射表の使用法 (射撃計算) その4




   その前に
   射表の構成
   空気密度による射距離誤差
   砲齢による初速差
   例題による射撃計算
   補足事項  (現在の頁)




 補足事項


ここまで、射撃理論の弾道修正について、そして5インチ/38口径砲を例にして実際の射表による射撃計算について説明してきましたが、これらは一般的な弾道に関するものでした。

そこで、最後にこの弾道修正において、これまで説明してきた以外に考慮を要する事項について、いくつかを取り上げることにします。



 (1) 照尺と射表との相異の修正


使用する射表が最も新しいものであり、かつ砲側の照準器には旧式の照尺が装備されている場合には、照尺と使用射表との間には、計算した照尺距離に対して砲側の照尺に調定する距離を修正する必要があります。

これは特に弾丸が改造された場合などにこの問題が生起します。 ただし、これは先にご説明した射表編纂上の初速と砲側の照尺に刻まれている初速の違いとは別の問題ですので、間違えないで下さい。

この問題の修正の要領は、次のとおりです

a. 最新の正規の射表から求めた照尺距離に対する仰角を 「分」 で求める。 (=射表の第2a欄を使用)

b. 砲側照尺の基礎となっている古い射表によって、この仰角に相当する照尺距離を求める。

c. 最新の射表で計算した照尺距離と古い射表で求めた照尺距離との差が修正量になります。




 (2) 照準点修正


照準点修正とは、例えば夜間やあるいは特異な視界の場合に必要になります。 照準点は目標の水線部中央が望ましいのですが、ぼんやりと見える目標の上端部を照準せざるを得ないことがあります。

あるいはまた、目標が水平線より遠方にある場合にも必要になります。

この様な場合、照準点と弾着点とのなす垂直角を修正する必要があります。 この修正は、射表の第19欄を使って射距離の修正に換算することによって行います。



 (3) 砲口高及び地球の湾曲


砲に調定する仰角は、基本的には照準線からの角度となります。 しかし、目標が見えなかったり、照準線が得られない場合 (陸上射撃などの場合に起こりえます) には、仰角は水平面から取らざるを得ません。

この水平面を使用することによって、遠距離射撃の場合には次の2つの付加的誤差を生じます。

a. 地球表面の湾曲によるもの
b. 砲口の高さによるもの


即ち、自艦の位置において地球表面に接する水平面内に目標が存在する場合には誤差は生じませんが、地球の湾曲によって目標がこの水平面より下にある場合や、砲の砲口位置が高いために弾道がこの水平面よりこの高さだけ高くなる場合には誤差を生じることになります。

これらの誤差に対する修正は、一般的には地球の湾曲に関して別に作成された表に基づいて行うことになります。

ただし、これは通常は8インチ砲以上の場合に考慮することになりますが、それ以下の砲の場合には特に修正を要する程の誤差とはなりません。



 (4) 兵器誤差に対する修正


兵器の誤差というのは、その兵器の製造上に起因するもの、組立に起因するもの、そして艦上への設置上のものなどがありますが、用兵者としては平素からその整備・調整に当たって誤差の減少を図る必要があります。

しかしながら、それでも取り除くことの出来ない誤差が残存することは当然のことであって、これは射撃実施において 「弾道の修正」 と言う形を取ることになります。

この残存誤差の主なものは、次のようなものがあります。

a. 測的誤差
b. 射撃指揮装置及び砲の機構誤差
c. 照準装置と砲との平行誤差
d. 信管調定誤差及び信管固有誤差


a.の測距誤差は 「測距中心誤差」 と修正します。 この修正量は普段の射撃における成績から判断することになりますが、これについては射法の解説のところで詳細にご説明します。

b.では、特に射撃指揮装置はその機構上各種の要素を略算し、または省略して発砲諸元を求めている場合がありますので、これ等についてその誤差量が判明している場合にはこれを「弾道修正」として修正することになります。 それ以外の誤差については、普段の射撃における成績から総合的に判断できる場合には、それを修正します。

c.は平行検査によって誤差が判明した場合、修正装置がある砲機ではそれで修正しますが、それ以外では射撃に際してその時々の射撃条件に適合したその誤差を判断することは一般的には困難ですが、a.及び b.と同じようにその誤差量を判断できる場合には修正します。

いずれにしましても、これらの誤差がどのように生起するかはその艦及び砲熕システムよって異なってきますし、一定の理論として表すことも不可能な場合が多く、いわゆる 「誤差論」 が必要となってきます。

したがって、これらの誤差の詳細及びそれの取り扱い法については、射法などそれぞれ必要なところで別途ご説明することにしますが、こういうことも考慮しなければ艦砲射撃の命中率を高めることは出来ない、ということを頭に置いておいて下さい。



 (5) 各種費消時に対する誤差修正


射撃指揮装置及び砲関係員の人為的誤差、即ち主として操作の遅れによって発生する誤差で、その中心となるものが測的時及び射撃計算時から実際に発砲する時点までの時間に起因する弾道の “ずれ” (遅れ) になります。

これも、上記 (4) と同じく、平素の操法訓練や実際の射撃を通じて、その誤差が把握できる場合には修正することになります。







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最終更新 : 14/May/2015







1.概 要

2.弾道基準修正

3.弾道当日修正

4.射表の使用法