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3-1.半年間の米国生活



遠洋航海のあと護衛艦乗組となって防大入校時からの念願であった船乗りの道を歩み出した私ですが、最初の1年間で陸上に上げられてしまい、横須賀船越地区にあるプログラム業務隊 (通称 “プロ業”) というところでディジタル・コンピューターを使った艦艇戦闘指揮システム (CDS、Combat Direction System) の開発を担当することになったことは既にお話ししたところです。


そしてそこでの勤務も1年半になろうとしていたある日、上司であるプログラム第2科長から 「桜と錨、こっちへ」 と呼ばれました。 何かのお小言かと思って科長の前に行きますと、「ちょっとアメリカに行ってきてくれないか」 とのこと。 続いて、



「 今度改正されて新しくなった 「新ターター幹部課程」 だけど、米海軍の都合でこれまでのような一つの課程ではなく、いくつかの学校を短期間で渡り歩くことになるはず。 留学期間は全部で約半年間。」


「 海上自衛隊からの米国留学は通常は二人以上の組で行かせるんだが、今回の君の場合は一人だ。 そして海幕教育課の留学担当者の話しでは、行った先々の学校でも他の課程に海自からの留学生はいないらしい。 最初の学校で始めの1週間くらいは帰国直前の他の課程の者達がいるらしいが。」


「 君は独身だよな。 半年間だけど、もし彼女がいるなら一緒に連れて行っても良いぞ。 新婚旅行を兼ねての良い機会になるだろうし。 ただし彼女の費用は全て自分持ちだけどね。」


「 場合によっては専門課程の前に米軍の外国留学生用語学課程に入るんだけど、君の場合は半年間コースだからそれは無し。 今からでは第2術科学校の英語課程に入ってる余裕もない。 ただし、米海軍規定の英語力テストに合格している必要があるから、米大使館に行って受けてこい。 今回は君の代わりの予備の候補者はいないので、頑張って合格するように。」



出発まで約4週間しか余裕がありません。 何とも突然で、しかも少々無茶苦茶な話しですが、これが好奇心旺盛な26歳にとって嬉しくないはずがありません。 「喜んで」 と笑顔で即答。 残念ながら江田島での赤鬼青鬼の指導宜しく “勤務一筋の真面目な” 青年将校でしたので、連れて行く彼女はいなかったのですが。


さて問題は英語のテストです。 元々が語学は得意な方ではありませんし、ましてや英会話などは一度もまともに習ったことがありません。 試験までは2週間ほどでしたので、ともかく第2術科学校から模擬試験用テープとテキストを借りてきて朝から晩までのにわかトレーニング。


当日は米大使館へ出向いて受験しました。 テストは2種類。 いわゆる日常会話に関するものと、技術系のものです。 この日のテストも受けたのは私一人。 小綺麗なオフィスの中で、大使館の担当者と私だけ。 ヘッドフォンから問題が次々と流れるのを、聞き取れた範囲で何とか答案を書き上げました。


数日後に海幕教育課経由で結果の連絡があり、何とか合格。 ただし一言コメントが付いていました。 技術系の方は余裕だったけど、日常会話の方はギリギリの点数だったので、向こうに行って頑張ってくれ、でした (^_^;


その後は、同僚への仕事の申継や米国での生活準備などでバタバタ。 そして出発の数日前に海幕教育課に出向いて、公用旅券とITO、航空券などを受け取り、担当者から留学中の生活費用の支払い方法や勤務・生活上の留意事項などについての説明がありました。


ITOというのは 「Invitational Travel Order」 という米国政府からの正式留学通知書で、留学の内容や各種の指示・規定事項が詳細に書かれており、またこれが公用でのビザ替わりともなります。



( この時のITOの1ページ目 )


最初の学校はイリノイ州にある NTC Great Lakes というところで、航空券の行き先はシカゴのオヘア (O'hare) 国際空港となっています。 で、担当者に尋ねました。 「最初の Great Lakes というところはどこにあるのでしょう? シカゴの空港からはどのようにして行けばよいのでしょうか?」


担当者の答えは、「俺も知らん。 空港から軍の定期便が出ているようだから、探してそれに乗ればいい」 でした。 一瞬あぜ〜ん (^_^;


そんなこんながあって、昭和52年6月30日、羽田空港からシカゴ・オヘア国際空港行きのパンナム (今は無き当時の米大手航空会社 Pan American Airways) 便に乗って、いよいよ約半年間のアメリカ一人旅が始まりました。


約半年間、とは言っても、最終的には実質5ヶ月強になってしまったんですが (^_^;  これもお話しの中で。



 イリノイ州グレート・レイクス
 カルフォルニア州サンディエゴ
 大陸横断旅行
 ヴァージニア州ダムネック






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最終更新 : 23/Mar/2014