砲戦の基本要素




  砲  熕
  弾  薬
     (1) 弾  丸
     (2) 装  薬
     (3) 弾薬定数 ← 現在の頁
  装  甲
  人  員



 弾  薬


  (3) 弾薬定数


艦艇に搭載すべき弾薬の定額は、砲種、砲数、船体容積などを考慮し、かつ過去の海戦における教訓により将来の戦闘様相を予想して決定すべきものであることは論を俟ちません。

旧海軍における弾薬の定額は、当初英海軍のものを採用し、これにこれまでの戦闘における教訓を加えて決定してきたもので、その数量は1回の決戦的戦闘において十分なものであることを標準としました。

ここで問題なのが、1回の海戦において十分な数量とはどの程度のものなのか、そしてそれ以前のこととして、過去の海戦において弾薬に不足をきたしたために戦闘を中止した例があるのか、ということです。

後者について先に結論を申し上げると、実は全くないのです。

例えば、古くは1666年の「四日戦争」と言われるカレー海戦では、200隻に上る艦船が4日間にわたり繰り広げられた戦闘においても、弾薬が欠乏したとする記録はありません。

また1703年の英蘭艦隊対仏西艦隊によるマラガ海戦でも、7時間にわたる激戦の末でも勝敗は決しませんでしたが、この時も弾薬欠乏が海戦中止の原因とはなりませんでした。

そして近代海戦においても弾薬欠乏のために戦闘を中止した例は皆無です。

ただし、弾薬欠乏の “誤報” により海戦が中止されたものとして、日露戦争での蔚山沖海戦、そして米西戦争でのマニラ湾海戦の例があります。

蔚山沖海戦においては、旗艦「出雲」の8インチ主砲の発射弾数は、砲4門で255発、1門平均発射弾数は64発でした。 これは搭載弾数が1門に付き120発(本来の規定弾数100発ですが、日露開戦後に増載したとされています)に対して、まだ1門に付き56発(規定弾数からすれば36発)が残っており、これはまだ搭載弾薬の約1/2(規定弾数の約2/3)を消費したに過ぎませんでした。

また副砲の6インチ砲では、砲14門で1085発、1門平均発射弾数は77.5発でした。 これは搭載弾数が1門に付き150発(規定弾数は120発ですが、同じく開戦後に増載したとされています)に対し、1門平均72.5発(規定弾数からすれば42.5発)が残っており、同じくこれは搭載弾薬の約1/2(規定弾数の約2/3)の消費です。 ところが、それらの残弾が約1/4を残すのみと誤報された結果、遂に追撃を終始する主因となったのです。

また、マニラ湾海戦において、湾内に突入して西艦隊と交戦した米艦隊は、約2時間後に5インチ砲が1門に付き15発を残すに過ぎずとの報告されたことにより一旦戦闘を中止して退きました。 実際は消費弾数が15発であるところを残弾が15発であるとの誤報だったのです。 ただしその直後にこれが誤報であることが判明して再突入した結果、大勝を得ることとなったことは史実の示すところです。



    代表的近代海戦における弾薬消耗額


マニラ湾海戦 (1898年、米側)


砲 種 8” 6” 5” 6pdr Small
砲 数 10 23 20 28 46
総発射弾数 157 635 622 2124 2321
1門平均発射弾数 15.7 27.6 31.1 15.9 50.5
搭載弾薬数 818 1972 1505 15252 19591
発射数/搭載数 (%) 19.2 32.2 41.3 13.9 11.8
最多発射艦 Boston Concord Olympia Ptrel
同上百分比 (%) 26.1 41.6 46.8 29.6 38.8


サンチャゴ湾沖海戦 (1898年、米側)


砲 種 13” or 12” 8” 6” 5” 4” 6pdr Small
砲 数 14 32 14 12 88 36
総発射弾数 86 319 171 473 251 6553 1578
1門平均発射弾数 6.1 10 12.2 39.4 41.8 74.5 42.8
最多発射艦 Oregon Oregon Texas Brooklyn Jawa Glaucester Glaucester
同上1門発射弾数 8.5 15.4 16.2 39.4 41.8 14.73 195


黄海海戦 (1897年、日本側)


砲 種 32糎砲 17糎以上
後装砲
15糎以下
後装砲
6”速射砲 4.7”速射砲 軽側砲 機 砲
砲 数 12 30 59 110 53
総発射弾数 13 142 462 432 3032 5127 11511
1門平均発射弾数 4.3 11.8 15.4 54 51.4 46.6 217.2
平均1門宛搭載弾数 60 98 97 130 165 358
発射数/搭載数 (%) 7.2 12 15.9 42.3 31.2 13
最多発射艦 浪速 浪速 橋立 浪速 比叡
同上1門平均発射弾数 16.5 25.2 66.5 129 750
同上同百分比 (%) 16.5 33.6 41.6 36.3


黄海海戦 (1907年、日本側)


砲 種 12” 10” 8” 6” 4.7” 3”
砲 数 16 20 130 70 168
総発射弾数 603 33 545 4269 608 2305
1門平均発射弾数 37.7 33 27.8 32.8 8.7 13.7
戦艦及び装甲巡洋艦のみでの算出
砲 数 16 14 106 96
総発射弾数 603 33 457 3952 2142
1門平均発射弾数 37.7 33 32.7 37.3 22.3
最多発射艦 三笠 春日 日進 三笠 朝日
同上1門平均発射弾数 43 33 54.5 78 38.6


蔚山沖海戦 (1907年、日本側))


砲 種 8” 6” 3”
砲 数 16 70 48
総発射弾数 958 4428 2327
1門平均発射弾数 59.9 63.3 48.5
最多発射艦 音羽 常磐 出雲
同上1門平均発射弾数 69 82.1 75.8


日本海海戦 (1908年、日本側)


砲 種 12” 10” 8” 6” 4.7” 3”
砲 数 16 34 204 101 321
総発射弾数 452 50 1393 12151 2454 9311
1門平均発射弾数 28.2 50 40.9 59.5 24.2 29
戦艦及び装甲巡洋艦のみでの算出
砲 数 16 30 160 168
総発射弾数 452 50 1290 8831 7515
1門平均発射弾数 28.2 50 43 55.2 44.7
最多発射艦 朝日 春日 春日 敷島 日進
同上1門平均発射弾数 35.5 50 51.5 79.6 76


本稿のデータ表は、全て海軍大学校教官であった安保清種中佐(当時)が取り纏めたものです。 他の旧海軍史料にはこれと多少数値の異なるデータ表もありますが、ここでは敢えて安保のものを示します。



    将来の海戦に対する用兵者側の意見


以上のことからその結論として、当時の旧海軍の用兵者側が求めた弾薬定数については、次の理由によりこれまでの海戦よりは多少多い数量が必要となるとされました。


ア. より遠距離にての決戦となる傾向にあること

イ. 防御力が進歩したこと

ウ. 発射速度が増加したこと







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初版公開 : 04/Mar/2018







明治40年代

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