射撃理論の総合図式 |
これまでに説明してきたものを総合して一つの図式としてまとめると、次のようになります。
(↑ 左クリックで拡大表示します) |
この図式の中には、余りにも詳細にわたるために、本初級編では説明を省略したものも含まれています。
そしてまた一方で、実際の射撃指揮装置においてもこの図式中の一部又は大部分を省略しているものもありますし、あるいはここで示した諸元の流れとは多少、又は相当の差違があるものもあります。
それは、射撃指揮装置の使用目的、設計思想、要求される精度などによって異なってきますし、またそれを実際に具現化する方法としての実用的な理論や技術的内容によっても差違を生るからです。
更には、この図式について多少なりとも詳細を述べようとすると、その詳細の程度に応じて一般性・普遍性を無くしてしまい、個々の方法について 「この射撃指揮装置ではこう、あの射撃指揮装置ではこう」 と言う具合に、例示的に解説をせざるを得なくなってきます。
しかしながら、それら全てのことを考慮した上で、現在においても通用する 射撃理論の骨子 はこの図式の水色で示した部分、即ち 「目標現在位置」 から 「目標未来位置」、「弾道当日修正位置」 を経て 「弾道基準修正位置」 に至る考え方 になるでしょう。
この考え方は、射撃というものを考える上で極めて論理的なものであり、かつ最も簡潔に射撃指揮 (射撃管制) のあり方を整理・表現していると言えます。
そして、この射撃理論の骨子を更に細分化して、次のように理論として体系化する場合もあります。
関係目標位置 | 裏付けとなる理論 | |||
目標現在位置 (P1) | 測的理論 (Tracking Problem) |
目標現在位置決定理論 | 座 標 理 論 |
座標変換理論 (基準点変換理論) (基準線変換理論) (基準面変換理論) (基準系変換理論) |
目標未来位置 (P2) | 目標運動解析理論 | |||
目標運動見越計出理論 (Prediction Problem) |
||||
当日修正位置 (P3) (目標前進位置) |
弾道学応用理輪 (Ballistic Problem) |
弾道当日修正理論 弾道基準修正理論 飛行時計出理論 |
||
基準修正位置 (P4) (目標指向位置) |
射撃理論初級編の最後として、もう一度最初の 「射撃理論」 とは何か? と言うことに戻って整理してみたいと思います。
この初級編の最初で、射撃理論とは 「目標未来位置を通る弾道に対する砲軸線を決定すること」 と定義してここまで解説してきました。 そしてここまで来ると、中には 「射法とか射撃指揮法といったものも結局は弾を目標に当てるためなのだから、これらも射撃理論の範疇に入るのでは?」 という疑問を持たれた方もおられると思います。
これの答えは 「Yes」 でもあり、「No」 でもあります。 つまり 「射撃理論」 というものをどのように定義するかにかかってくる訳で、実際に旧海軍においても射法理論を射撃理論の一つとして捉えていた時代もありました。
次の図をご覧下さい。
これは私が若かりし頃に習った 「射撃理論」 において、その位置付けを理解するために示されたものです。 ここでは 「射撃学」 なるものの下に 桃色 で示した “広義” の意味での 「射撃理論」 が定義され、更にその下に 水色 で示す 「解析射撃理論」 と 「射法理論」 が位置付けられています。
この 「解析射撃理論」 なるものが、今日では “狭義” の 「射撃理論」 とされるもので、単に射撃理論と言った場合にはこの狭義の意味を言う場合が多く、現に海上自衛隊の術科学校などではこれを 「射撃理論」 として教えるのが普通です。
「解析射撃理論」 という用語は、昭和39年に当時海上自衛隊第1術科学校の砲術科教官であった 小綿恭一 氏がその研究の成果を著した同名の書において旧海軍及び海上自衛隊を通じて始めて使用したもので、実に言い得て妙の氏の造語と言えます。 小綿氏は艦砲射撃の理論面においては、今日に至るも並ぶ者のいない本当の砲術の大家です。
なお、旧海軍における 「射撃理論」 の思想、定義及び変遷などについては、上級編において詳しく解説する予定にしています。
最終更新 : 15/May/2015