書籍名 :『日本戦艦物語〔T〕』
       (福井静夫著作集−軍艦七十五年回想記 第1巻)

   著(編)者 : 福井静夫(阿部安雄、戸高一成)
   出版社  : 光人社
   初版日  : 平成4年
   全頁数  : B5判 352頁
   ISBNコード: 4-7698-0607-8

● 書籍解説

本書は、旧海軍の元技術少佐であり戦後は艦艇研究家として名を成した故福井静夫氏が、約60年の長きにわたって各種の刊行物上で現してきたものの総集編として、現在までに12巻にわたり纏められたものの第1巻です。

とは言え、その名のとおり新しいものは全くなく、かつて雑誌『丸』等に掲載されてきたものをそのままの形で集めただけのものです。 したがって、初心者向けの入門的なものばかりで、本格的なものはほとんど言って良いほどありません。

何度も言います。 それでは福井氏が昭和33年以来公言し続けてきた『日本海軍艦艇総集』とは何だったのかと。

福井氏は自分のライフワークとしてこの『日本海軍艦艇総集』を必ず世に出すと公言しました。 そしてそのために福井氏に今に残れる資料を預けてくれと。 結果論として、福井氏は何をしたのか? かつての立場を利用して国民の財産たる旧海軍資料を独占し、そして更に『日本海軍艦艇総集』公刊を餌にして多くの人々からも資料をかき集めて、それをいったい何に使用したのか?

福井静夫著作集』が刊行されると聞いたとき、私は既に出版されてきたものに加えて、かなりの部分はこの『日本海軍艦艇総集』のために書き貯めてきた原稿が占めるものと期待していました。 しかし、その原稿なるものは現在出版された12巻までにただの1頁さえ掲載されておりません。 写真集にしても、遂に満足なものは出されることはなく、最後は『海軍艦艇史』を完結することなく『写真集 日本海軍全艦艇史』なる中途半端なものを出して終わりとなりました。

と言うことは、60年の長きにわたって、福井氏は延々と公言してきた『日本海軍艦艇総集』の公刊準備は全くしてこなかったと言うことではないのでしょうか? 即ち、残された旧海軍資料を集めて独占するためだけに利用したと言われても仕方がないと言うことです。 実際、福井氏は生前にはこうして集めた旧海軍資料を自分が “艦艇研究家 福井静夫” として利用する以外には、他人には全く公開も利用もさせてこなかったわけですから。

そしてこの『福井静夫著作集』の内容は皆さんご存じのとおりです。 初心者ならともかく、少なくとも旧海軍艦艇を研究する人々にとっては全くの子供だましのものでしかありません。 たかだかこのようなものが福井氏の総決算なのでしょうか。 昭和33年以来延々と待たされ続けてきた者にとっては、呆れてものが言えないというのが、正直なところです。

更に大きな問題は、この福井氏の行為によって旧海軍艦艇の真実の全貌は遂に永遠の闇の中に葬られてしまったのです。 “艦艇研究家 福井静夫”の名声だけを残して。

しかも、その福井氏が集めた旧海軍資料は彼の死去後どうなったのでしょう? 例えば写真などは、福井氏は『日本海軍艦艇総集』刊行後は誰でもが容易に入手できる手段を講じると公言していました。 写真以外の資料でもそのほとんどは元々旧海軍の公的な文書類であったはずです。 当然私達は福井氏の死去後はそれらの資料は防衛庁防衛研究所や国立国会図書館など公的機関に寄贈されるものと思っておりました。 しかしながら、福井氏はそのような自己の死去後の処置については何も取られなかったようで、氏の死去後遺族の手によって多くの保有資料は呉の『海事資料科学館』に “売却” されてしまいました。




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