砲内弾道の結論



 戦術上の要求


砲熕武器の性能として、砲内弾道に対する戦術上の要求は、次のとおりです。

  (1) 砲口威力が大であること。
  (2) 砲口焔、後焔、発煙、閃光が少ないこと。
  (3) 振動が少ないこと。
  (4) 侵蝕が少ないこと。
  (5) 小型、計量で操縦が容易なこと。



 砲口威力増大の方法

(1) 砲口威力

砲口威力は、一般に砲口における弾丸の運動エネルギー 1/2・mv2 で表され、即ち、初速の二乗と弾量の積に比例します。

したがって、初速又は/及び弾量を増大すれば砲口威力は増大します。


(2) 初速の増大

 ア.装 薬

  火薬力 (f)

初速は火薬力 (f) に比例しますから、火薬力の大きな装薬を使用すれば初速を増大することができます。

火薬力 (f) は、火薬の形状、膠化の状態には関係が無く、成分 (水分及び揮発分を含む) によって決まり、これを大にするには、通常、ニトロセルロースよりもニトログリセリンを多く混合する必要があります。

無煙火薬の火薬力 (f) は、8000〜12,000 kg/cm 程度です。


  鋭度 (Vivacity (A))

鋭度 (Vivacity (A)) は、火薬の線燃焼速度と表面積対体積比の積に比例しますので、火薬粒の体積に比べて表面積の大きい、即ち小粒な程大きくなります。

鋭度 (Vivacity (A)) を増大すると、燃焼速度が増大し、これによって砲圧を上昇させて初速が増大することになります。


  形状関数 (Ψ(z))

鋭度 (Vivacity (A)) と同じく、形状関数 (Ψ(z)) の増大は燃焼速度を増大し、砲圧を上昇させて初速を増大させることができます。

この形状関数 (Ψ(z)) としては、7孔火薬 が有利であり、米国のものにこの形が多く 用いられています。 下の図は、米海軍が口径 .30 の小火器弾から16インチ砲弾までの装薬として使用した7孔の薬粒です。

 

ドイツは長管状火薬、フランスは長帯状のものが多く、また 旧陸軍では帯状旧海軍では紐状火薬が多く 用いられていました。


  薬 量

当然のことながら薬量を増大すれば初速を増大することができ、これは薬量の平方根に比例します。


 イ.砲 身

  砲身長

装薬の瞬間燃焼の場合には、一般的には弾丸の砲内経過距離、即ち砲身長が長くなるほど初速は大きくなります。  

しかしながら、Charbonnier の一般燃焼の場合の解法によると、砲身長の増大による初速の増加は 2000m/sec が限度であると言われています。


  薬 室

薬室の増大は薬量を増し、また砲内容積を増大します。

薬量の増加は初速を増し、砲内容積の増大は初速を減ずる作用をしますので、装填比重を大きくすることにより砲圧を増加し、初速を増大することができます。


(3) 初速増大に伴う影響

 ア.強度の問題

急燃火薬は、砲口圧は低いものの、最大砲圧は大きくかつその位置は薬室に近いので、薬室付近の強度が必要となります。

緩燃火薬は急燃火薬より最大砲圧は低いものの、最大砲圧点が砲口に近くなりますので、砲口圧が高く、砲身全体の強度が必要となります。

同一 (均一) 燃速の火薬の薬量を増加すれば、最大砲圧は高くなり、最大砲圧点は薬室に近くなります。


 イ.損食及び振動の問題

砲身長を長くすると、損食及び振動のため砲身の寿命 (耐用命数) 及び射弾の散布上不利になります。

火薬の成分や砲内の圧力などによって火薬が急燃する場合は、砲内ガス圧及びガス温の急騰、並びに弾丸による摩擦抵抗によって損食は大きくなります。


(4) その他

薬室を大きくすると振動を発生しやすくなります。

緩燃の場合は、砲口圧が大きく、完全燃焼点が砲口に近くなり、かつ砲口秒時が長くなりますので、エネルギーの損失が大きく、又砲口焔や後焔の原因ともなります。

砲身長を長くし、また弾量 (砲の口径) を大きくすると、砲の重量を著しく増大し、艦の構造及び砲の機構、操縦性の問題を生じます。



 砲口焔、砲焔、後焔の防止

(1) 砲口焔

砲口焔とは、弾丸の発射の際に砲口で発生する焔で、装薬の未燃焼物の2次燃焼として、砲口で大気中の酸素に触れて生ずるナトリウム (Na) 及びカリウム (Ca) の焔色反応です。

砲口焔を防止するには、未燃焼ガスの温度を下げることが最も良く、このためにハイドロセルローズなどの炭化物を減熱剤として用います。 ただし、この砲口焔防止剤を用いると、逆に砲煙が増える傾向が出てきます。


(2) 砲 煙

砲煙が生ずる原因としては、次のものがあります。

これらの内、常圧では NO が最も多く、これにより砲煙は褐色を呈します。 また、高圧では NH3 が多く、これにより白色を呈します。

防止策は、特にありません。


(3) 後 焔

砲口焔と同じく、装薬の燃焼生成物中の可燃物の2次燃焼により生じるもので、砲内の噴気を十分に行うことで防止できます。



 爆風圧


燃焼ガスが砲口から外に出たときのその高温、高圧による爆風圧は、艦本実験式 というのが知られていますが、これはちょっと初級編では複雑すぎますので上級編で紹介します。

