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(補) 航空魚雷の複数本搭載時の発射法




今回のお話しの切っ掛けとなった某巨大掲示板での元々の議論である、航空魚雷の複数本搭載の場合の発射 (投下) 法について、少し付言してみます。



 用兵者の要求


航空機に複数本の魚雷を搭載する場合の発射 (投下) 法ですが、まさに元々の質問者の疑問にあるとおり次の3つがあります。


     (1) 複数本 (全てあるいは選択した複数本) 同時発射
     (2) 設定した秒時間隔で連続発射
     (3) 選択したものを単発発射


そして複数本が搭載可能ならば、その使用法は、戦術状況 (敵及び我の状況、対勢、天候、昼夜など) やその国の戦術思想、機体・魚雷の性能・制約などにより変わってきますので、それに関連して必然的に3つの発射法はどれもが必要です。

したがって、用兵者側からする運用・戦術的な要求からは、航空機として3つの方法から柔軟に選択して使用できる構造・機能になっていることが求められます。

もちろんこれは魚雷だけのことではなく、爆弾やロケット弾、照明弾など搭載可能兵器の種類すべてについて同じことが言えます。

ですから搭載する兵器それぞれについて、その時その時の状況に応じてどの様なことが可能なのか、どの様な使用法が効果的なのか、の “標準” を決めることも先にお話しした 「用法」 に含まれます。 というか、これが最も肝心なことです。

つまり複数本の搭載魚雷の用法として “同時投下が原則” などという決まり切ったものは無い と言うか、決めてしまうことはあり得ない、と言うことです。



 航空機の例


某巨大掲示板にて例示された航空機でご説明すると、


  (1) 米海軍機


AM-1/1-Q、XTB2D-1、AD-1/4 などの米海軍機は、スイッチ類の切替/レバー操作により、基本的に上記の3つの発射方法を備えるようにしています。 例えば AM-1/1-Q の場合では次の様になっています。


AM-1_photo_12_s.jpg   AM-1_photo_04_s.jpg

( 元画像 : 米海軍公式写真より )


AM-1_cockpit_01.jpg
AM-1_cockpit_02.jpg

( 元画像 : 米海軍 「AN 01-35EF-1」 より )



また、「Naval Fighters Number 24, Martin AM-1/1-Q Mauler」 (Bob Kowalski、1994) では次のように記述されていますが、これが3本の魚雷の 「同時投下」 (salvo) を意味するものでないことはもちろんのことです。


AM-1_trials_01_s.jpg

( 元画像 : 同書より )



  (2) 米陸軍機


A-26B/C の例が出ておりましたが、この機体は後から魚雷が搭載できる様に改修されたもので、爆弾倉の中に2本の魚雷が搭載可能です。

しかしながら、爆弾と異なり魚雷搭載の場合は機構的に2本の同時投下 (salvo) は出来ない仕組みになっています。 即ち連続投下か単発投下です。


A-26_p000_s.jpg

A-26_p091_s.jpg

( 元画像 : 米陸軍 「AN 01-40AJ-1」 より )



ただ海軍機と異なり、この機種の場合はむしろ特殊な例といえるでしょう。



  (3) ドイツ機


私は航空機が専門ではありませんが、He-111 では写真を見ても明らかなように、“少なくとも” 1本ずつ投下できる機構になっていることが判ります。


He-111_torp_01_s.jpg

( 元画像 : Wikipedia commons より )



 戦 例


  (1) 旧海軍


旧海軍における東港航空隊の九七式大艇による場合は、先の 「用法」 のページでご紹介したとおりであり、2本搭載して単発発射した実戦例が2回あるのみで、同時発射の例は皆無です。



  (2) ドイツ


ドイツの戦例として、1944年5月11日に地中海で UGS40 船団に対して Ju88 の編隊が雷撃を行った例を取り上げて、


  総数 62機、 被撃墜 16機、 発射雷数 91本



が記録されており、これをもって射点に付いた46機が各機2本同時投下している “可能性が高い” と言う人がいます。

しかしながら、被撃墜の16機中には発射後のものがあるかもしれませんし、ましてや各機の射法等が不明であっては、普通ならばこのデータのみをもってそのようなことは判断できないことです。



 結 論


以上のことを総合すると、

魚雷の複数本搭載について、いずれの国についても、また用兵上、機体別、戦例の 全ての面において、「同時投下が原則」 ということを示す根拠は一切提示されていない と言えます。 反対に、全ての面についてそのような決まり切った 「原則」 は無いことを示しております。

もし複数本搭載についての何某かの 「原則」 があるとするならば、むしろそれは


航空機には3つの投下法のどれでも選択して使用できる構造・機能を持たせ、用兵者は 「用法」 に従ってその3つの方法からその時その時の戦術状況に応じた最適な投下法を選択する。


と言う 至極当たり前のことに帰結する ことは明らかです。







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 最終更新 : 03/Mar/2014