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第7話 地球自転の影響について




  艦砲射撃における特徴
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  旧海軍の場合
  米海軍の場合




 海上自衛隊における理論的説明


艦砲射撃において地球自転の影響を考慮する必要が出てくるのは大口径砲であって、中口径砲以下についてはこれを無視するのがどの海軍においても一般的です。

海上自衛隊は、その創設から現在に至るまで艦艇が搭載する砲は5インチまでであり、実際の射撃計算においては実用上必要のない問題ですが、射撃理論としては一応これについても触れることとしています。

当然のことながら、射撃理論における地球自転の影響についての説明も、射撃計算を前提とする以上は多少の簡素化 (略算化) が必要になってきます。

このことから、海上自衛隊においてはこの問題を次の3要素に分け、X効果Y効果、及びZ効果と名付けて簡単に説明してきています。



 (1) X効果


いま、砲が赤道上の静止点にあり、真東に向かって発砲 したとします。 仮に地球が静止しているものとすると、その弾道は下図の OSZ となるでしょう。




実際は地球は自転しているため、O点にある砲はその切線方向 OG に 約1500 f/s の線速度をもって動いていることになり、したがって、大気中における砲弾は発砲時の砲に対する初速と地球に対する砲の線速度を合成した速度で飛翔することになります。

 即ちこの付加された線速度により、地球静止時の落点である Z点を OO’に斉しい ZZ’分だけ進めた Z’点に砲弾は飛翔することになります。 ここで、ZZ’は地球が静止しているとして計算された射距離 Za に斉しく、また ZZ’は OO’に平行です。

しかしながら、Z’点はまだ空中にありますから地表面への実際の落点は Z”点となり、aZ”の距離だけ砲弾の射程が延伸 したことになります。

逆に西に向かって発射した場合 は、砲弾に対して地球表面は上昇する結果となり、射程は減少 することになります。

このX効果によって生ずる射距離の誤差の大きさは、北から測った射線方位の正弦 (sin) 及び砲が位置する地球表面上の地点の線速度の関数になります。 後者は即ち緯度の余弦 (cos) で決まります。

したがって、赤道上で真東、あるいは真西に向かって発射した場合が最大になり、射線方位が真北又は真南に近くなるに従って 0 に近くなることになります。

なお注意すべきは、水上射撃の範囲においてはX効果は射線方位にかかわらず左右偏差は無視できる 程度のものであることです。



 (2) Y効果


いま赤道上の1点から鉛直 (真上) に砲弾を発射したとします。 すると、この時砲弾が常に発射地点の真上に位置するようにするためには、下図のように砲弾が上昇するに従ってO点における地球自転による線速度より大きな速度の真東方向への速度成分を持たせなければなりません。 この増加量は地球中心 (地心) からの距離に比例します。 




しかしながら砲弾に与えられているのは発射時のO点における線速度ですから、砲弾が上昇するに従ってO点からの見かけは真上から次第に真西方向にずれていくことになります。




そして、砲弾が弾道の頂点に達した時には発射薬によって与えられた速度成分は O になりますが、発射時のO点で与えられた地球自転による速度成分は維持することになります。

次ぎに砲弾が下降段階に入ると、砲弾はこの速度成分と重力によるb点方向への速度成分となります。




頂点において鉛直方向にあったb点そのものは地球の自転により真東に移動しますので、弾丸に作用する重量により次第に砲弾はb点より真西の方向にずれてきます。

これらの結果、砲弾はb点の真西方向のZ点に弾着することになりますが、b点は発射時のO点の真西にありますから、Y効果の総合効果は砲弾落点の真西方向への偏差となって現れることになります。




以上のことは砲弾を真上に発射した場合ですが、それ以外の場合でもこれと同様に、実際の弾道上の各点は地球が静止しているものと仮定して計算した弾道上の相当する各点の真西方向にずれることになります。

Y効果は、赤道における地球表面の線速度に対して 発射地点の緯度Lの余弦 (cos L) に比例 し、かつ常に真西方向に作用 します。 したがって、北基準の射線方向 (Bgy) により縦(射距離)及びそれと直角 (横) 方向の偏差はそれぞれ次の値に比例することになります。


縦偏差 : cos L x cos Bgy

横偏差 : cos L x sin Bgy



 (3) Z効果


いま、砲が北極点Pにあって下図の Pa の方向に指向されていると仮定します。 P点においては当然のことながら地球自転による線速度は 0 ですから、この砲から発射された砲弾は装薬による砲口初速以外の速度成分は持ちませんので、砲弾は空間を Pa の方向に向かって飛翔します。




これに対して、a点は地球の自転により砲弾の飛翔中に a’点に移動しますので、砲弾の落点は砲から見て右に偏位します。

逆に砲がa点にあって、目標がP点にある場合を考えます。 この場合、P点は地球自転に対して静止していますが、a点で発射された砲弾は地球自転による線速度が与えられることにより、やはり落点は砲から見てP点の右に偏位します。

次ぎに、砲がO点にあって、真東にある目標のZ点に対して射撃するとします。 この場合、砲弾はO点から OZ の方向に飛翔しますが、OZ はこの間に O’Z’に移動します。 したがって、砲から見ると落点はやはり右に偏位することになります。

(注) : 正確にはX効果によって、砲弾はO点の地表接線方向への線速度を得ますので、真東のOZ方向とO点における地表接線との角度に応じて更に右に偏位することになります。 しかしながら、水上射撃の範囲においては真東方向と地表接線とのなす角度は非常に小さいので、X効果によるこの横偏位は無視して考えるのが普通です。

以上のことから、Z効果により 北半球においては射線方位にかかわらず常に右に偏位を生じ、赤道においては偏位はなく、南半球では常に左に偏位を生じる ことになります。




 海上自衛隊における算式


海上自衛隊においては、地球自転の影響を修正を要するするような砲熕武器を搭載した艦はありませんので、実際の算式例はありませんが、現象の説明として旧海軍における算式をそのまま用いています。

旧海軍における具体的な算式の例は当該ページで説明します。







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 最終更新 : 26/Feb/2016