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九一式時限信管



九一式時限信管は、八九式時限信管を改良した口径8〜20糎の中口径砲弾用の弾頭時計信管で、次の種類があります。


種   類 兵器採用年月 使   用   砲   種
 九一式時限信管  昭和7年3月  五十口径三年式二号二十糎砲
 五十口径三年式二十糎砲
 短二十糎砲
 六十口径十五糎五砲
 五十口径毘式、四一式十五糎砲
 五十口径三年式十四糎砲
 四十口径十一年式十四糎砲
 五十口径三年式十二糎七砲
 四十五口径十年式十二糎高角砲
 四十五口径三年式十二糎砲
 短十二糎砲
 五十口径八八式十糎高角砲
 九八式十糎高角砲
 九八式八糎高角砲
 九一式時限信歯輪付  昭和7年11月  四十口径八八式十二糎七高角砲
 四十口径八九式十二糎七高角砲
 九一式時限信管改一  昭和8年9月  (九一式時限信管に同じ)
 九一式時限信管歯輪付改一 (九一式時限信管歯輪付に同じ)


本信管を使用する弾種は基本的に通常弾、時限演習弾及び照明弾ですが、各使用砲種における使用弾種の詳細については 艦砲・弾火薬組合せ一覧 の項をご覧下さい。


なお、本信管には管帽薬が内蔵されていないため、弾丸に装着する際には 九一式伝火筒 (改一) と組み合わされて使用されます。



 

 九一式時限信管

  ● 概 要


本信管は八九式時限信管を改良し、筒内安全を高めるたに遅動薬を付加したもので、昭和7年3制式採用された本シリーズの最初の型式です。  時計装置を内蔵し、発砲時にその慣性を利用して安全装置の一部を解扼するとともに時計を発動させ、調定秒時に達した時に打針を突出させて発火するものです。

構造及び作動については、基本的に九一式時限信管改一と同じですので当該項目で説明いたします。


  ● 要 目


知られている要目は、次のとおりです。


   全長            : 75 mm

   最大径          : 58 mm

   筒中安全遅動秒時   : 0.5 秒 +0.25 〜 −0.30 秒

   目盛分割         : 0 〜 55 秒



品  名 薬  種 薬  量
雷  管  発薬(三味)  0.06 g
伝 火 薬  黒色小粒薬 1.2  g 


なお、仕様上の調定秒時に対する作動誤差は次の通りとされていますが、実際の実射試験による結果は平均 ±0.15 秒です。


調定秒時 (秒) 誤  差 (秒)
10
20 − 0.3
30 − 0.5






 

 九一式時限信管歯輪付

  ● 概 要


九一式時限信管を四十口径十二糎七高角砲の信管自動調定装置で使用できるようにしたもので、それ以外は全く同じものです。 改造要領は次の通りです。


1.信管外筒の外周に歯輪を付加 (信管自動調定装置の調定歯弧と噛み合うようにするため)

2.外筒及び管体の外周にある2個の秒時調定用突子を除去

3.安全留針は55秒に調定して挿入



(矢印で示すのが信管秒時調定用の歯輪。 右図は参考として九八式時限信管での例です。)







 

 九一式時限信管改一

  ● 概 要


九一式時限信管の発火をより確実にするために結合鈑を改造し、かつ振子止を付加したものです。




  ● 要 目


九一式時限信管に同じ。



  ● 構 造


( 戦後の米海軍史料より )


( 旧海軍史料より )



1.管頭、外筒、緊締環、管体、安全留針よりなり、外筒には時限 (秒時) が0から55まで刻まれています。 また外筒及び管体には時限調定用突子が各1個付いています。

2.管頭を外すと墜打軸があり、また外筒上面には起動発條捲回用の鍵孔及び時限孔があります。

3.管体下縁には2個の小孔があり、小さい方が安全留針挿入孔で、大きな方が遠心子の脚部及び安全留針の覘孔です。

4.内部には規正鈑、規正金、結合鈑、同 止栓、時計装置、安全装置、打針及び雷管があります。

5.管体底部には塞底がねじ込まれていますが、この塞底は内外二重となっており、内塞底には信管秒時が0の時に早発を防止するための遅動薬(0.4秒)が入っており、外塞底には塞底薬が充填されています。

6.規正鈑突子は外筒の時限孔に挿入されていますが、規正鈑は起動軸とは回転運動を一緒には行わず、結合鈑は起動軸頭部の縦溝に挿入され、発砲時に墜打軸により打ち込まれた時に規正鈑及び規正金により起動軸と同一回転をするようになっています。

7.安全装置は次のもので構成されます。

(1) 安全留針
上脚によって激動による墜打軸の下降を防止し、下脚によって安全栓の下降及び遠心子の開放を抑止しています。

(2) 安全栓
打針支持挺及び歯輪留動子を制扼しています。

(3) 遠心子
打針の鍔の下方に突出しており、発條の力により常にその位置を保持しています。 これにより、安全留針を抜き、かつその発條力に優るだけの旋転力が与えられない限り、打針が下降できないようになっています。



  ● 作 動


( 左図は旧海軍史料からのもの、右図は戦後の米海軍史料によるものです。)



1.鍵 捲
安全留針を挿入したままで管帽を外し、鍵捲用把手を鍵孔に挿入して回すと発條筐が回転して起動発條が圧縮されます。 この時歯輪筐留歯輪の欠歯部が歯輪筐に対向しますが、捲き終わって把手を緩めると歯輪筐が僅かに反転し、留歯輪の大歯車に押さえられてその位置で止まります。

2.秒時調定
信管目盛加減器(又は信管秒時調定装置)で秒時を調定すると、外筒、規正鈑、規正金は調定秒時に応じて回転し、規正金の外周切欠部が打針支持挺の先端と所要の角度(=調定時限)になります。

3.発 砲

(1) 安全留針を抜いて発砲します。

(2) 墜打軸はその発條を圧縮して後退して結合鈑を起動軸に打ち込み規正金と結合させ、同時に規正鈑を屈強してその一端の時限調定用突子を時限孔より脱出させて調定時限を設定します。

(3) 安全栓はその発條を圧縮して下降し、歯輪留動子の押さえを解きます。 これにより歯輪留軸は発條力により回転し、従って歯輪留動子は安全栓鍔の上方に回転して安全栓の上昇を扼止し、これにより打針支持挺に対する押さえを解きます。

(4) 歯輪留軸の回転により歯輪留が開放され、時計装置の歯輪に対する押さえを解くことにより時計装置が発動します。

(5) 時計装置の発動により、起動軸、規正鈑及び規正金が回転を始めます。

4.弾丸飛行中
弾丸の旋転力が1500回転/分に達すると遠心子はその発條を圧縮して開放し、打針の押さえを解きます。

5.調定時限経過時

(1) 規正金切欠部は打針支持挺の先端に対向することにより、同発條の力により後退して打針の押さえを解きます。 これにより打針はその発條の力により突出して雷管に撃突、発火させます。

(2) 雷管の火勢は、速火線、伝火薬、遅動薬、塞底薬の順で延焼し、内塞底の下方にある2個の孔より外塞底塞底薬に移り、外塞底下面の円孔から噴出して伝爆薬を経て炸薬に点火します。







 

 九一式時限信管歯輪付改一

  ● 概 要


九一式時限信管歯輪付と同じく、九一式時限信管改一を四十口径十二糎七高角砲の信管自動調定装置で使用できるように歯輪を付加したもので、それ以外は改一と全く同じです。 また、歯輪を付加するための改造要領も、九一式時限信管歯輪付と同じです。





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 最終更新 : 04/Jan/2015