砲内諸現象の概要




 現象の概要


@ : 装薬に点火すると、
A : それぞれの薬粒の燃焼によってガスが発生し、
B : 薬室内の圧力と温度が急激に上昇します。
C : 砲圧が更に高くなると、 
D : 弾丸が動き始めますが、
E : 弾丸の重量による慣性と摩擦が抵抗となって働き、
F : 更に、旋条に導環が食い込むことにより大きな抵抗となります。
G : 弾丸が前進することにより薬室容積が広がり、燃焼ガスの圧力を下げますが、
H : 装薬の燃焼が更に加速されますので、砲圧は急激に上昇を続け、
I : 弾丸が3〜4口径分前進したころで 最大砲圧点 に達します。
J : 弾丸が砲口を離れるときの 砲口圧 は最大砲圧の10〜30%まで下がります。
K : 弾丸がある程度砲口を離れるまで、燃焼ガスの圧力を受けて若干加速されます。


以上の砲内現象を、各種の曲線で現したものが下の図です。





 砲圧−経過長曲線


砲圧−経過長曲線 は、弾丸が砲内を移動する間の、任意の点における 弾底圧 (= 圧力 x 砲口断面積) を表すものです。




この曲線で現される曲線下の面積は、装薬の燃焼ガスが弾丸に作用する仕事量を現します。 この面積を大きく、かつ砲圧が最大許容砲圧曲線を越えないような砲圧−経過長曲線にすれば、仕事量が増え、これによって初速を大きくすることができます。

しかしながら、理想的な砲圧−経過長曲線は、最大許容砲圧曲線に合致するものが良いのかというとそうでもありません。 

そのような場合には、過度の焼損を生じることとなる他に、砲口圧が高く、砲口焔がひどくなり、初速が不斉一となってきます。 また、薬室を著しく大きくしなければならないために、これが砲の重量増加をもたらします。



 砲内における火薬の燃焼

 (1) 燃焼の順序


点火薬等を使用して火薬片の一部をその点火点以上の温度に上昇させる作用
      ↓
引 火 : 伝火薬の火焔によって、火薬の表面が点火するに至る現象
      ↓
伝 火 : 火薬片の表面に沿って焔が伝搬する作用
      ↓
燃 焼 : 火薬片の内部に分解が進行する現象



 (2) 燃焼に関する諸要素


一般に、伝火及び燃焼の速度は砲圧の変化を決定づけるもので、火薬の成分、粒の表面状態、膠化の程度、密度などに関係します。

伝火は瞬間的に行われますが、燃焼は火薬片の表面より垂直に各部へ等速度で内部進行して行くもので、比較的緩慢であり、これを並行燃焼とも言います。


  ア.薬粒の形状


火薬の燃焼速度は、装薬を構成する全薬粒の露出面積に直接関係してきます。


薬粒の形状の違いによる、それぞれの燃焼前の初期表面積 (S0) と燃焼中の任意の時点での表面積 (S) との比 (= S/S0 )、即ち 形状関数 (Ψ(z)) を、燃焼開始から燃焼終了までの燃焼率 (z) で現すと左の図の様になります。


この形状関数 (Ψ(z)) と燃焼率 (z) の関係は、砲圧−経過長曲線の形状を決める鍵となります。



左の図に示すように、同じ所期燃焼面積、同一成分、同一装薬重量の薬粒を使用した場合、形状の漸増燃焼のものは漸減燃焼のものに比べて、最大砲圧が生じる位置が砲口により近い位置にずれ、最大砲圧は低下し、砲口圧が高くなります。


しかしながら、装薬重量が同じであるため、各曲線の下の面積はほぼ等しくなります。



左の図は代表的な薬粒の形状を示したもので、上の 「薬粒形状による燃焼率」 の図からも解るように、紐状は漸減型燃焼、単孔は定常型燃焼、多孔及びロゼットは漸増型燃焼の火薬です。


  イ.薬粒の大きさ


同一成分、同一形状で、かつ一定重量の装薬では、薬粒の大きさを変えて初燃面積を変えることによって、砲圧−経過長曲線の形を変えることが可能です。


薬粒が大きくなるにつれて、左の図に示すように、上の「薬粒形状と砲圧の関係」の図と同じような効果が得られます。


  ウ.燃焼時間


火薬の燃焼時間は、次の要素によって決まります。


 (ア) 薬粒の大きさ、形状、孔の数
 (イ) 並行燃焼のための薬厚(Web)、即ち燃焼面間の薬量
 (ウ) 火薬の成分による燃焼の緩急、即ち燃焼速度




  エ.燃焼速度


火薬の燃焼の緩急は、化学成分、圧力、燃焼に曝される面積に左右されます。 しかしながら、燃焼の緩急とは、そもそも相対的な用語に過ぎないのであって、他の火薬と比較した燃焼速度を表すことにおいて意味があります。

