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軍艦こんなことあんなこと |
第1話 軍艦の諸状態 |
第2話 臨戦準備と合戦準備 |
船体、艤装、機関、兵器等完備したる上に、弾薬、燃料、罐水、給水、衣糧品及び消耗品等の定量を搭載せるときの状態なり。
(華府会議以前においては、この状態において計画し排水量を云々する場合は概ねこの状態におけるものを言えり。)
常備状態における前記一定量の弾薬、燃料、罐水、給水、衣糧品及び消耗品を全部取り去りたる時の状態にして、乗員が艦内に生活し得ざる場合なり。
(この極端なる場合を規定する理由は、長期の戦闘、遭難により殆どこの状態に接近せんとする際における船の性能を研究する資料となすためなり。)
前記常備状態における一定量の諸搭載物品を庫量及び場所の許す限り満載したる状態なり。
(遠洋航海、戦場に向かう場合はこの状態に接近す。)
以上の三状態は華府会議以前に計画の艦船に用いられ、諸公試は常備状態にて行われたり。 然るに、華府会議において基準状態を定め排水量算出の基礎とせられ、また公試に対しては我海軍にては別に公試状態を制定し、其の後計画の艦船には軽荷、基準、公試及び満載の四状態を用う。
工事完成し、乗員を充実し、機関を据え付け、且つ航海準備 (一切の武装、弾薬、常備品、艤装品、糧食及び清水、各種需品、並びに戦時において装備すべき各種の要具を含む。) 完成し、ただ燃料及び予備給水を搭載せざる状態なり。
公試を行う状態にして、「新造艦艇公試方法」 によりその吃水を規定せらる。
即ち、軍艦、駆逐艦の公試運転及び旋回力公試にありては、完備状態において兵器、弾薬を満載し、燃料、予備水、糧食及びその他の消耗品は計画満載量の三分の二を搭載せる状態に相当する吃水にて、また潜水艦水上諸試験にありては、予備燃料 「タンク」 たる 「メンタンク」 に燃料を搭載せざる状態に相当する吃水にて施行す。
艦 型 | 軽 荷 | 基 準 | 常 備 | 公 試 | 満 載 |
長 門 級 | 0.92 | 0.97 | 1 | 1.09 | 1.15 |
球 磨 級 | 0.88 | 0.92 | 1 | 1.15 | 1.26 |
一等駆逐艦 | 0.83 | 0.91 | 1 | 1.19 | 1.33 |
一等潜水艦 | 0.90 | - | 1 | - | 1.07 |
軍艦戦時に際し、その戦闘力を完備するを 戦闘準備 と言い、これを行うに当たりその緩急の程度に応じ分かちて 臨戦準備 及び 合戦準備 とす。
臨戦準備とは、戦時に際し軍艦を充実し且つ不要の物件を陸揚げする等、戦闘に必要なる諸般の準備を完成するを言い、これを二期に区別し、第一期にありては主として船体、機関、兵備品、その他属具の修理、手入れ、検査、兵備品等の充実を行い、第二期にありては戦時不要物件の陸揚げ、艦内における物件の移動、格納、その他戦闘に必要なる諸般の設備を行う。
臨戦準備の令あらば、先ず次の事項を処理す。
1.乗員に上陸を許可しある場合には、これを帰艦せしむ。
2.多数の公用使及び短艇を準備し、交通用弁の迅速を計る。
3.船体、船具、兵器、機関、測器等の修理中にあるかもしくは修理を要するものにして、特に戦闘、航海に必要なるものは速やかにこれが竣成の手段を採り、もしくは引換の手続をなす。
4.兵備品取扱主任は、所管兵備品を充実する手続をなす。
5.乗員の健康診断を行い、その状態戦闘に適せざる者は退艦手続をなす。
6.欠員に対する補充を要求す。
臨戦準備に関する一般の注意概ね下記の如し。
1.兵備品搭載について
