軍艦の防御




  総 説
  水線付近の防御
  水上部の防御 ← 現在の頁
  水中部の防御
  結 論



 水上部の防御


水上部の防御とは、一艦の主脳である幹部人員、砲熕及び砲員、通信機関、排煙及び通風装置等(Up Take)の防護のことを言います。

幹部人員の防御としては司令塔が、砲熕及び砲員の防御としては「バーベット」(Barbet)、「ターレット」(Turrett)、「ボックス・バッテリー」(Box Battery)、砲廓、遮壁装甲甲板などがあますが、通信機関は両者によって同時に防御されることになり、また排気及び通風装置などもまた副砲台によって同時に防御するのが一般的です。

「富士」の頃までは上部甲帯は水線甲帯の上部より中間に至るまでに止め、中甲板に装備された6インチ砲の防護は専ら砲廓によるものでしたが、「三笠」において初めて上部甲帯を上甲板まで延長し、中甲板に「ボックス・バッテリー」を設け、以後列国海軍の戦艦も全てこの形式を踏襲することとなりました。

この「ボックス・バッテリー」は単に砲熕及び砲員を防御するに止まらず、その舷側の大部分にわたる装甲は後面の隔壁(Screen)と相俟って排煙や通風等を保護する効果があります。

「D」型戦艦が巨砲全装式を採用したことによりその12インチ砲はそれぞれ独立した「バーベット」を有することとなり、結果として英海軍の装甲艦においてはこの「ボックス・バッテリー」形式は全く姿を消しましたが、旧海軍においては依然として6インチ砲を採用することからこの「ボックス・バッテリー」もまた存続しています。

上部甲帯の上端は約1インチの厚さの装甲甲板に繋がり、外界に対して完全に砲及び砲員を保護するものとなっています。 これは落角が大きい上方よりする弾丸及び榴弾の被害に対して防御を完全にする必要からです。

上甲板以上の中口径砲に対しては依然として砲廓式を採用するのが一般的で、「鹿島」型においてその後面を省略した装甲隔壁(Armor Screen)式を採用したのは例外と言えます。

司令塔の防御は最も重用しされるべきところであり、12インチ甲鈑によってこれを囲むのが普通でした。 「薩摩」以降の旧海軍の装甲艦においては司令塔の後面に接してやや高い位置に砲火指揮塔が設けられています。



   主砲の防御


主砲の防御は敵主砲弾に対抗し得ることを標準とし、その装甲の最高厚は水線装甲に同じく当時は12~9インチであるのが一般的でした。


主砲の防御は次の2つに分けられます。

ア.砲及び砲員を保護する「ターレット」(Turret)

イ.操砲機関及び旋回軸を保護する「バーベット」(Barbette)

「ターレット」は砲と共に旋回し、「バーベット」は船体に固定されるもので、この様な防御法とするのは巨大な砲身と大きな旋回角のために副砲の様に固定防御装置によって保護しようとすると大きな切りかけを必要とし、完全な防御を期待し難いためです。

英海軍の Royal Sovereign 以前においては「ターレット」又は「バーベット」のいずれか一つを有するのが一般的でしたが、同型以降においては各国海軍共に両者を併用し、主砲防御の方法はこれで一定するようになりました。

「ターレット」はその側壁でも8~12インチ、天蓋においても3~4インチの厚さを有しており、「バーベット」の側壁もこれに準ずるものとなっています。

ただし、「バーベット」はその下端に行くに従って漸次その厚みを減じ、最下端は防御甲板に接続されます。 これはその中部以下は舷側の装甲により多少の防御を得られるためです。

下表は「ターレット」及び「バーベット」の装甲厚の例です。


艦  名 ターレット バーベット
King Edward VII  12”(NC) 8”
Load Nelson  14”(NC) 8”
Dreadnought  11”(KNC) 8”
Temeraire  12” 8”
薩  摩  12” 8”

NC : Non-cemented、  KNC : Krupp Non-cemented


   副砲の防御


副砲の防御法は次の3つです。、

ア.砲塔式

イ.「ケースメイト」式

ウ.「ボックス・バッテリー」式

砲塔式は仏及び露海軍が採用しており、後の2つは日・英海軍などで用いられています。

これらの型式の違いは主として副砲についての砲戦術上の見解によるもので、砲塔式は高位置と大旋回角が得られる利点があるものの、戦術上の主要な要求である発射速度を減じることとなり、副砲搭載の大目的には副わない不利があります。 そして他の2つの型式においては、その利害はこれと全く反対のものとなります。

したがってこれらの型式による利害は極めて明白なものであり、依然としてこれらが両立する理由ですが、戦術上の見地からするならば後者の2つが極めて合理的であると言わざるを得ません。

これは、艦隊戦闘は主として舷側にて戦われるものとするのが常識とされますので、このため旋回角が甚だしく大きいことよりも、後者の型式においても旋回角120度を得ることが容易であるとするなら、むしろ発射速度に重点を置くことが有利とするからです。

副砲防御の標準は敵副砲に対抗することとされ、通常は6~8インチの甲鈑を用いますが、これは重量の関係上やむを得ずのものであり、副砲台といえども敵主砲弾を被らないとは限りませんので、当然ながら防御としては完全といえるものではありません。

砲廓式は「ボックス・バッテリー」式採用以来、専ら上甲板装備の副砲にのみ用いられるもので、「朝日」型以前の軍艦のように全副砲を砲廓により防御するものにあっては、重量の節約上その背面の厚さを少なくするのが一般的で、反対舷から飛来する砲弾にたいしては防御薄弱となることは免れません。

「ボックス・バッテリー」式には次の2つがあります。

ア.Open Box Battery

イ.Sub-divided Box Battery

両者の違いについては次の図をご覧下さい。









頁トップへ

初版公開 : 01/Apr/2018







明治40年代

  砲戦の基本要素

  軍艦の砲装

  軍艦の防御

    総 説

    水線防御

    水上部防御

    水中部防御

    結 論

  軍艦の速力

  砲火指揮法

  射 法

  射撃教育

  砲戦要務

  戦 術