射撃教育




  総 説
  基本教育 ← 現在の頁
  総合教育



 基本教育


基本教育は、次の様に各部ごとまず第1次の 分解教育 を行い、次いで第2次の 総合教育 に入ることとされていました。


( 左クリックで拡大表示します )



  射撃指揮官


この基本教育中最も重きを置くべきものは幹部の主脳である指揮官の教育で、かつ射撃教育上は最も難しいものです。 即ち、指揮法の真髄は戦闘において起こりえる種々の状況について数多くの実弾射撃の経験を積む以外には十分に会得し難いものですが、平時における使用弾薬の制限、砲身命数の問題などにより必要な演練を重ねることが許されないばかりでなく、実戦の状況を模してこれを行うことは不可能なことだからです。

このため、この教育はまず机上の講習により射法の原理とその適用法を演練して技量を高め、次いで中小口径砲又は内・外膅砲をもってする射撃により実射の要領を会得し、最後に少数の弾薬を使用する戦闘射撃によって最終的な経験を積み重ねていくしかありません。

実弾射撃の機会は極めて少ないものですから、これだけで熟練の域に達しようと意図するのは不可能なことで、このため机上射撃教練を日頃から励行して判断力、応用力を身に付け、かつこれにより射撃指揮官としての自己の意志を直ちに号令として部下に伝えられるように練習に励み、数回の実弾射撃の機会はこれの集大成である心得るべきであるとされました。



  指揮官以外の幹部


射撃指揮官以外の幹部は、指揮官の耳目手足として動作しなければなりませんので、この教育もまた決して疎かにできるものではありません。

当時においても、射撃成績の不良の原因はこの幹部の失策による場合が多いことが見られたように、これら幹部全体を通じて指揮官の意図に従って適切な協同動作が取れるようにすることはひとえにその指揮官の懇切丁寧な指導と練習にかける熱意によるものであると言えます。



  操砲部員


操砲部員の分解教育中で特に重視すべきは装填、照尺改調、照準発射の3つです。 この3つは従来から一般に最も励行されてきたところですが、往々にして形式に流れて本来の要求から離れたものとなる場合があります。

例えば装填の訓練において徒に速度を上げることを競い装填が確実に行われることに配慮が行かず、また実戦の供給は主として仰角装填にあることを考えたものでないことなどです。

また照尺改調においても、連綿不断の改調を強いることはあっても、実際に射手はこれによって保続照準が出来るかどうかは考えていないことが見られました。

これらのことは、単に教育に効果のないだけでなく、その弊害は寧ろ甚大なものがあり、このような弊害は教育の方針が確立されておらす、かつ監督の厳密さに欠けることにより益々助長されるものであることを深く戒められていました。

因みに、一例として当時の砲術家の一人であった末次信正海軍少佐(当時、後海軍大将)が「肥前」砲術長時代に作ったとされる 『砲員の銘』 を、当時における射撃教育指導の参考として次にご紹介します。


「砲員の銘」

一、射撃の効力とは照準の精度と発射速度の相乗積の謂なり、故に照準最も正確にして而も発射速度至大なるあらざれば抗力の発揮は得て望むべからず

二、照準の精度を増すは(射)(旋)(尺)の任なり、三者須く一心一体となりて保続照準に努むべし、是れ精度と同時に発射速度を増す所以なり

四、指命及び一斉打方に於ける発射の時期は常に指揮官の意図に合するを要す、是れ実に試射を迅速にし本射の抗力を発揮する所以なり

五、不期の故障は大いに射撃の抗力を減殺す、不発に於いて殊に然り、(砲長)は須く周到の注意を以て故障を未発に防ぐべく(砲手)は須く機敏の処置を以て故障を既発に制すべし

六、準備は小心ならんことを欲し実施は大胆ならんことを欲す、人事の限りを尽くして天命を待たば成功期せずして到らん



  弾薬部員


弾薬部の教育は操砲部の教育と相俟って発射速度に大きな影響を及ぼすのであり、その教育において特に要求すべき事項は供給速度の迅速とその保続にあります。

この2つは供給装置の良否にも関するものではありますが、供給部員の編成及び訓練によるところもまた大きなものがあります。 当時における供給部の定員は何らからの標準があるものではなく、各艦が任意に定めることとされてましたので、その教育の任に当たる者は先ず装置の便否と搬路の上下・遠近を周到に考慮して適切な編成・配置を定た上で、その後に訓練に励むことが求められます。

このため各艦はその固有の装置に適するように供給操法を制定する必要があります。 これらを漫然と下級将校又は下士卒に放任して、徒に訓練の励行のみを強要しても実行を挙げ得ないことは勿論です。 


ア.供給速度は発射速度を渋滞させないことを標準とし、無用の弾薬を砲側に堆積さないようにし、このために常に砲側との連絡調整を確実にすること

イ.減員あるいは機械装置の故障に際して採るべき処置を研究し訓練すること

ウ.側砲においては必要に応じて両舷の供給力を一舷に集中する方法を研究してこれを制定しておくこと

エ.刻々と弾薬の残額を調査し得る方法を設定し、これの計算に習熟させること


弾薬部の部員の本来任務は艦内の後方勤務の者が多数を占めることになりますので、苦労大にして労少なく、いわゆる「縁の下の力持ち」に類することから、砲員の教育におけるようには彼らの興味と進歩を並行して求めることには難しいものがあります。

したがって教官の熱意と献身的な努力をもって彼等を同化すると当時に、適当な奨励法を講じることも特に肝要であるされています。



  探照部員


探照部の教育として、当時行われたものは光力の調整・維持に重点を置き、実際の要求である目標の探照・追照は比較的軽視されていた嫌いがあったことは確かです。

例えば通常毎週行われた探照教練においても、その多くは単に週課であるために点灯し無意味にこれを振り回すに過ぎず、目標を設けて実際に近い教練を行うことはほとんどないような状況も見られたこともありました。


日露戦争に勝利した後の当時の旧海軍の現場においては、当面の差し迫った脅威が無かったこともあり、後年のように平時においても猛訓練に励むような切実感が薄かったことも、その一面に持っていたことは事実といえるでしょう。







頁トップへ

初版公開 : 22/Apr/2018







明治40年代

  砲戦の基本要素

  軍艦の砲装

  軍艦の防御

  軍艦の速力

  砲火指揮法

  射 法

  射撃教育

    総 説

    基本教育 

    総合教育

  砲戦要務

  戦 術