(イ) 弾薬、石炭等を定量以上に搭載する必要を生じたる場合に応ずるため、予めその位置、搭載量並びに吃水増加の度を調査し置くこと。
(ロ) 兵備品搭載に使用する短艇には艦名を標示する旗章等を掲ぐること。
(ハ) 兵備品は各種ほぼ同日数を支持する如く搭載し、これを必要の都度に止め、吃水を過度に増加せしめざること。
(ニ) 船体、兵器、機関等は出来得る限り艦内にて修理するため、これに要すべき応急修理材料を搭載し置くこと。
2.物件陸揚げについて
(イ) 乗員の健康を害し、または生活状態を甚だしく不快ならしめざることに顧慮すること。
(ロ) 機械室、罐室、倉庫等に必要なる通風を妨げざること。
(ハ) 応急修理、浸水遮防等のため所要の材料を残すこと。
(ニ) 保安上の設備を減ぜざること。 即ち Spare Anchor 等は陸揚げすべからず。
(ホ) 根拠地もしくは仮根拠地より出動し直ちに会戦を予期する場合には、短艇の大部分並びに舷梯等を港務部その他に依託するを可とすること。
(ヘ) 陸揚げ物件の品目、数量等は平時より予定し置くこと、且つ陸揚げするに当たりては品名、艦名を標記せる木札を丈夫に縛着し置くこと。
3.物件の移動、格納について
(イ) 保護を要すべき重要物件は水線防護部内に移動、格納すること。
(ロ) 戦闘上必要ならずして乗員の動作を妨げ、または破片となりて飛散し易き物件は、状況に応じ舷外あるいは前後上甲板等に固縛すること。
(ハ) 戦闘間急速使用を要する物件は、容易に取り出し得る如く処理すること。
(ニ) 移動、格納を要する物件の品目、数量、位置等は、平時より予定し置くこと。
臨戦準備完成後注意すべき事項
1.準備を解弛せざること、ただし必要ありて準備の一部を徹したるときはその事故去りたる後直ちに復旧すること。
2.特に弾薬、火工品等の状態に注意し、時々魚形水雷の装気を補い置くこと。
3.時々照準器、通信諸装置、電気器具等の検査を行うこと。
4.平素必要ならざる防水扉、防水蓋堰、堰戸弁等の類は必ず閉鎖し置き、もしこれを開放したるときはその必要去りたる後直ちに閉鎖し置くこと。
5.機動艇を揚げたるときは、常に点火用意をなし置くこと。
6.臨戦準備完成せば主機械の試運転を行い機関の効力を現認し、また羅針儀の修正を行い自差を測定すること。
7.戦機切迫し出征の途次第2期作業を施行する場合、止むを得ざる時は戦時不要の物件を適宜海中に投棄することあるべし。
合戦準備とは、敵と接触するに先立ち、臨戦準備に加えるに更に戦闘に必要なる諸準備を整えるを言う。
合戦準備は号音もしくは号令によりて一斉に作業し、短時間に完成すべきものなれども、その前後適当の時期において次の諸作業を行うものとす。
1.昼間戦において必要ならざる小口径砲及び機砲の全部もしくは一部を水線下防護部内に移す。 ただし、要するとき急速復旧に便利なる位置を選び、且つ毎日日没前にこれを固有の位置に備えるを要す。
2.昼間戦にありては、探照燈及び特設抵抗器を水線下防護部内に移す。 もしその全部を防護部内に移すこと能わざるときは、硝子及び炭素保器等のみを収む。 ただし、毎日日没前にその位置に復するを要す。
3.銃器を水線下防護部内に収め得る艦にありてはこれを格納す。 ただし、一部は急速使用し得る所に置くを要す。
4.臨戦準備において装備したるものの外、なお Mantelet を所定の位置に装備し、また釣床を用い防護部外にある小口径砲、機砲、発射管、弾薬、探照燈、機関、羅針儀、その他重要なる物件、並びに人員を保護す。
5.帆、天幕を用いて短艇を下方より包み、且つ Boat Ball 等の索具をもってその上を回し、橈艇、櫓艇に少しく海水を容れ戦闘近づきたるときその外囲の帆布を濡らすに供す。
