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4-2. 幹部中級欠食放浪課程学生



第一術科学校での1年間の幹部中級射撃課程に入校した時、私はまだ独身でした。 この時のクラスメート15人中で独身だったのは1期後輩のY君と二人。


この中級課程の学生というのは、人事上は入校前の所属の適宜なところの “付配置” となって入校が命ぜられます。


例えば、私の場合は横須賀・船越のプログラム業務隊のDDプロジェクトにおりましたので、入校時の人事上の発令は次の様でした。





そして、妻帯者の学生で遠方からの家族を連れての赴任の場合は、だいたいが大原の官舎に入居します。


ところが、独身の場合はこの官舎には入れないことはもちろん、校内の1術校 ・ 候校勤務の単身赴任幹部職員用のボロで木造の寮 (「古鷹寮」 と呼ばれていた) にも入れないないのです。


それどころか、任務課程や1術校所掌以外の中級課程学生で4ヶ月間の中級共通課程学生で1術校に入校して来る者は幹部学生隊舎に入り、海曹士と同じ学生食堂で三食食べれるにも関わらず、1術校中級の1年間の課程学生はダメ。


でどうするかというと、校外のアパートなりを自分で探して借りることになるのですが ・・・・


二階建四軒の小さなアパートの一つを借りて、一応の生活用具を揃えましたので、住むと寝るは何とかなったのですが、問題は毎日三度三度の食事です。


校内の学生食堂は食費は払うからと言っても利用できないのです。


結局、私の様にそれまで自炊などした事の無い、自炊道具などを持たない者は、全て外食かパンなどの買い置きの簡単なもので済ますことになります。


まあ朝食は飲み物とパン位の簡単なものか食べなくても何とかなります。 そして平日の昼食は厚生館 (今の立派な建物などはまだ無く、その裏の平屋の古いところです) にある共済組合の委託食堂で済ませます。


委託食堂はメニューが限られているのですぐに飽きますが、他に校内で食べられる所の選択肢がありませんので。


問題は平日の夕食と休日の三食です。


ともかく江田島町内を探し回り、何とか食事 (又はその替わりのものでも) が摂れるところを日々渡り歩くことになります。 平日でも開いている数件しかない食堂、居酒屋、飲み屋さん、などなど ・・・・


当時の江田島がどの様なところであったのかをご存じの方はお判りになると思いますが、それこそ学校の職員と学生相手のお店以外はほとんど何〜んにも無いところでした。 何しろ当時は江田島には現在の様なコンビニさえまだありませんでしたので。


で、平日の授業では午後になるといつも頭の中は 「今日の夕食はどこに行って何を食べようか ・・・・」 ばかり考えていました。


何しろ、1・2ヶ月程度ならともかく、1年間ですから。


私有車は普段はかなり離れたところの空き地に止めていましたが、時にはこれを取りに行って早瀬、音戸をぐるっと回って呉まで食べに行くことも。


ともかく、平日の教務以外では、日々の生活と、食事のできるところを渡り歩くだけで精一杯の毎日でした。 独身だから家庭サービスなどは不要だからいくらでも勉強ができる、などとんでもない話しです。


ところが、です。 中級同期のもう一人の独身のY君は候補生学校教官からの入校でしたので、彼の場合は 「候補生学校学校付」 の人事発令で、そのまま校内の単身赴任幹部職員用の寮に入ったままですし、そこは朝夕は住み込みの管理人ご夫婦による賄い付きでした。


私との差は、たったこの 「付配置」 の人事発令の違いだけなんです。


砲術科の課程担当教官始め、学生隊本部や管理課などにも散々苦情を申し入れたのですが、「規則でそうなっているから仕方ない」 の一点張り、全くのケンモホロロで、聞く耳も、何とかしようという気も無し。


そこで、Y君に頼んで毎月の食費を含む生活費の家計簿をつけてもらい、修業時の所感文の教務に関する事項とは別に、このY君と私の家計簿を2種類を添付してぶ厚い別紙を作りました。


要は、“たった付配置の人事発令一つの違いで1年間の生活にこれだけの差がある” “独身中級幹部学生の生活環境に対する配慮が全く無い” “一体どこが 「学生は学業に専念し、勉学に全力を尽くすべし」 なのか” ということです。


もちろん修業所感文としては異例のものであり、当時学校長までも含め学校内で相当話題になったらしいですが ・・・・ その後の学生の処遇が改善されたのかは ・・・・ ?


この様な海上勤務の職種の幹部に対する配慮・考慮の欠落は、学生期間だけではなく、現役中、それも結婚してからでも、まだまだ色々沢山ありましたが、人事上のちょっとした配慮、工夫というのが全くないのが海上自衛隊と言うお役所です。


そして、事務官や艦艇用兵職種以外の自衛官がなる担当者は、単に自己の仕事を事務的に処理するだけ。


これで現場の特別職国家公務員たる幹部の船乗りには、何かあったら脇目も振らずに自己の命を懸けろ、と。







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最終更新 : 11/Sep/2022