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第7話 海軍軍人と手傘



旧海軍の軍人は、制服着用時に傘を差すことを禁じられていました。 もちろんこれは “軍服に傘は似合わない” とか “傘を差しながら戦闘はできない” などなどのその発端となった様々な理由がありますが、しかしながらこの傘の禁止はそのような単なる “躾け” ではなく、キチンとした規則で定められておりました。

則ち、明治5年5月2日に 「海軍省乙号達第38号」 をもって定められた 『海軍文武官制服着用の際手傘使用禁止の件』 により、これが今次敗戦による海軍消滅まで続いたのです。 




もちろん、この乙38号にあるとおり、海軍武官、則ち海軍軍人のみでなく、海軍の文官であっても定められた制服を着用する場合は同じです。



それでは現在の海上自衛隊ではどうなっているのでしょうか?

これも、海自の現役やOB達でさえも同じように、“制服に傘では格好が悪いから” とかの感覚論や、中には “『自衛官服装規則』 や 『海上自衛官服装細則』 で定められた着用品の中にないから” とかいう者までいます。

これは、多分に幹部のせいでもあるでしょう。 彼等が不勉強でその様に部下指導するので、海曹士もそうだと思ってしまう例が多いと思います。

残念ながら、海自でもこの手傘についてはキチンと決められています。 『自衛官服装規則並びに海上自衛官服装細則の解釈及び運用方針について (通達)』 (昭和51年海幕総1093) です。 この中で次のよう規定されています。




中にはこの文をご覧になって、“ほ〜ら、「着用を認められていない」、だから服装規則や細則に定めがないからだろう” と言われる方があるかもしれません。 いいえ、「着用を認められていない」 とは 「雨衣」 にかかるのであって、則ち市販のレインコートなどのことを意味します。 これが 「かさ」 にもかかるとすると、その場合は “及び” ではなく “並びに” となります。 これが公文書の書き方なのです。


それでは他国の海軍ではどうなのか? 私も全てを調べたわけではありませんが、ほとんどの海軍で昔から制服着用時には手傘は禁止されていると思います。

ただ、私の知る限りでの例外は米海軍です。 米海軍ではもう30年ほど前になりますが、この規定が緩和されまして黒一色の傘を 「使用することができる」 という任意規定になりました。 則ち、米海軍服装規則 (U.S.Navy Uniform Regulations : NAVPERS 15665I) 中の 「Article 3501.99」 です。

(注) : 項番は現時点でのもので、規則改正に伴って替わってきます。 以前は 3501.94 でした。




皆さんご存じの、弾道ミサイル原子力潜水艦 「アラバマ」 をテーマにした映画 『クリムゾン・タイド』 の中で、艦長が制服を着て傘を差しながら帰艦するシーンを覚えておられる方もおられると思います。 このシーンは米海軍の規定緩和に基づいています。


( 公式番宣写真より )






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 最終更新 : 19/Apr/2020