その代わりに、旧海軍史料にある各種砲の実測に基づく爆風圧曲線図を紹介します。

↑ 左クリックで詳細拡大図表示


また、連装砲の斉射の場合は、単砲の爆風圧の約1.5倍であるとされています。

なお、爆風圧による影響は、「長門」 の41糎砲での実験では次のとおりであり、人員に対して安全なのは5听 (約2.3kg/cm2) 以内であるとされています。

   2听 : 砂利ヲ打チ付クル如く感セシム
   4听 : 木製戸扉ヲ損傷セシム、短艇ヲ破壊セシム
   8听 : 金網ヲ破ル
  16听 : 被服ヲ破ル
  21听 : 「サイドスクリーン」 ヲ破ル




 砲内弾道と砲身の保守

(1) 砲身の損食 (エロージョン)

 ア.損食の種類

  焼食 (ガスエロージョン)

高温ガスの作用によって、金属がなめらかに摩耗する現象です。

焼食は、旋条起端部で最大であり、その結果、有効薬室容積を増大し、起動圧を低下させ、このため最大砲圧や初速が低下することになります。

また、この焼食の進行の程度は、砲の速射と緩射とでは大きな差が出ます。


  溶食 (スコーサイブ)

溶食は、導環から漏出するガスのノズル作用に起因するもので、砲口の方へ扇状に広がった縦の条痕、あるいは樋状の萎みとして現れます。

溶食が進むと、砲身の強度を低下させますが、多くの場合、砲身が溶食によって危険となる前に弾道的に役に立たなくなるのが通常です。


  摩滅 (アブレッション)

摩滅は、旋条の山の緩慢な機械的摩耗であり、最も大きい摩耗は通常、弾丸の重量を受ける旋条起端部の6時の方向(下側)に生じます。

このため、導環の位置が下がり、12時方向 (上側) の間隙が大きくなり、このためこの部分で焼食や溶食が促進されることになり、また導環から発射ガスが漏出することにより初速低下をもたらします。


 イ.損食の影響

損食は、砲身の寿命 (命数) を決定する要素となります。 これは、砲身により異なり、かつ同一の砲身でも使用法によって差が出てきます。

損食は、通常、旋条起端部において最も大きく生じ、このため発射ガスが導環から漏出して初速が低下する原因となります。

ある程度摩耗の進んだ砲身は、導環が旋条の溝に食い込むまでに推力を受けることになり、導環が食い込む時にその衝撃力により導環をはぎ取る原因となります。

更には、正しい旋転が得られ無くなるために、出行角に変化が出てきます。


 ウ.砲身摩耗の測定

砲身の摩耗は、旋条起端部で最も大きく現れるますので、この部分を測定することにより砲身の寿命を決定する方法が採られています。

測定の方法には、スターゲージを用いる方法と、エロージョンゲージを用いる方法があります。


(2) 砲身の耐用命数

 ア.耐用命数の決定要素

 (ア) 射弾散布の増加
 (イ) 信管の誤作動
 (ウ) 射撃指揮装置での初速の調定限界を超えた初速低下
 (エ) 最大射程の低下
 (オ) 貫徹力の低下
 (カ) 駐退量低下に伴う砲機構の誤作動
 (キ) 砲中面の摩耗



 イ.耐用命数に影響する要因

 (ア) 砲身の地金によるもの
 (イ) メッキによるもの
 (ウ) 弾丸によるもの
 (エ) 装薬によるもの
 (オ) 砲身の構造によるもの
 (カ) 砲の操作及び手入れの影響



 ウ.耐用命数の決定

次の3つの方法に基づき、砲身の命数を決定します。

 (ア) 旋条起端部直径の拡大量の測定
 (イ) 等価発射弾数(ESR)
 (ウ) 疑似等価発射弾数



(3) 着銅と除銅

弾丸が連続発射され砲身が熱せられてくると、弾丸の導環の銅が砲内に付着してきます。 これを 着銅 と言い、一般的に初速に影響を与えます。

この付着した銅を除くことを 除銅 といい、完全に除去するためには射撃後に砲内を洗浄しなければなりませんが、現在では発射薬に除銅効果のための純粋な鉛箔又は錫箔を混入して、この着銅を減少させるようになっています。


(4) 初弾低下

砲が発砲する時、一般的に初弾は初速が低下して弾着距離が僅かに短くなる傾向が見られます。 これを 初弾低下 と言います。

 ア.原 因

初弾低下の原因は、現在でも理論的には完全に解明されていませんが、次の2つと考えられています。

(ア) 砲身内部に防錆のために塗布した油により、弾丸の摩擦が減じて、起動圧力が低下するため

(イ) 砲身の温度が低いため火薬の燃焼速度が低下し、初速及び最大砲圧が低下するため


なお、米軍においては初弾低下の主要原因を上の (イ) と考えており、この初弾低下のことを Cold Gun Effect (低温砲効果) と称しています。


 イ.防止策

一般的に採られているのは、次の2つの方法です。

  (ア) 発射前に砲内の油を拭き取る。
  (イ) 発射前に空砲を発射する。




(注) : 「砲内」 「砲圧」 と言う用語の 「砲」 の字は、正しくは 「月」 偏に 「唐」 と書いて 「とう」 と読む文字ですが、常用漢字表にも常用フォントにもありませんので、全て 「砲」 で代用しています。







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最終更新 : 11/May/2015







1.概 要

2.砲内弾道
(1)砲内弾道学とは
(2)砲内諸現象概要
(3)砲内弾道解法
(4)砲内弾道の結論 

3.砲外弾道
(1)砲外弾道学とは
(2)真空弾道
(3)空中弾道解法
(4)砲外弾道の結論

4.射 表