合戦準備の主なる作業、次の如し。
1.人員の動作及び兵器、機関の使用を妨ぐべき物件の処置に関する作業
(イ) 短艇を Crutch に収めて繋止し、その Davit の Block を外して艇内に卸す。
(ロ) Stanchion 及び Ridge Rope を外し乗員の動作を妨げざる位置に固縛す。 ただし Hand Rail はこれを外したる後直ちに敵と会戦せざるとき、または夜間哨戒中にありては人員保安のためこれを立て置くを例とす。
(ハ) 砲水雷の使用、弾薬の供給等に妨げとなる Stay、Back Stay、Rigging 等の静索を外し、これを檣又は他の静索に縛着す。
2.船体、船具、人員、兵器、機関等を保護し、その損害を減ずべき施設に関する作業
(イ) Swinging Boom、Propelller Boom その他舷外に突出する器は総べてこれを収め、Boom-gear を外し、敵弾のため破壊さるるも墜落、垂下せざる様固縛す。
(ロ) 下層防護部内にある無線電信室を整備す。
(ハ) 不要なる動索を抜き取り、存置を要する動索は付近の檣、静索等に回し数箇所にてこれを結止する等、敵弾のため切断墜落するを防ぐ。
(ニ) Derrick の索具に Frapping 及び Seizing を施し、且つその Block の落下せざる様固縛す。
(ホ) Anchor Davit を倒して固縛す。 また錨を固縛し、錨鎖は必要に応じ解脱して錨鎖庫に収む。 碇泊中にありては必要に応じ揚錨の準備をなす。
(ヘ) 昇降口及び天窓にして発砲のため破損する虞あるもの、または戦闘中全然不要なるものはその鉄蓋を閉鎖し、手摺等の金具を外して収む。
(ト) 通風筒は気醸その他に必要なるものの外これを取り外し、乗員動作の妨げとならざる所に固縛し、甲板の通風口を閉鎖す。
(チ) 防水扉、防水蓋、甲鉄蓋、甲鉄格子、舷窓盲蓋、堰戸弁、自動閉塞弁等は必要なるものの外総べて閉鎖す。 ただし、会戦の時期切迫せざる間は舷窓の一部を開き、あるいは通路として一舷防水扉を開くことあり。
3.防水、防火、応急修理、傷者救護及び供食準備に関する作業
(イ) 消防主管の吐水口に蛇管を取付く。 ただし、砲側にある蛇管は砲身冷却、消火の両用を兼ねるものなるが故に各吐水口に蛇管一本を取付け、残余の蛇管及び吐水管はその付近に備え置くものとす。
(ロ) 防火用として各浴槽に満水し、中甲板以下の各防水区画並びに上甲板以上に海水を満たしたる洗濯桶及び Swab 若干宛てを備う。
(ハ) 防水蓆及び補修具を前後において上甲板定所に備う。 一箇所に備うべき補修具、次の如し。
Jigger 2、 Luff 2、 Selvage Stop 4、 Snatch Block 1、
約2吋鋼索 若干、 斧 2、 鋸 1、 鉄鎚 1、 釘 若干、
鎹 若干、 木板 若干
(ニ) 弾孔塞栓並びに防水用の支柱、木板楔子等を防護部内所定の位置に備う。 もし防護部内に備えることを得ざるときは、釣床類を用いてこれを保護す。
(ホ) 各油燈及び蝋燭燈を点ずる準備をなす。
(ヘ) 戦時治療所を整備し、要具を備う。 ただし、大艦二箇所、小艦一箇所とす。
4.兵器、器具の使用準備に関する件
砲及び発射管は操式の規定によりて準備し、尾栓冷却用清水を砲側に備え、また別に薬室膅中洗浄用石鹸水入 Bucket を準備し、砲火指揮に要する諸装置を整備し、弾薬庫を開き、Mat、Tackle 等の要具を備え、揚弾薬機の試運転を行い支障の有無を検し、各砲に装薬を供給す。
5.大檣頭揚旗線に戦闘用軍艦旗一個を準備す。
最終更新 : 14/Apr/2006