急燃薬は、緩燃薬よりも急速に燃焼するため、砲圧が高くなります。

薬粒を小さくして火薬全体の燃焼面積を大きくすると、燃焼速度は大きくなります。

また、燃焼速度は、大気中におけるように低圧力かつ開放状態の下で燃焼するよりも、密閉された薬室内での方が極めて大きくなります。 次の表は無煙火薬の場合の一例です。


燃焼条件 燃焼速度(インチ/秒)
大気中 0.05
2,500 kg/cm2 60


 (3) 燃焼による発生物


装薬の燃焼により、CO2、H2O、CO、H2、CH4 が発生します。

このうち、CO、H2、CH4 は、火薬の燃焼ガスの未酸化物又は不完全酸化物として砲口から出ると、大気中の酸素と化合し、これによって閃光、後焔、煙を発生します。

この閃光が発生するのを防ぐには、ガスの温度を下げて酸化しないようにします。

このためには、火薬の粒を加減して、極力早めに完全燃焼するようにし、燃焼ガスが弾丸に対する仕事をする (断熱膨張する) ことにより冷却し、砲口から出る時に引火点以下にすることです。


 (4) ガス圧の発生と膨張

  ア.起動圧

起動圧 とは、導環を旋条に完全に食い込ませる圧力のことで、旧海軍史料では 300〜500 kg/cm2 程度とされています。

  イ.最大砲圧

一般的な砲の最大砲圧点は、通常、弾丸が3〜4口径分進んだ所で生起します。

また最大砲圧は、旧海軍史料では約 3,000〜3,500 kg/cm2 程度とされています。

  ウ.砲口圧

砲口圧 とは、砲口を弾丸が離れる時の燃焼ガスの圧力のことで、旧海軍史料では 500〜900 kg/cm2 程度とされています。

また、砲口圧によって燃焼ガスが大気中に噴出し、化学変化を起こして焔と煙とを出し、砲声を発することになります。



 弾丸の運動

 (1) 弾丸の前進運動


弾丸は砲口を離れた後も弾底に砲口から出る燃焼ガスの圧力を受けますので、僅かながら更に加速され、一般的には砲口を出て3〜4口径分前進したところで最大速度となります。

また、引金を引いてから弾丸が砲口を離れるまでの時間、即ち 砲口秒時 は、旧海軍史料では次のとおりとされています。


砲  種 砲口秒時 (秒)
16吋砲 0.125
14吋砲 0.104
 8吋砲 0.073
 6吋砲 0.050


 (2) 弾丸の旋転運動


砲内に刻まれた旋条に砲弾の導環が食い込み、砲弾の前進に従って旋転運動を始めます。 旋転速度の一例は、次のとおりです。


砲  種 旋転速度 (回転/秒)
5吋砲 12,780
3吋砲 22,700


 (3) 砲身及び砲架の運動

  ア.砲身の退却

弾丸が動き始めると、砲弾の抵抗の反動として薬室内の圧力により砲身は後退を開始します。 そして、弾丸が砲口を離れる瞬間に、退却速度は最大となります。

  イ.砲身の振動

ガス圧及び弾丸の旋転運動の影響を受けて、砲身は伸張並びに縦・横及び捻りの振動を引き起こしますが、これは砲口部で最大となり、出行角の原因となります。

  エ.砲身の昇温

  オ.砲内の損食


砲の内面に対する燃焼ガスの化学作用と弾丸の摩擦・打衝作用により、砲内が漸進的に侵食されて 損食エロージョン、Erosion ) が生じます。 この損食は、焼食 (ガスエロージョン)、溶食 (スコーサイブ) 及び摩滅 (アブレッション) の3つの総合作用の結果として表れます。


損食の細部については、この後の 「砲内弾道の結論」 の項で説明します。




 砲内における燃焼エネルギーの消費


装薬の燃焼の際発生したエネルギーがどのように使われるのかということですが、その項目別相対消費比率 (%) の一例として、米海軍の資料による3〜5インチの小口径砲におけるものを下に示します。


消費項目 消費比率 (%)
  弾丸の前進運動  32.0
  導環と旋条の摩擦   2.2
  弾丸の旋転   0.1
弾丸に作用するエネルギー合計  34.3
  燃焼ガスの運動   3.1
  砲と弾丸に奪われる熱損失  20.2
  燃焼ガスの顕熱及び潜熱損失  42.3
  砲架の運動   0.1
総   計 100.0



(注) : 「砲内」 「砲圧」 と言う用語の 「砲」 の字は、正しくは 「月」 偏に 「唐」 と書いて 「とう」 と読む文字ですが、常用漢字表にも常用フォントにもありませんので、全て 「砲」 で代用しています。







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最終更新 : 10/May/2015







1.概 要

2.砲内弾道
(1)砲内弾道学とは
(2)砲内諸現象概要 
(3)砲内弾道解法
(4)砲内弾道の結論

3.砲外弾道
(1)砲外弾道学とは
(2)真空弾道
(3)空中弾道解法
(4)砲外弾道の結論

4.射 表