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射法理論 (その2) |
魚雷の精度について、魚雷射法上は一般的に次の5つの項目について問題とします。
(1) 左右の精度 |
(2) 雷速の精度 |
(3) 到達の精度 |
(4) 深度の精度 |
(5) 爆発の精度 |
(1) 左右の精度
左右の精度で使用する術語は、次のとおりです。
イ. 単散布帯 : 同一状況において同一魚雷を無限大の回数発射した場合の射線と直行した線上における散布の範囲
ロ. 平均到達点 : 同一の状況の下に同一魚雷又は同種魚雷を逐次又は一斉に発射した場合のその平均到達点
ハ. 発射中心 : 発射魚雷数を無限大とした場合の理論的平均到達点
発射した魚雷についての左右の精度は、一般的に正規分布をするものとして取り扱われ、この正規分布の状況を公算誤差 (=公誤) で表わします。
(注) : 簡単に言うと、正規分布において 2r の値が確率 50%である場合の r を 公算誤差 又は 公誤 といいます。 現代では標準偏差や偏差値というのが有名になってしまいましたが、電卓やパソコンが無かった時代においては、確率 50%という極めて分かりやすい表現はそれなりに重要な意義を持っていました。 この公誤という考え方は、元々砲術の世界のものでしたが、大正期に水雷界が砲術に倣って導入したものです。
したがって、次のように言い表すことができます。
イ. 魚雷は発射中心 (平均到達点) を中心として左右略同様に散布する。
ロ. 散布は発射中心付近が最も密であって、左右 1r 以内に 50%、2r 以内に 82%、4r 以内に 99.3%が収まる。
ハ. 4r の区画外は 0.7%であって、一般には不規的散布として取り扱う。
静止した目標 (= 静的) に対して魚雷を発射した時の公算誤差 r を 静的公誤 と言います。 この公誤の大小によって発射魚雷の左右の精度を数値的に表すことができ、r が大きい程精度が不良と言うことになります。
左右精度についての静的公誤の求め方は、次のとおりです。
イ. 平均到達点を算出する。
ロ. 偏斜 (Y) を平均到達点を中心として換算する。
ハ. Yの絶対値の総和を求める (=煤bY|)
ニ. 次式により公誤を算出する。
ハ. 発射数が比較的少ない場合は次式を用いる。
ホ. 次の事項を考慮する。
計上雷数は極力多くする。
不規魚雷 (4r 以上) 及び疑問値 (射程の10%以上の偏斜) のものを除く。
(2) 雷速の精度
雷速は調定する射程によって異なってくることは、既に魚雷発射法においてご説明してきたところです。
雷速公誤 (rv) の求め方もまた上記の左右公誤の場合と同じです。
(3) 到達の精度
到達の精度は、魚雷の目標 (予期命中点) への 到達率 によって論じ、到達雷数の全発射雷数に対する百分比 (%) で表します。
この到達率においては、静的公誤及び雷速公誤を求める場合において不規魚雷として除いたもの及び目標まで不到達であったものを全発射雷数から差し引いた雷数を到達数とします。
(4) 深度及び爆発に対する精度
深度に関しては 深度公誤 を、爆発に対しては 爆発率 を求めてその精度を論じます。 ただし、何れも第2次大戦中までの成績では極めて精度良好であって、射法計画上は敢えて考慮しなくとも良いものと考えられます。
(5) 動的に対する公誤
上記の左右及び雷速の静的公誤では、動いている目標、即ち動的に対しては適用できず、その公誤は的針的速等によって大きさが変化し、あるいは的針上の誤差となります。 したがって、動的に対する公誤の検討が必要となります。
まず、左右の静的公誤は単に射程によって左右されるものですが、動的に対しては方位角及び射角によって差異が生じます。 したがって、この静的公誤を的針上のものに換算したものを 偏倚公誤 (r1) と言います。
偏倚公誤は、次によって求めます。
イ. @ の魚雷は照準点 (B) の目標に対して命中点 (C) で命中します。
ロ. A の魚雷 (@ から静的公誤 r だけ偏倚したもの) は的速誤差により目標がEの位置にある場合に命中します。
