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射撃理論の応用




ここでは、前章までの射撃理論の応用として、照明弾射撃と対地射撃 (対地支援射撃) について簡単にご説明いたします。 ただし、それぞれの射撃の実施要領などについては別項とすることとし、射撃理論にかかわる概要のみと致します。

とはいっても、基本的にはこれまで説明してきた射撃理論から踏み出るものは全くありませんで、単にそれの応用に過ぎません。



 照明弾射撃


照明弾射撃 とは照明弾を使用して目標を照明する射撃のことを言い、旧海軍では 星弾射撃 ということもありました。 また、この照明弾射撃によって照明された目標を射撃することを 照明射撃 と言います。

探照燈 (サーチライト) によって照射された目標に対して射撃することは正式には 照射射撃 と言い、照明射撃とは区別されます。

3インチ砲及び5インチ砲において、それらの照明弾は次のとおりです。


 砲   種 3インチ砲 5インチ砲
 有効照明時間 25〜30秒 45〜60秒
 有効照明半径 約150ヤード 約200ヤード
 降下速度 6〜10フィート/秒
 光   度 14万燭光 60万燭光


この照明弾をもってする最適の照明点は、次のとおりとされています。

(ア) 左右方向 : 有効照明時間の中央期において自艦と目標と照明弾が1つの鉛直面にある
(イ) 遠近方向 : 目標の遠 1000〜1300ヤード (対地射撃にあっては目標の直上)
(ウ) 上下方向 : 照明開始高度 1000〜1500フィート


この照明点に必要な発砲諸元において、苗頭計算には次の2つの方法があります。

(ア) 追加苗頭方式 : 照明弾苗頭 = 通常苗頭 + 追加苗頭
(イ) 全量苗頭方式 : 上式の右辺を一括して計算


照尺角は、R+1000〜1300ヤードに対する砲軸角に、次の砲仰角を加えた値となります。 この際、砲軸角は弾道の不易性を利用し、水上目標に対するものをそのまま射表から求めます。

   tan (追加砲仰角) = 1000〜1500フィート /(R + 1000〜1300ヤード)


弾道の不易性については、本初級編 「弾道理論」 中の 「砲外弾道」 の項を参照して下さい。

一例として、射撃指揮装置Mk−63と5インチ砲を以てする射撃の場合を示すと下図のようになります。




照明点については、私が射撃学生の頃も上記のように教えられました。 確かに、大型目標に対しては照明を後に持っていき、目標をシルエットの如く浮かび上がらせるという基本的な方策としてあり得ると思います。 しかしながら、今日においてはその様な大型目標に対して照明弾射撃を実施する可能性はほとんどありません。 逆に可能性としてあり得る 小型高速目標に対しては、照明点を目標の直上又はやや近にして目標を直接照明する方が有効 と考えます。 訓練射撃においてオレンジ色の幕的を使用する場合などは特に然りです。 実際に私はこの考え方で実施してきましたが、全く問題ありませんでした。



 対地射撃


対地射撃は、「陸上射撃」 あるいは 「対地支援射撃」 (NGFS、Naval Gun Fire Support) とも言われることがあります。 旧海軍においては 対陸上射撃 と呼んでいました。

対地射撃は、艦の照準器 (砲側又は射撃指揮装置) により射撃目標を直接照準できるかできないかによって 直接射撃間接射撃 に区分されます。



(1) 直接射撃


射撃艦によって目標を直接照準可能な場合に実施される方法で、初照尺・苗頭の算定は水上射撃に準じます。

陸上目標は海面上からある高度 (標高) を有しますが、通常これは射距離に比べれば小さく、したがって目標高角も小さいので、「弾道の不易性」 を利用することにより特にこのための修正措置は採らないのが一般的です。

この弾道の不易性を利用することによって生じる誤差については、通常の射弾修正の中で修正していきます。 ただし、射撃指揮装置によっては対地射撃機能 (モード) を有するものでは、これの補正計算を行っているものもあります。


(2) 間接射撃

  海図利用射撃

海図 (対地射撃用のグリッドなどが記された海図) を利用して、射撃指揮装置により発砲諸元を計出出来る場合に行われ、海図による測図距離と目標高により初照尺・苗頭を決定する方法です。




この射撃において、海潮流がある場合には、その流向・流速を的針・的速として調定します。 もちろん、射撃目標そのものが動いている場合にはこれを加味することは言うまでもありません。

射撃指揮装置の中にはこの海図利用射撃の機能 (モード) を保有しているものもあります。



  仮標射撃

射撃目標を直接照準できないかわりに、その近傍に替わりとなる直接照準可能な目標がある場合、それを 「仮標」 として射撃目標の位置決定ができるときに実施される方法です。




仮標射撃には、仮標に対して直接射撃に準じて試射を行い、これに仮標と射撃目標との差違を修正して初照尺・苗頭を決定する場合と、試射を行わない場合とがありますが、基本的な要領はどちらも同じです。

即ち、仮標に対する射撃に必要な諸元に、自艦、仮標、目標の相対関係位置に応じた適切な修正料を加味して、射撃目標に対する発砲諸元とするものです。




( 射撃理論 初級編 完 )







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最終更新 : 15/May/2015