トップ頁へ 砲術講堂メニューへ 砲術あれこれメニューへ



速射砲とは



  論    点


  多田氏 :

速射化といっても中口径砲以上の場合は機関銃のように自動的に装填・発射するのではなく、砲弾と発射薬カートリッジを手動で素早く装填し発射するのである。したがって砲の場合は速射 (クイック・ファイアリング) というよりは砲尾機構・装填方法の改善による速装填 (クイック・ローディング) という方が適当だろう。

( 『軍事研究』 H17.11 p101 )



  遠藤氏 :

(多田氏は) 「砲尾機構、装填方法の改善による速射砲を生んだ」 と説明しているが同じ速射砲という用語を使用していても、時代により、その内容が異なっている。第1次の速射砲とは装架方式の採用の意味である。

( 『軍事研究』 H18.1 p190 )




  解    説


ここで問題となっているのは “速射砲とは何か” ということ、即ち 「速射砲」 という用語の “定義” についてです。

遠藤氏は上記のように 「時代によりその内容が異なっている」、「第1次の速射砲とは装架方式の採用の意味」 と言っています。

では 「時代によりその内容が異なっている」 と言うことが遠藤氏お得意の何かの “公式史料” に基づいているのでしょうか? 少なくとも、私はその様なことが書かれているものを見たことがありません。 その様なものがあるなら是非知りたいところです。

また、装架方式の 「装架」 とは何を指すのでしょう? 英語で言う “Mount” でしょうか、それとも “Carriage” でしょうか。 あるいは、日本語の 「砲架」 と同じ意味なのでしょうか。 判りません。 それに、遠藤氏はこの “ 第1次の速射砲 ” というものを、学研の当該書を含めてキチンと説明しておりません。

遠藤氏がもし 「速射砲」 というものについて ご自分で独自の定義をされる のであればそれをまず明確にしなければ、ご自分一人の頭の中にある定義で議論されても他人にはサッパリ通じません。

そもそも 「速射砲」 という用語は本当に時代により変わってきたものなのでしょうか?  残念ながら “否” です。  当然ながら、第1次や第2次などというものもありません。 確かに 「速射砲」 を意味する英語の原語は当初 “Quick-Firing Gun” と “Rapid-Firng Gun” の両方が使われましたが、すぐに後者の方に落ち着きました。 もちろんこの2つの英語はどちらも同じものを指しています。 そして我が国ではこれを 「速射砲」 と訳して使ってきました。

それでは、この 「速射砲」 と言うものがどういうものを意味するかと言うと、軍事に関する一般常識では 全面的に多田氏の書いていることが正しい のです。 多田氏は上記の引用箇所の後に、キチンと砲の砲尾機構 ・装填方法の改善について具体的 ・時系列的に書いていますが、このことが砲の速射化のことであり、かつこの改善が図られた砲のことを砲熕武器の世界では “Rapid-Firing Gun” と言います。

そして “Rapid-Firing Gun” という言葉が生まれて以来、この言葉が上記の意味以外で、例えば遠藤氏が言うような砲架や砲塔に関係して使用されたことは一度もありません。

例えば、明治35年(1902)の海軍兵学校の 『砲術教科書 巻之一』 では、「砲熕の種別」 の中で次のように記述されています。


速射砲とは、絶えず目標を注視し手力を以て装填し尾栓の開閉最簡にして、能く少数の人員を以て敏速に発射し得るべきものにして、多くは金属製薬莢を用う。
速射砲は、水雷艇の進歩に従い機砲の力能く之を防ぐに足らざるに至や之が代用として Hotchkiss の始めて発明せるものにして、爾来各国之が製造改良に汲々として、今日に於いては小は47粍口径より大は8尹に至まで速射装置を応用するに至れり。
我海軍に採用するものは安式及び保式の2種とす。



また、旧海軍の砲熕武器の権威 谷村豊太郎元技術中将・東大教授の手になる 『砲塔砲架論』 の講義資料が残されていますが、この中には砲塔・砲架の発達が速射砲の誕生などと言う記述は、当然のことながら全く出てきません。

因みに、現在の 海上自衛隊 では 「速射砲」 を 「発射速度を高めるために自動又は半自動化された装填装置を有する砲をいう。」 と定義しています。 即ち、19世紀の後半に使用され始めた “Rapid-Firng Gun” と今でも基本的には同じです。






話題メニューへ 前頁へ 頁トップへ 次頁へ

 最終更新 : 03/Jul/2011