さて、ここでこれからの話を進める前に、座標の問題と密接に関連する “用語” や “記号” についてご説明し、ある程度理解して頂く必要があります。 “ある程度” と言いましたのは、これを完全に理解することは必ずしも必要ではありませんで、個々のものについて必要になった都度、確認して頂ければ十分だからです。 だからといって、全くこれを飛ばして先に進んでも良いものではなく、ある程度はその用語や記号を見ただけでそれが何を意味するのか推定できるぐらいにはなって頂くと、この後の射撃理論が理解し易くなることは間違いありません。 記号体系とはすでに前項 「座標系 (座標方式)」 のところでも幾つか簡単な用語と記号が出ましたが、射撃理論ではこのような用語や記号が沢山出てきます。 むしろこれらの用語や記号が無いと射撃理論は成り立たないと言っても過言ではありません。 そしてこれらの無数と思われるほどの記号は、特に初心者の方々にとっては腹立たしいまでのものでしょう 。 しかし、これらについてはある記号化の規約に基づいたものであれば、射撃理論について数頁を費やしても説明できないような問題を数行で説明してしまうことも不可能ではなくなるのです。 射撃理論における用語の記号化の必要性は、例えば一定の規約を設定して番地を付けるようなもので、そのようにして付与された番地によって特定の家を探すことがどれ程容易になるかはお解りいただけると思います。 この一定の規約を表すものが記号体系です。 そして、この記号体系の全体を一別するだけでその射撃理論そのもののレベルがどの程度のものであるのか概略見当が付くほど、射撃理論と記号体系とは密接不可分の関係にあります。 旧海軍の記号体系私のサイトでは旧海軍の砲術を取り扱いますので、必然的にこの旧海軍の記号体系を主に使用して話を進めることになります。 旧海軍の射撃理論に関する記号体系は、その理論の発展と共に変遷がありましたが、ほぼ昭和年代になってある程度整理されすっきりしたものになりました。 勿論、その中心は水上射撃についてのもので、これに陸上射撃や照明射撃などについてのものが加わった形になっております。 当然のことながら中心となったのは横須賀海軍砲術学校であることは言うまでもありません。 しかしながら、太平洋戦争が進むに連れて対空射撃がクローズアップされ、対空火器は勿論ですが、これを指揮する対空専用の射撃指揮装置、即ち 「高射装置」 が発達し、かつこれらをシステムとして運用するための射法、射撃理論の研究が進められました。 その結果として、これが記号体系にも反映されることとなり、その拡張が図られてきたところで終戦となりました。 今日海上自衛隊においては、次の3.項で述べるとおり、艦載の武器システムが非常に複雑になりましたので、当時の旧海軍の記号体系が使われることはありませんが、逆にある意味では素朴な体系であったが故に、極めて手軽で分かりやすく、慣熟しやすい内容であったことも確かです。 とは言え、ここでその記号体系を全てご説明しても無味乾燥なだけですから、上にも書きましたように取り敢えずは一瞥して頂くとして、個々の用語、記号については事項以降の射撃理論の中で順次必要なものをご説明することにします。
米海軍及び海上自衛隊の記号体系太平洋戦争の頃の米海軍の記号体系は、『OD-3447』 というマニュアルで規定されていました。 残念ながら私はこれそのものは保有しておりませんので、全容は分かりません。 しかし、これの基本的な部分は私の史料庫の中の米軍資料にも収蔵されている 『NAVPERS-16116 Naval Ordenace and Gunnery』 に記載されていますので、当時の米海軍の射撃理論を理解するのに必要十分な程度には分かっています。 戦後、海上警備隊が創設されて米海軍の艦艇や装備が貸与・供与たとき、これの訓練指導で米海軍から入ってきた射撃関係のマニュアル類は、この記号体系に基づいて書かれたものでした。 ところが、米海軍では射撃指揮装置やレーダーの発達はもちろん、「3T」 と呼ばれるターター、テリア、タロスの対空ミサイルシステムの開発と実用化、水中攻撃武器・指揮装置の発達などが進み、これら対空、水上、水中の全てを網羅した共通の記号体系の必要性が出てきました。 これを実現したのが 『OP−1700』 シリーズというもので、これは細かな改訂はされつつも、現在でも米海軍及び海上自衛隊で使用されているものです。 この記号体系は、極めて論理的かつ理解容易な原理に基づいており、射撃理論の合理的、正確な記述が可能となっています。 その反面、非常に柔軟性に優れているため、より進歩した射撃理論に応じることがでるのも特徴です。 このため、採用後40年以上も経っている現在でも、記号体系として非常に優れたものの一つであると言えます。 以上の米海軍の新旧の記号体系についてはここで解説することはしませんが、今後、米海軍についての項目をお話しする時に、これが必要な場合にはその都度関係することを取り上げることとします。 最終更新 : 10/May/2015 |