ハ. DC=r の偏斜量は動的に考えれば EC=R1 の偏倚と同様と考えられます。 したがって、偏倚公誤 (r1) は次式で表されます。
また、雷速は静止目標、即ち静的に対しては当然の事ながら偏倚を生じませんが、動的に対しては魚雷が的針線上に到達するまでの時間に差が生じますので、これが的針上の偏倚となります。
この雷速公誤を偏倚公誤と同様に的針上のものに換算したものを 魚雷偏倚公誤 (r2) と言い、次の式により求められます。
そして、動的に対する公誤、即ち 動的公誤 (R0) は、偏倚公誤と雷速偏倚公誤との合成公誤として次のとおり定義されます。
(6) 精度測定上の留意事項
魚雷射法上からは、魚雷の精度を各射程と各雷速ごとに求めておくことは重要なことですが、現実に的には不可能なことですので、自艦に必要な標準駛走能力について把握しておくのが一般的です。
特に静的公誤については、各標準駛走能力について最大駛走距離及び雷撃上最も代表的ないくつかの射程に対する静的公誤を測定して、その中間は実験式又は比例配分により算出します。
また、雷速公誤についてもいくつかの雷速で測定して静的公誤と同様に算出しておきます。 ただし、雷速公誤は近距離の場合は相当に大きくなりますから、特に測定しておく必要があります。
魚雷の精度は、本来は実戦と同一の状況を作為して測定するのが理想ですが、これも事実上不可能なことですから、平時の製造、領収、研究の機関などにおいて測定したものを基礎として算出しなくてはなりませんが、一般的に戦時においては平時の値より更に大きなもとの考える必要があります。 いわゆる戦時係数の考え方です。
(1) 関係術語の定義
散布帯 : 2個以上の単散布帯を併合したもの
集射散布帯 : 全魚雷を同一目標 (地点) に向けて発射した場合の散布帯
散射散布帯 : ある間隔をもって魚雷を散布させて発射する場合の散布帯を言い、次の2つに区分
単散々布帯 : 各魚雷をある間隔で散布して発射する場合の散布帯
集散々布帯 : 2個以上の魚雷をある間隔で散布して発射する場合の散布帯を言い、二集三散々布帯などと言う
散布間隔 : 散布帯を構成する各単散布帯の発射中心間の距離
散布帯中心 : 散布帯の両端の単散布帯中心の中心点
基準射線 : 散布帯中心を通る射線又は仮想射線
散布帯長 : 散布帯を構成する両端の射線 (単散布帯中心) 間の距離
(2) 散布帯構成の必要性
的針的速や照準距離の測定誤差、目標の回避運動などによって、1発の魚雷のみで命中を期待することは実際問題として不可能に近いものであることは、皆さん既にご理解いただけたと思います。
そこで、多数の魚雷を連合発射して散布帯を構成し、その内の1発、あるいはそれ以上の命中を期待できるようにすることが必要になってきます。
(3) 散布帯の構成種別
散布帯の基本的な構成方法は次の3つです。
イ. 開進射法 : 1発ごとの射線に開度を与え、2発以上の魚雷を開進発射する方法 (下図左)
ロ. 並進射法 : 各射線に一定の間隔を与え、射線方向は平行に発射する方法 (下図中)
ハ. 集散散布帯 の構成 : 2射線以上を1群として、各群ごとに開進射法を用いる方法 (下図右 : 二集三散 散布帯の例)
(4) 散布間隔と開度
単散布帯における発射中心は実射線上に置くのが通常です(射線と射線の間にならないようにする)から、散布間隔 (d’) はある射程における各射線間の距離と言うことになります。 当然、並進射法における散布間隔は射程に関係なく一定ですが、開進射法では射程に正比例します。
開進射法では、一般的に射線の開度による散布間隔は射程に比べると小さいので、その散布間隔は次の式で求められます。
そして、この散布間隔を的針上のものに換算したものを 動的散布間隔 (d0) と言います。
第2射線では A 魚雷がD点にある時にE点にある目標に対してF点で命中することになりますから、第1射線と第2射線との静的間隔d1 (=CD間) を的針上に換算するとd0 (=CE間) となります。 したがって、
また、並進射法において、隣接する射線どうしがなす角度を 開度 (ρ) と言い、上記の散布間隔を求める式から、
したがって、所要の動的散布間隔 (d0) を得るための開度は、次の式により求めることができます。
最終更新 : 27/Aug/2011