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艦砲射撃の基礎 − 見越



 「見越」 とは


前項の 「測的」 の結果に基づく 「見越」 の話しです。

艦砲射撃では洋上で互いに動きながらになりますので、弾着は砲の発砲時の目標艦の位置 (これを射撃用語で 「現在位置」 と言います) ではなく、弾の飛行秒時後の目標の未来位置であることは申し上げるまでもありません。 この 現在位置に対する未来位置までの差 「見越」 と言います。

『別宮暖朗本』 において、この著者が前出のあのトンチンカンな図でもって言わんとして果たせなかったのがこの 「見越」 のことです。  (もちろん、善意に解釈すれば、の話ですが。)

この 「見越」、即ち言い換えれば 目標未来位置の決定 の理論的なことについては、『射撃理論解説 初級編』 『目標未来位置』 『5.目標未来位置』 で説明しておりますので、詳しくはそちらをご覧いただくとして、ここではもっと簡単に説明することにします。

さて、前回の 「測的」 の項を思い出してみて下さい。 「測的」 においては、自艦を (座標の) 中心とする 「相対運動」 で示す方法と、地理的な座標を用いた 「絶対運動」 で示す方法の2つがあることを説明しました。

その何れで解析するにしても、最終的な砲の射撃諸元として計算するには自艦、即ち砲そのものを中心 (原点) としなければならないことはお判りいただけるとおもいます。 これを図示すると、例えば次の図のようになります。 図の左側が絶対運動の作図、右側が相対運動の作図です。


relative_03_s.jpg

( この図では下が自艦、上が的艦であることにご注意を )



既に何度も説明しましたが、結局のところ砲 (即ちその照準器) に調定するのは 「照尺距離」 (=照準線に対する砲の上下角) と 「苗頭」 (=照準線に対する左右角) ですから、「見越」 もこの2つに分けて算出されることになります。 即ち、図右側の b.と c.です。

この図の自艦の運動分 (Yo、Xo) と的艦の運動分 (Yf、Xf) とのその差分である相対運動量は単位時間当たりのものですので、これを現在距離 R に対する弾の飛行秒時に対するものとして計算すれば、飛行秒時後の的艦の移動量が得られることになります。

とすると、ここで 「測的」 結果に基づいて “誰かが何かの方法で” 現在距離に対する弾の飛行秒時に基づいてそれを計算をする必要があります。 そしてそれには 「射表」 がなければなりません。

射表を使っての具体的な手計算の方法については、これも 『射撃理論解説 初級編』 『弾道修正』 の中の 『4.射表の使用法』 で説明しておりますので、そちらを参照してください。




 「見越」 の算出と使用


この 「見越」 の計算機能は、後に射撃指揮装置の射撃盤の中に風に対する修正などと一緒に組み込まれることになります。 では、方位盤も射撃盤もなかった日露戦争当時はどうしていたのでしょうか?

旧海軍では、これをどのように照準器に調定する照尺距離や苗頭として反映させるかは各砲台の 「砲台長」 が決定していました。 もちろん砲台長自ら全部一人でやっている余裕はありませんので、「砲台付」という 若手将校や下士官の補佐を得てです。

そして、一々本物の射表を引いていたのでは面倒ですので、この射表に基づく簡易な表などを各砲台で自作して射撃時にはこれを使用するのが普通です。 この簡易計算表 (盤) は射撃指揮装置が発達した現在でも、射撃時の再チェック用に今でも各艦で作っています。 (のはずです。 少なくとも私達はやっていましたから。)

そして日露戦争当時の砲台操法では、砲台長によって指示された照尺距離と苗頭を 「射手」 自身が照準器に調定することになっていました。 しかし黄海海戦での教訓や例の鎮海湾での猛訓練の成果として、射手が照準発射に専念することができるように、この照準器を操作する専用の配員が必要であることが痛感され、補助砲員や非戦闘側の砲員の中からこれの要員が選定されて、訓練した上で配置されるようになりました。 これは、日露戦争後の艦砲操法改定の時に 「掌尺手」 として正式に実現し、各砲の砲員の一人として増員されることになります。



それでは次は、日露戦争当時の砲台 (砲塔) ではどのように発砲していたか、の話しに移ります。




 その前に


それはともかくとして、


苗頭とは目盛りの数で指示された。右三つ、または左四つだけである。 これは、目盛りを右へ三つ、または左へ四つ移動させろという意味で、わかりやすい。 (p66) (p70)


苗頭を計算したのち距離を調整する。 日露戦争当時は、カンで (接近か離反は間違えてはならないが) 「目盛り一つ高め」 とか 「低め」 と分隊長に要求することも多かった。 (p70) (p74)



なんですかこれは。 一体何時の時代の何処の海軍の話をしているんでしょう。 苗頭計算の後に距離を調整?  カンで?  目盛一つ高め?  右三つ?  分隊長に要求?

デタラメにも程があります。 たったこれくらいのこと、もう少しキチンと (真面目に) 調べて書いたらどうか、と私なら思います。 安くはない金額を払って著書を購入してもらう読者に対しても失礼な話です。







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 最終更新 : 29/Jun/2011