速、照準点

ロ. 魚雷に関すること : 標準駛走能力、魚雷の精度、使用射線数、調定深度、等

ニ. 射点に関すること : 射点区分、照準距離の標準、方位角の基準、等

ホ. 敵情に関すること : 的速の基準、回避量、回避方向、等


  (2) 散布帯の構成


基準射角、 開度


  (3) 射法効果の検討


命中射線数、予期命中雷数、交角、回避猶予、等


  (4) 射出計画


射出順序、射線番号、射出時期、発射機旋回度、旋回度及び射進開度の修正量、等


  (5) 方位盤調定諸元の決定


方位盤修正量、射角、等


  (6) その他の必要事項


最大有効照準距離、故障被害に対する処置、対勢判断要領、運動計画、通信計画、等


   


 駆逐艦射法の例


旧海軍における駆逐艦射法について、対主力艦夜間射法計画の要領の一例を示すと次のとおりです。

実際にはここに列挙する項目について、詳細な計算と検討の結果が記載されることになります。 なお、当然ながら、同航対勢時と反航対勢時の両方について作成 する必要があります。


(1) 射法種別
各艦の全能発揮を第一として独立発射を行う。 ただし、各駆逐隊ごとに発射運動を行う。

(2) 目 標
隻 数   : 単 艦
目標長   : 200 m
標準的速 : 20 kt
照準点   : 艦中央

(3) 魚雷に関する事項
標準駛走能力 : 45 kt x 7000 m (九〇式)
深 度      : 6 m
精 度      : 到達率 95%
          : 雷速公誤 0.5 kt
          : 深度公誤 0.25 m
使用射線    : 全射線

(4) 射 点
照準距離 : 2000 m
方位角   : 第一射点 70〜110度
       : 第二射点 40〜70度、 110〜140度
       : 第三射点 10〜40度、 140〜170度  

(5) 回避に関する事項
回避の時機、回避方向及び回避量、変速回避の有無を総合して、次のとおりとする。





(6) 散布帯構成
イ. 標準射角及び対回避中の射角の決定
ロ. 開度の決定

(7) 射法効果の検討
イ. 回避猶予
ロ. 命中雷数
ハ. 交 角

(8) 射出計画
イ. 射線連合法 (射出順序、射出時隔)
ロ. 旋回度
ハ. 斜進開角

(9) 方位盤調定諸元
イ. 修正量
   平行偏倚のもの
   直線偏倚のもの
ロ. 修正量の種類
   基準射線方向に対するもの
   転舵発射に対するもの
   射出時隔に対するもの
   占位差(方位盤と発射機位置差)に対するもの
   艦速偏倚に対するもの
   屈曲度に対するもの
   費消時に対するもの
ハ. 射角修正量
   計画的速と実測との差、計画射点と実際との差、等について生ずる射角差の修正
ニ. 斜進使用時、その偏倚量に対する修正

(10) 応急処置法



   


 潜水艦射法の例


旧海軍における潜水艦射法について、射法計画要領の一例を示すと次のとおりです。


(1) 一般計画
射法種別 : 独立射法、 斜進全幅利用
目 標   : 単 艦
照準点   : 前 檣
標準的速 : 12〜30 kt
魚雷能力 : 近距離、 最高速力使用
調定深度 : 3〜6 m
射線数   : 2〜6 射線
射 点   : 理想射点 (B = 60、D = 1500) 及び前方射点 (B = 0〜130°) を適宜区分
回 避   : 敵艦種により検討決定


(2) 射線構成





(3) 襲撃要領
隠密接敵 (聴音主用)
潜航発射 (潜望鏡利用を主)
時隔小なる単艦連続発射又は単艦独立発射



(注) : 当初の予定ではこの 「射法計画」 では、皆さんに簡単な射法計画を作っていただきながらご説明を進めようと思っていましたが、あまりにも長くなりすぎますので、射法計画の立案要領についてはまた別の機会 を設けることにしました。 したがいまして、上記のとおり本項での解説は簡単なものにさせていただきました。




( 第1話 終 )





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 最終更新 : 27/Aug/2011