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「触雷」 : 水上艦艇の場合




さて、本題である魚雷の特性の一つ、「触雷」 ということについてです。 もちろん、ここで話題にするのは一般的に言われる艦船に魚雷や機雷が当たることではありません。

雷撃において複数本の魚雷を発射した時に、前後左右 (上下) の隣接魚雷どうしが接触することで、これも 「触雷」 という用語を使います。 当初は 「魚雷触衝」 と言っておりましたが、その後「触雷」となったものです。

この「触雷」はもちろんのこと、魚雷を使用する上での特性・性質や発射法・雷撃法という用法上の重要な要素については、余程の方でない限りまずご存じないと思います。

もちろん、これらについては一般刊行物やネット上などにはほとんど出てきませんし、たまたま残された旧海軍史料を見る機会がある人であっても、その内容が判らないというか、関心が無い様に思います。

例えば、本 「水雷講堂」 において順次公開を進めております、旧海軍が公的に編纂した 『帝国海軍水雷術史』 という極めて貴重な史料が残されていますが、戦後関係者が纏めた 『海軍水雷術史』 (同編纂会編、非売品) を始めとして、一般刊行物においてこれが活用されたものを今まで見たことがありません。

ですから、ごく一般の方々にとっては、複数本の魚雷を搭載した時には “同時発射しても大した問題はないのでは” という思い込みになるのでしょう。

そこでこの第4話の表題である 「魚雷は真っ直ぐには走りません」 ということを理解していただくことになります。


魚雷の特質について予備知識の無い方は、この 『水雷の話題あれこれ』 コーナーに 『第1話 魚雷戦の基礎』 がありますので、まずその中の 『魚雷発射法』 の頁にある雷道 の説明について理解して下さい。

魚雷の雷道は、上下 (縦) 方向と左右 (横) 方向に分けて論じられますが、最も重要なのはもちろん縦方向です。 なぜならば、この縦方向の雷道が魚雷が “ちゃんと走る” かどうかの指標になるからであり、また横方法については測的誤差など魚雷そのもの以外に関係する要素もあるからです。




魚雷は基本的にジャイロ及び深度機を内蔵していますので、予め設定された深度を、発射時の方位 (射線) を真っ直ぐ進むか、射入後に予め設定された斜進角だけ変針してから真っ直ぐ進むようになっています。

ではなぜ 「触雷」 が起きるのでしょう?

これは、発射後に一定針路を一定深度で進む 「安定雷道」 (駛走雷道) になる以前の 「空中雷道」 や 「射入雷道」 では、極めて複雑な運動をするからなのです。

もちろん駛走雷道でも厳密には真っ直ぐ走るわけではありませんが、雷道に偏差 (誤差) を及ぼす要素はこれ以前の雷道と比べると少ないと言えます。

とは言っても、駛走雷道においても、例えば射線と個々の魚雷の縦舵機とに角度誤差があれば、それがそのまま偏差となって現れてくることは言うまでもありません。

射線に対する魚雷の偏差というのは、様々な要素によって発生します。 当然ながら上に示した縦面のみならず、横面でも同じです。

下図は、横面における偏差の現れ方を示したものですが、魚雷の様々な要素によって発生する誤差によって図の様に偏差の表れ方が異なり、これらが全て合わさった複雑な偏差となってくるということです。




要は、射線、あるいは発射方位上を 魚雷は真っ直ぐには走りません ということであり、しかもそれは同時又は連続発射した魚雷の1発1発で異なってくるということです。 ですから 「触雷」 の問題が起きるのです。

以下、水上艦艇、潜水艦、航空機の発射母体別にもう少し詳しくお話しします。



 水上艦艇の場合


まず水上艦艇の場合からお話しします。

触雷の問題が表面化したのは、大正8年頃から大正15年にかけて旧海軍における雷撃法の理論面が発達し、これに基づく射法の研究が進んでからです。

当初は、各艦において全射線発射を行うようになったことにより、次いで水雷戦隊において編隊統一射法が普及したことにより、この問題が大きく採り上げられることになりました。

この編隊統一射法の基本は、水雷戦隊が編隊のままで目標と反対舷に回頭しながら順に次々と各艦が射法計画にしたがって整斉と魚雷を発射していく方法です。

この時、各艦は一斉発動装置により縦舵機を一斉に発動した後、各発射機から発射することになりますが、そこで問題となったのが、発射機の隣接する魚雷どころか異なる発射機で発射した魚雷どうしでも触雷が発生することになりました。

この問題の解明と対策を講じるために昭和3〜4年に大々的な実験を行ったのです。

詳細は省きますが、結論は直進発射、回頭発射にかかわらず、発射する魚雷は発射時点において 隣接魚雷と最小限20メートル以上、触雷が生起しないことを十分に期待するには25メートル以上 離れていなければならない、ということです。

というのも、水雷艦艇においては魚雷は艦首尾線に対して横方向に発射するため、発射された魚雷が着水時にその頭部を艦尾側に振れる (これを 「屈曲度」 と言います) ことにより、設定された針路に戻すための急激な横方向の運動 (と速力の低減) となることが大きな原因となります。




これに基づき、「特型」 駆逐艦以降において連続発射する場合、発射時の艦速を35ノットとして、9射線の場合は1.5秒間隔、8射線の場合は2.0秒間隔 とされたのです。

そして、これに基づいて射法計画が改善されたにもかかわらず、触雷を完全に無くすことはできていません。 例えば、昭和14年の教練発射ではまだ発射総数の約3%で発生しています。

魚雷の駛走状況は1本1本その時その時で異なります ので、それくらいこの触雷という問題は複雑で根が深いということです。







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 最終更新 : 03/Mar/2014